参
「寒いんだ…鉄…」
土方は何度も、何度も同じことを言った。脱がせてくれと言い、鉄之助に手伝わせて肌をさらしながら、寒い、寒いと逆の事を。
蝦夷の地の五月は、夜半になれば冬と差がないほどに冷える。肌を剥き出しにした土方が、寒さを感じるのは当然で、鉄之助はどうしていいか判らず、おろおろとするばかりだ。
「か、風邪をひいてはいけません。お願いですから、もう…服を…」
「俺ぁ、裸のままで温まるのがいいと言っているんだ」
軍服を拾って、差し出そうとしていた鉄之助の手は、伸ばされてきた土方の手に捕まってしまった。そのまま強く引かれ、その震える指に、灼熱が触れる。鉄之助は悲鳴のように声を立てた。
「た、隊長…っ」
「…ほんの少しの間でいいから、触っててくれ、鉄。お前は夜、どうやってやるんだ…? それと同じでいい。手で包んで…擦ってくれ…。上下に…ゆっくり…。…ぁあ…」
夜、一人でしていることを言葉にされて、鉄之助はまた、耳まで真っ赤になってしまう。それに、土方は彼の手を、強引に掴んで触れさせ、自分の手を重ねて動かさせるのだ。
手の中で、熱く、ひくひくと蠢いているものが、敬愛する土方のそれなのだと意識して、鉄之助は今にも泣き出しそうに怯えていた。してはいけないことだと、理性では判っているが、上司に逆らうことだって、してはいけない。
どうしていいか判らずに、ただ土方の顔と、それとを見ているしかない鉄之助。そんな彼の目の前で、土方は日頃の彼からは想像も出来ない声を上げた。
「ぁ…、ふぅ…う…ッ、て…つ…っ」
「隊長…」
見れば、土方の先端が震えて、そこにある小さな穴から、雫がぽろぽろと零れている。綺麗な桃色をした性器から、可憐な花の花びらのように、白い白い精液が滴っていた。
「お前と…な? 同じだろう…、鉄。ん、ん…ぁ…!」
上擦った声でそう言って、豪華な椅子の上で、土方は何度も身を捩らせた。鉄之助は上の空で、小さく「はい」と言ったきり、いつしか自分から土方のそれを撫で始めている。
少年の愛撫は、お世辞にも上手いとは言えなかったが、酷く丁寧で優しかった。根元からゆっくりと、小刻みに擦って、ひくついている先端は指の腹で、揉み解すように撫でる。
目の前で喘ぐ土方は、確かに自分の憧れる土方で、目上の上司で、尊敬する隊長で、立派な武士で…。なのにそうであると同時に、あんまり綺麗で色っぽくて、想像したことしかない遊女のような…。
自分から誘って、脱いで、土方は部下の前で脚を広げた。愛撫されて快楽に喘いで、何度も掠れた声を上げる。
鉄之助は必死だった。大事に大事に、両手でそこを包んで愛撫して。奥の柔らかい袋を片手で、固く立った茎をもう一方の手で。
奥を揉んでやると、土方は、く…ぅ…、と喉の奥で鳴いて、鉄之助の前にさらに腰を差し出した。椅子の背もたれからずり下がり、脚をさらに広げ、掠れた声で指示を出す。
「この、腰の下に、そっちの…座布団を。そう…それを」
言われるまま、分厚いクッションを持ってきて、少し浮かせた土方の尻の下に、強引にそれを押し込む。そうすると、自然に腰の場所が高くなって…。
「…もう、嫌か? 鉄?」
仰向けで脚を広げ、どこもかしこも曝した姿で、土方は不意にそう聞いた。鉄之助が彼の前で立ち尽くし、顔を横にそむけていたからだ。聞かれると、鉄之助はそれでも顔を向けて、なんとか土方の方を見て、ぽつりと言う。
「嫌じゃ…ないです…。嫌な訳がない…! だって鉄は、あ、あなたが…、貴方の事を…っ」
激しく言って、それから急に小声になり、彼は途切れ途切れに言葉を続けた。
「でも、もう、どうしていいか…」
まだ若い、幼いと言い換えてもいい年齢で、土方のような大人からみれば、性のことなど何も知らないのと同じだろう。鉄之助は、それを恥じているのだ。
