其は常の褒美にて 4
足袋だけ身に着けた、土方のその姿のせいだろうか。どこかで何かが振り切れたらしい。唐突に、斉藤は言った。
「……あんたの何処にこんなに…? 知らない。俺が、知るはずが無い。どうしてここに来た? どうしてここに来たんだ。止まらなく、なる…」
息など滅多に荒げない斉藤の、その息遣いは妙に熱い。眼差しはどこか気の違ったようで、足袋以外に身に着けるものの無い土方は、無意識に手で畳を撫ぜた。指先に脱いだ着物の布地が触れる。だが、それを引き寄せかける手は、痛いほどの強さで斉藤に阻まれてしまう。
「斉…っ」
「こっちが教えて欲しい…。こうしてあんたの傍から遠ざかる仕事をくれて、毎夜…どんなに滾るか、あんたこそ、知ってるのか」
「お、落ち…着け…」
「…無理だ」
きり、と手首を握る指の力は強く。自分の手首の上で、斉藤の親指の先と他の指の先が重なっているのを、心のどこかで意識する。確かに自分は大柄な方じゃない。でも斉藤だって痩せた男だ。それなのに手は大きくて指が長くて、この力の差。押さえ付けられた片手がびくとも動かない。
もがいて顔を見上げれば、淡々と冷めたような斉藤の顔の、その両目だけが変に滾っていた。そう…滾っていた。何故なら彼は、ここ数日、土方の姿にも声にも、その肌にも、ずっと餓えていたのだ。
「待て。おめ、ぇ…ッ」
そんな無茶をしなくとも、逃げない、と、そうさっきも言ったのに。飢え死に寸言の獣が、白い柔らかい肉にやっとありついた、そんなふうに、斉藤は土方の脇腹に歯を立てた。
まるで本当の獣だ。痛みに一瞬、土方の視野まで白くなる。気付けば捕えられた片手は自由で、その替わりに両足首の自由がなかった。膝を胸の上に折らせ、そのまま広げて、関節が軋むほど無理に。
ひっくり返された蛙のような格好の羞恥に、頭には血が上る。
「は、離せッ、逃げねぇ…って、言っ…」
「…好きに、させろ」
喰らい付かれて脳裏に浮かぶのは、そこらにうろついてる痩せた野良犬じゃぁない。狼だ…。噛み裂く牙が柔らかいそれへ食い込んで、そのまま食い千切られる恐怖感を、土方は掻き集めた僅かの理性で紛らわす。そうして集めた理性は、けれどもすぐにばらばらにされていく。
熱い口の中、飴玉のように転がされ、女の乳のように吸われた。足首にかかっていた手は、今は広げさせた大腿にかかり、白く柔い肌に指を食い込ませていた。しゃぶられる音は淫らで、いやらしく、煽られるようにまた追い詰められて、放つまでも、あまり間が無い。
どぷり、と零れた精液を、嬉しそうに飲み下す斉藤の、喉を鳴らす音が聞こえてしまった。
「足りない。まだ…足りない。欲しい…あんたを…」
「…斉…藤、俺ぁを、く、喰らうつもりか」
「そう出来るんなら…とっくだ」
「ひ…ぁ…ッ、ぁあぁっ」
土方は足をばたつかせる。斉藤の手が、彼の雄を握り込み、握り潰すように荒々しく揉んで、駆け引きも何もない、ただ乱暴に揉みくちゃにして、そうしながらまた口を寄せてむしゃぶりつく。
だらだらと零れる土方の精液、絡みつく斉藤の唾液と、ぬるつく熱い感触が、土方を内側から溶かしてしまいそうだ。雫の一滴すら惜しがるように、啜られて舐め回されて、狂いそうな快楽に、土方の意識が何度も途切れた。
「土方さん、あんたを……あんた、を…。土方さん…」
言葉は何度も途中で止まる。どうしたいのか、どうすればいいのか。斉藤にも判らない。いっそ全てを喰らってしまって、他の誰にも触れさせず、見させもせず、一つになってしまえたら、会えない夜の来るたびに狂わずに済むのだろうか。
「…は…ぁ、ぅ、くうぅッ」
いつしか、杭が、深くまで土方を貫いていた。足の先まで痺れるようなその感覚には、恐怖と悔しさと、不思議な満足感が混じっている。斉藤は土方だけを素っ裸に剥いて、自分は袴と下帯を少し緩めただけで、無理に下肢を広げさせて深々と繋がっていた。
裂けるような痛みは、めちゃめちゃに鼓動を荒らさせながら、すぐ快楽に擦りかえられた。けれど土方だって欲しかった筈の快感は、あまりに激しすぎて鋭すぎて、自分自身を無くしそうで恐くなる。
「やぁ…、ああぁッ、そん…な…」
そんな恐怖さえ白い快楽に包まれて融けて消えるほど、乱暴な抜き差し。後穴を押し広げ、奥まで、さらにその先まで侵したがって激しく、軽く引いては派手に突かれ、熱い杭がきりもなく擦る快感の源が、今に擦り切れて狂いそうだった。
斉藤はただ土方が欲しくて堪らない。どう突いても揺さぶっても届かない場所には、激しく迸る精液の届くところまで、彼を奪いたくて、自分のものにしたくて。
たぶん、もうそこは血を見ている。戦いの場では、慣れた鉄の匂いが部屋に満ちていた。熱に浮かされた斉藤の目が、ふと、土方の白い胸の上に、紅く綺麗に咲く花を見つける。血生臭い匂いに似合わぬ薄紅の花。
それへ吸い付かれれば、土方は仰け反ってもがき、既に乱れに乱れた髪の結わえ糸もぷつりと切れた。汗にしっとりと濡れて、畳の上に広がった黒髪を、ぼんやりと斉藤の目が眺める。
殆ど焦点の合っていなかった目が、ぐったりとした土方の顔を見て、その頬に流れる涙を見て、少し我に返った。
「あ…? ひ、土方…さん」
「こ……こん…の、てめぇ、斉…」
はぁ、はぁ、と息も絶え絶えになりながら、起き上がろうと床に手を突いて、震えて、そうもできずにもう一度畳の上にぐったりと横になる。
「てめぇ、俺ぁを…どう、してぇんだ…」
「…そんなのは、知らない」
「は…。喰われる身にも、ちったあ、なれ…。殺される…かと…」
「…あぁ…。だけど、あんたを前にした俺はただのケダモノだ。多分、考える頭なんか、ないんだ」
脚は大きく左右に開かれたまま、もうどっちかの関節が外れるんじゃないかと思うほど、そこらががくがくと震えて止まらない。その上、卍に組むようにして脚を絡め、そこにはまだ固い熱い杭が刺さったまんま。
「…ぅう…」
「…………」
「も、離れ…っ」
「離れなきゃ、切腹か…?」
「…な、何を馬鹿な」
ぐ、と膝裏を抱えられ、それが抜け掛けた箇所をさらに抉られる。ひゅ…ぅ、と喉を鳴らして喘いで、辛そうに顔を歪めて、いやいや、と土方は首を横に振る。あんなに溺れたのに、また沈められそうで恐くなる。
さらに揺さぶられ、もう泣き叫んで嫌がることになるのだと、畳に爪を立てて歯を食い縛った途端、そこからずるり、と肉の棒が出て行った。
続
はいー。ヤりっぱなし部分がひとまず終わったようですー。楽しかったけど、イマイチ、えろすの味付けが薄いような。残念残念。最近どうもこういうののノリが悪くて、楽しめなくてですね。…年かしら。とほほ。
本日は二話同時アップなので、ここらへんでー。
10/02/19
