其は常の褒美にて 11
土方の身を抱いた斉藤の片手が、もう既に浴衣の襟から内へと入っている。酷く取り乱したような様子の癖、所作には無駄がなく、既に土方の浴衣の帯は半分解かれていた。
こんないきなり。あぁ、でも別に構いやしねぇ、そのために来たのだ。金や物や名誉などには欲の無い、好いた相手一筋のこの男に、己自身を褒美にやろうと、そうして出向いた夜ではないか。
だけどここは湯屋の脱衣の板の間で、湯舟から湯が零れる音が消えたと見るや、あの爺がすぐにでも挨拶に現れそうだ。
「あ…っ、さ、斉藤…っ、よせ…って、離せッ。俺ぁは…」
「……嫌なら、斬ってくれ」
「ばっ…、な、何…っ、んく…ぁあ…っ、ぁ…」
握られて、先端から根元へ向けて、めちゃくちゃに扱かれて、すぐにも膝が砕けそうになる。器用な斉藤の手が、身に着けたばかりの土方の浴衣の裾を、尻まで捲り上げて、その柔い尻肉を開かせる。すぅ、と風が尻に当たる気がして、土方は酷く暴れた。
「やめろっ…。ど、どっかで戸が開いた…ッ、お、俺ぁは…こんな格好を、お前ぇ以外に見られるのは、い、嫌だ…!」
どん、と斉藤の胸を突き飛ばして、やっとのことで土方は逃げた。よろめいて足元の桶を蹴り飛ばし、そのままひっくり返りそうになる。伸ばした斉藤の手に、無意識に縋って引き寄せられ、胸に抱き取られた途端、がらがらと大きな音がして、引き戸が開いた。
「あ、こりゃ…っ…。あのその、もうお上がりになるんやないかと、冷やした茶ぁお持ちしたんやけんど」
盆に器を二つ並べた湯屋の爺が、頬ぺたを赤くして慌てて後ろを向く。斉藤はまだ、着物に腕を通しただけだったし、土方は転んだ格好で、乱れた裾から片膝を見せていたのだが、湯屋は明らかに土方から目を逸らして慌てている。
こ、この爺、土方さんの、あられもないお姿を見て…。
そう思った斉藤の頭に血がのぼる。桶に置いたままだった刀を引っつかむと、それをすらりと抜き放ち、そのまま爺へと突進する。驚いたのは土方だった。そのままにしておけば、激情のままに斉藤が、爺を斬るかと思ったのだ。
「やめろというんだ、斉藤っ」
よく通る声で土方が言うと、それでもぴたり、と斉藤の動きが止まる。しかし止まったかに見えて、すでに彼は爺に向けて刀を一閃させていたのか。ひぃ、と叫んで逃げていく爺の通った跡に、点々と赤い血の滴りが。
「き、斬ったのか、お前ぇ!」
「…斬ってない。手応えは少しも無かった。…鼻血だ、じじぃめ」
「斉…」
土方は一瞬押し黙って、そのあとで派手に笑い出した。
「お…お前ぇでも、そんな口きくことがあるんだな、初めて聞いた」
「…どう思われてるのか知らないが、俺だってそんなに上品なんかじゃない。言っただろう、あんたのことになれば、俺はケダモノにでもなんにでも、すぐ…」
呆れたように息をついて、土方は斉藤の肩に手を置き、刀を握る手の甲をそっと撫でた。
「困った餓鬼だ。これじゃ目放しがならねぇな」
「俺は餓鬼じゃない」
「…わかってる。言葉のアヤだ。ほんとに餓鬼だと思ってたら、てめぇの体、好きにさせたりしねぇよ」
目元で笑いながら、土方は斉藤に乱された浴衣をきっちりと着なおした。まだどことなく、喰らいたそうな目をしている斉藤に、彼は悪戯っぽく言うのだ。
「犬め。褒美は隠れ家までお預けだ。ちったぁ我慢も覚えろ」
そうして二人は湯屋の爺に声をかけようとも思わないまま、そこを後にした。浴衣をさらりと着た土方の姿が、彼自身の持つ提灯に照らされて、酷く綺麗だ。
普段、屯所にいる彼をしかしらないものがもしも見たら、よく似た別人かと思うかもしれない。いつもの鋭さや厳しさは影とひそませた、着慣れたものだけが出来る、さり気ない着崩し。
いつの間にか湯屋の用意したらしい、真新しい下駄を、微かにかろころと言わせながら彼が歩くと、一歩ごとに裾が小さく割れて、白い足首や脛がちらちらと見えた。
襟から伸びた白い首筋や、後れ毛を纏いつかせるうなじも堪らない。湯に温まったせいか、ほんのりと耳朶が赤く、髪は湯の清らかな匂いをさせながら、わざと適当に、しかも高めに結われて、ゆらゆらと揺れていた。
「斉藤…?」
「………」
