其は常の褒美にて  12





「だから、ち、違うって。ひ、ぁあ、んぁぁあ…ッ」

 貪る、という言葉が似合う。それこそ、犬が餌に鼻を突っ込むように、斉藤は土方のそこを舐めしゃぶった。力の抜けた土方の脚を、楽に大きく開かせ、そこにうっすらとはえている柔らかな下毛を、器用な指先で掻き分けて退ける。

 荒々しい息遣いで、ケダモノのように理性など飛ばしているくせに、そうやって、何一つ邪魔なものなど無いようにしてから、もう一度、斉藤は土方の性器へ舌を這わせていく。

 根元の周りの弱い皮膚を、ゆっくりとくすぐるように。茎を掴んで上へ無理に向けさせて、裏側を特に念入りに舐め回す。そうこうするうち、とろとろと零れてくるものがあるが、それをすすり上げつつ、塞き止めるように先端の穴を指で挟んで閉ざしてしまった。

 特に、酷く責めようなどと思ったわけではない。肌を汚さないよう、気遣っただけだった。だけれど結果的に、そのことで土方は追い詰められた。塞き止められたままで舐められ、揉まれ、あっさりと堪えうる限界を超えて、仰け反って、一瞬意識を飛ばした。

 いきなりだったから、斉藤は最初驚いて、土方の体を抱き起こした。すぐに意識を取り戻した彼が、羞恥に赤い顔をして、ふい、と横を向いたので大丈夫なのだと了解して、きゅ、と土方の背中を抱いた。

「脅かさないでくれ。どうしたのかと」
「誰のせいだ、馬鹿。あ…ぁ…。結局、こ、零れちまっ…」
 
 体を離して、そこを覗き込めば、射精するでもなく、やはりとろとろ、とろとろと、土方の先端の小さな口から、白く濁ったものが大量に零れていくのが見えた。

 ひくん、ひくん、と、か細く痙攣しながら、淫らなものを溢れさせる土方。間近でじっくりと見られて、いたたまれなくて、両手の甲で彼は目元と口元を隠して喘いでいる。

「嬉しい…かよ…」
「……」

 斉藤は返事をしなかったが、彼が楽しんでいるのがよく判ったのだろう。土方は消え入りそうな小声で、ぼそりと言った。

「そうじゃなきゃ、褒美の、カイがねぇ…」

 零れた言葉に、斉藤はさらに押し黙る。何を言っていいのか判らなかった。自分のために、この人が…と、ただ、そう思う。剣を、好きだと言ってくれた言葉も、心の真ん中で、きらきら、と輝いていた。嬉しくて…。胸が詰まるような心地がした。

「……」
「ぁ…ひ…ッ…。斉…っ」

 何を言っていいか、やはり判らなくて、思わずまたそこを啜った。いつも大抵、嫌がられるというのに、ついついこんなことを繰り返して、嫌われたらどうするのかと思うけれど、欲望も衝動も止まらないのだ。

 喉の奥まで塞がるほど、根元までを咥え込んで、無我夢中で愛撫する。土方の手が、斉藤の髪に触れて、柔らかくそれを掻き乱した。

「…ったく、しょうがねぇ犬だな…ぁ…。お前ぇ…。そんなはしゃぎやがっ…て」

 声に、微かな笑いが滲む。顔を上げて見た土方の顔は、薄暗がりの中で確かに笑っていて、それが酷く幸せそうに、嬉しそうに見えて、慌てたように斉藤は下を向いた。目が、何故だか熱かった。

「…ひ、じかた、さ…っ」

 声も上擦ってしまって、それを押し隠そうと、斉藤は土方の脚を大きく押し広げ、無理やり奪うように繋がる。零れたものでさんざんに濡れていた蕾は、もうずっと前から欲しかったそれを、震えながら深くまで飲み込んだ。

「も…っと、来…いッ、怪我なんか、気にしねぇ…っで…。は、ぅ…! ぁあ…ぁ」

 大腿から、膝まで、そうして膝から足首まで、ゆっくりと辿る斉藤の指が、傷跡をなぞる様に愛撫して、たったそれっぽっちの所作だけで、土方は背中を仰け反らせた。

 強く、強く、想い合うことこそが、どんなに慣れた手練手管よりも、強く深い快楽を呼ぶ。狂ったように突き上げられ、狂ったように斉藤の背中に爪を立てて、肩に酷く噛み付いたまま、二度、三度、それ以上…何度イったか覚えてもいない。

 はなさ…ない…っ、ずっと…!

 その言葉を言ったのがどちらだったのか、ふたりともよく覚えていなかった。ただ、明け方近くに目を覚ました時、深く眠る斉藤の顔を眺めながら、

 当たり前ぇだろうが…と、土方は呟いた。

 
 * ** ***** ** *


「久しぶりに、一手、仕合うか」

 そう言った言葉に顔を上げれば、額へと真っ直ぐに突き出された竹刀の先と、笑う土方の顔が見えた。表情も変えず、斉藤は道場の板の間に、片膝立てて立ち上がる。

「…承知」
「手加減なんざ、しねぇだろうな」

 囁いた声は、斉藤の耳にだけ届く。小さく片眉をだけしかめて、斉藤は困り切った心の破片を、土方の目にだけ見せ、彼の耳にだけ届くように言った。

「しない」

 結果、負けようと勝とうと、手加減したりすれば、あんたは拗ねるんだ。そうしてお預けくらわすように、俺に暫し声も掛けなくなる。でも、それが理由じゃなくて、あんたに見せてやるよ。見せたいんだ。

 あんたが好きだという、俺の剣を。
 命続くまで、永遠にあんたを守る、この剣を。

 

 竹刀が打ち合わされる音が、高く鋭く、響いた。




 終











 今、気付いたんですが、いったいこの話、何ヶ月かけて書いてたわけ? ぎゃー惑い星のノロマとんかちー(謎の罵倒語)。どうもすみません、だらだらとー。書いているうちに、何を書きたいのか消失事件勃発。←アホですか。

 足の怪我はどうなったのか、土方さん。温泉と斉藤の愛撫で、高速完治というわけか。愛は怪我をも治すのか? ま、まだ痛くとも、土方さんは道場で打ち合いくらいすると思うし、まぁ、気にしない方向でいっとくんなまし。

 湯屋の爺は、のちのちまであのことを語ったに違いありませんが、万が一、土方さんの昼間のキリリと厳しい姿を見たとしても、よく似た別人だと思う(といいね)筈だ! 

 それとも組の幹部だと知れても、居直って風呂を借りるか。そっちも美味しいv そんな七転び八得(造語)な展開もいいねいいねー。でした。はい、お疲れ様です。さて、次の組ノベルはー♪ うふふふふ。


2010/08/20