土方は少年の潤んだ瞳を見つめ、広げていた脚を閉じると、椅子の上で身を起こす。そうして彼は再び、鉄之助の手の指に指を絡め、そっと自分の方へと引き寄せた。
繋ぎ合った鉄之助の手は、彼自身の流した精液で濡れていたが、そんなことには構わず、もう一方の手も差し伸べる。
居たたまれなくて、逃げたがる様子の鉄之助の頬に触れ、後ろで髪を結んだ頭を撫でて、それから耳朶を軽く摘んで自分の方へひっぱった。土方はゆっくりと諭すように、言葉を選んで言うのだ。
「なぁ、鉄、お前のしたいようにすりぁあいい。
それが判らなきゃ、教えたようにすりぁあいい。
何にも着てねぇ体と体があれば、赤子でもねぇ限り、誰でも出来ることだよ。だから鉄にも出来る。
…この口を吸ってくれ。
舌を吸わせて、俺の舌も吸ってくれ。
そん時、余裕があったらでいいが、この…鉄の指で、
胸のこれを弄ってくれ。右と左と両方交互に。
鍛えられねぇところだから、あんまり乱暴にしてもらっちゃ困る。
最初はくすぐるようなつもりで、そっと撫でて転がして。
なんにも、難しいことはねぇよ
それと、たった今から、二人きりでいる時は、
隊長なんてぇ肩書きじゃなくて
土方さん、って呼びゃあいい…
…呼んでみな」
「そんな、隊…っ、んッ…」
出来ないと言おうとした唇を、盗むように土方の唇が塞いだ。今さっき言っていたように、まずは土方から鉄之助の唇を吸ってくる。答えようとして、必死で真似て吸うと、喉の奥で彼が笑ったようだった。
やっぱり下手くそだ。望まれたようになんか一つも出来ない、と、鉄之助は落胆しかけて項垂れる。
「最初にしちゃ、上出来だ。お前は剣術も銃もみんな覚えが早かったから、これだってすぐ覚えられる」
「…はい…っ、隊…。ひ…土…方さん…」
そんなふうにして褒められたのは、きっと自分だけだ。だって、隊長が同じように誰かを褒めるのを、今まで一度だって見た事はない。嬉しくて思わず笑顔になると、笑った彼の顔を見て、土方も涼しい目元で小さく笑う。
素直な心で自分に付き従うこの少年の事を、土方は芯から思っていた。年ほど親子のように離れているが、自分の子のようだと感じた事はなく、寧ろ年の離れた弟のようだった。
俺は、弟のような存在に、こんなことを…。
今更のように思ったが、それが彼の一番の願いなら、土方はそれを叶えたいと思う。それほどまでに欲しいなら、こんな体一つ、鉄之助に一晩くれてやるのに躊躇はしない。
そうして本当は、もう一つ土方は思っているのだ。まだ幼いこの少年が、どんなに自分を欲しいのか、どんなに一途に想っているのか、肌で感じたいと。
だから言葉に出来ない胸の底で、非道い上司だ、と彼は秘かに呟くのだ。二人の時は、土方と呼んでいいなどと、そんなことまで告げてやって。
それは残酷なことなのだと、判っているというのに…。
続
一ヶ月以内とか言ったのに、気付けば約束は過ぎてたよっ。ごめんなさいぃ。でもなんとか本日は書けました。しかし一本だけだし、まだ完結してないしっ。
きっとこの連載は五話くらいまでありますね。月に一度くらいのペースなので、気長に待っててやってくれるとうれしいです。って! まだエッチシーン序盤ですけどっ。本当に五話で終わるの?!
それは誰にもわかりません。へこ。
今回、何が楽しかったって、土方さんのセリフが楽しかったですねぇ。優しいんだか妖しいんだか判らない。うちの土方さんはどうやら寡黙じゃないようだ。
そんな彼でもいいと思ってくださる方、可愛くて健気な鉄がイイと思って下さる方、どうか続きを待っててね〜。
07/05/27
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雪白に面影