「…? おい、斉藤、聞いてんのか」
「えっ? あ、いや。そ、そう、です?」
訳の判らない返答に、土方は眉と眉とを近寄せて、怪訝そうな顔をする。
「何を余所ごと考えてやがる。俺といるときゃ、俺のことだけ…。なんでもねぇ…」
われながら、女のようなことを言ってしまった、と、土方は照れくさくなって言葉を途中で止めた。聞いた斉藤は、困るくらい真っ直ぐな目をして、自分の前をいく土方の姿をじっと見つめている。
「余所ごとじゃない。あんたのことだ。あんたとこのあと…夜更けまで」
「…い、犬っころっ」
別に罵ったわけじゃない。あまりにも素直に、隠しもせずにそう言われて、体が芯から火照ってきたのが、気恥ずかしかったのだ。そうこうするうち、二人は隠れ家の傍まできた。目立たないように、斉藤が先に行って入り、少しだけ時間を置いて、次は土方が…。
なるべく音を立てないように入り、入ったあとも、一応は音を立てないように、丁寧に入り口を閉じていたら、後ろから伸びてきた手に胸を抱かれ、顎を掴むように押さえつけられ、首筋の低い位置を吸われた。
「あ…ぁっ」
肌を唇で愛撫されながら、土方はまだ少し濡れたままの、斉藤の前髪を感じた。自分の背中に重ねられた、彼の胸の鼓動を感じた。腰に回された腕が、ぎゅう、と強く土方を縛り付けて、振り向くことすら封じている。
「さい…っ、そんな、急くなっ。布団くらい…ッ」
「もう敷いた」
「じゃ、じゃあそっちで、すりゃあ」
「何処だっていい。…あんたが、焦らすから」
隠れ家に自分が入ってから、土方がくるまでの短い時間が、何倍にも感じたなんて、そんなことは伝わらないのに、斉藤は酷く焦れている。せっかく綺麗に着ていた浴衣が、あっと言う間に乱された。
引き裂くように下帯を引き抜き、浴衣は床に落とさせ、素っ裸にさせたと思ったら、振り向かせた土方の前に、斉藤はいきなり膝を付く。床に這う斉藤に、何か言おうとした土方の顔を、斜めに上げた顔で、その少し不機嫌そうな目で、斉藤は短く言うのだ。
「どうせ犬だ。犬らしくするさ」
そのまま床まで顔を下げて、彼は土方の足の指をべろりと舐めた。足の指と指の間を、ゆっくりと舐めまわし、それから土方の脚の、例の刀傷に唇をつける。つう、と確かめるようになぞられて、ほんの微かな痛みと、むずがゆいような快楽が、土方の体へ押し寄せた。
「痛いか?」
「い、痛かねぇよ」
「よかった。安心して抱ける」
足指から膝までを、そんなふうにじわじわと愛撫していた斉藤は、次はいきなり足の付け根に顔を埋めた。土方が板戸に背中を押し付けるばかりで、逃げられないと見るや、顎を上げて口を開け、舌先を使いながら、深く飲み込んでいく。
小刻みに吸い上げられて、袋をめちゃめちゃに揉み回されて、へたり込みそうになるほど感じた。口に入れて塞ぐものがなかったので、自分の手の、親指の付け根を噛んで声を押し殺した。
「ん…っ、ぐぅ…、んんう…、ひ、ぅ…ッ」
はじけ飛ぶもので、せっかく綺麗にしたばかりの肌を汚すのを、一瞬嫌だと思ったが、それを知ってか知らずか、斉藤は最後の一滴までを舌先で舐めとって、全てを飲み下してから顔を上げた。
「…動けるか?」
「っ、たりめぇだ…っ」
当たり前だと強がっても、事実はそうはいかない。動こうとして膝の力が抜けてしまう。股関節はもっということを聞かなくて、斉藤に支えられて布団に仰向けにされた途端、勝手に脚が開いてしまった。
「……」
「ち、違うぞ。そうじゃねぇ、脚に力がはいらねぇから…っ」
あまりに淫らに、脚を左右に開き、ぽろりと零すように性器を見せて、隠そうとしても土方の下肢はうまく動かない。
「もっと、欲しいのか」
嬉しそうに聞く斉藤に、土方は怒ったようなきつい目を見せた。
続
えーと、なんか中途半端ですみません。エッチシーンは途中でぶったぎるもんじゃないと判りつつ、長いので、つい。どうも次回で終わりそうです。エロくしたいですね〜。エロく。アハ。
書いているうちに、書きたいことが判らなくなりましたが、こんなノベルでもよかったら、どうぞ最後まで読んでやってくださいね。いつもありがとうございますっ。
10/08/08
