花 刀 3
これが俺のせいだというのなら
どれだけ苦しくたって仕方ない
ぼろぼろにされたっていいんだ
ただ、いつか叶えたい夢を
叶えるためのものだけ残ればいい
何より恐ろしいのは
情に脆いあんたがこの俺のために
俺たちの夢を失うことだよ
だから俺は決めたんだ
もしもここで生き永らえて
あんたの傍に戻ることが出来たなら
夢のために、どんなことでもするんだって
あぁ、後生だからあんたは何にも気付かないでくれ
どうかいつまででも穢れた俺に気付かないで
眩しい夢だけ追いかけていてくれよ
視野はとうに歪んでいた。零れている涙のせいだなどと、意識している余裕は無い。熱い口内に啜られて、もう何度目かの絶頂がまた近付く。土方は喘ぎながら、ただ一つのことだけを考えようと必死だった。頭上に上げられて縛られた手首を、その一箇所から動かさないこと。
そうと思いつめていなければ、知らぬ男どもに散々愛撫され、嫌悪にまみれて、喚きながら目茶目茶に暴れてしまうだろう。
人というのは、漢というのは、夢のためにどこまで我慢できるものなのだろうか。意識すら何度も霞んでいるのに、それでも土方は堪え続ける。広げられ地面に付かされた膝が痛い。ずっと同じに腕を上げている肩は酷く軋む。喉がひりつくように渇いて、吐き気と眩暈で苦しい。
簾のように裂かれた袴と着物、左右に広げられた着物の襟。高く結わえられた髪は乱れて、涙に濡れた顔に振りかかっていた。
「あ…ぁ、ああ…もう…」
「…いいんだろ? なぁ、いいんだろう? そう言えよ。何度もイっちまったもんなぁ。素人じゃねぇみてぇな敏感な体して、こんな綺麗な顔と体してる癖して、態度や格好ばっか武士でございって、その態度が悪ぃんだよぉ」
土方の顎を掴み、苦しいほど上を向かせながら、濁った声で男の一人は言う。
もう一人は獣の呻きのような声を出して、さっきからずっと土方の雄芯をしゃぶりたてていた。男の歯が散々に土方のそれを噛んでいる。片手では根元をぎりぎりと締め上げ、もう一方の手では奥にぶら下がる袋を目茶目茶に揉んで、最後の一滴まで啜りつくそうとしているようだ。
「や…ぁ、ひぅ…ッ、う…」
びくびくと下肢を揺らしながら、また土方は果てた。膝から力が抜けかかるのを、必死になって堪えて顔を上げた。その髪が乱暴に掴まれ、無理に顔を向けさせられて、喘いだ口に濡れたものが押し込まれる。
「う、ぐ…んぁあ…ッ」
「喉が渇いてんだろう? 遠慮はいらねぇや…。そぉら、たっぷり飲みな。美人さんよ」
嫌がる一瞬もなく、口の中にねっとりと熱いものが迸る。必死で喉を塞いで堪えるが、鼻を摘まれて呼吸を阻まれ、やがては屈服した。初めて味わうそれは、狂気の味がする。必死で繋ぎとめていた何もかもが、ぶつん、と千切れてしまいそうな苦しみ。
結局は最後まで飲まされて、穢れたもので口内を汚したまま、無意識に口走るのは哀願だった。
「ゆ…ゆる…ゆるし、てくれ…。もう…っ」
く、く、と誰かが笑う声がした。朧な視線を向ければ、少し離れた場所から、ずっと土方を凝視していたフチゾウが、酷く楽しげな顔で笑っていた。
「いい格好だぜ、色男。そんな様をみりゃあ、あん時お前の見事な竹刀捌きに感心したお義父上も、その色男ぶりを気に入ったゆい殿も、目を逸らして"キタナい"と吐き捨てるんだろうよ…!」
「う…ぁ…。ゆる…」
「…いいぜ。その内ちゃんとほどいてやるさ。お前の命までは取る気もねぇよ。だけどな、俺はお前がこっから先も、その腕に剣を握るのだけは許さねぇ」
血走った目を更にぎらぎらとさせながら、フチゾウは岩から立ち上がってふらふらと近付いてくる。その異様さに、今まで土方を貪っていた男どもも思わず離れた。片手にぶら提げた錆の浮いた刀で、今にも人を斬りそうな鬼気を感じる。
「見上げたもんだよ。こんだけ責めてもお前の手首は、血の一滴も垂らしてねぇんだな。だがな、それじゃあ、ここで終わらせてやる訳にいかねぇんだ」
じゃり、と足元の土を鳴らして、フチゾウが土方の哀れな姿に近付く。その刀を地面に刺して、フチゾウは土方の目の前に膝をついてにじり寄った。両手を差し伸べ、彼は土方の脚の間に手を入れる。そうして軽く開かされた大腿を、内側から広げさせるように掴むと、そのまま土方の体を持ち上げようとしたのだ。
「あ…ぁッ、嫌だぁ…!」
ぐったりとしていた土方が、唐突に嫌がって声を上げた。フチゾウの手によって、土方の膝が地面から離れると、彼自身の体の重みがすべて、刀に押し付けられたままの両の手首にかかる…!
「は、離してくれ…っ。許して! いや…だ…。何でもする…何でもするから、それだけは…ッ!」
くく、と酷く楽しげに、フチゾウは笑っていた。身を近寄せて、自分の膝の上に、脚を開かせた土方を座らせるようにし、緩めた下帯の中から、ずっと猛り狂っていたであろうモノを取り出す。
「ここまで散々男にしゃぶられてイってたお前だろう。なのに突っ込まれるのだけはそんなに嫌か?」
判っていて、わざとフチゾウは嘲笑う。先端を土方の穴に合わせ、ぐりぐりとそこへ押し付けながら、両腿を掴んでいる手を緩めると、土方は泣きじゃくりながら懇願した。
「ち…が…。入れるんなら、入れりゃいい…! そ、その前に、腕ぇ、ほどいてくれよ…ぉ…っ」
さっきまで虚ろだった土方の目に、僅かばかりの生気が戻っている。自尊心も何もかも捨てて、男に犯されることすら享受しながら、剣を握る腕だけは守りたいと叫ぶのだ。フチゾウはだが、その様を見て嘲笑うと、押し当てた雄で一気に土方を貫いた。
「…あッ、ぅ…ぁああ…ッ!」
悲鳴が迸る。土方の狭い穴が酷く裂けて、広げられた内股を血が流れた。土方はフチゾウの体に脚を絡ませ、ほんの僅かでも手首への負担を逸らそうとする。けれどそのままがくがくと揺すられて、激痛の中に快楽が混ざり始めると、疲れ切った土方の体は限界に近付いていく。
「…いいぜ。そら、やっとお前の手首に血が滲んできた。もうすぐお前は俺と同じになる。一生、死ぬまで刀を持てねぇ体になるんだ…」
耳元に言葉の毒を注がれて、土方の見開いた瞳から、再び生気が奪われる。ぼろぼろと涙を流しながら、わななく唇が何かを呟いていた。
* ** ***** ** *
闇がそろそろと、空を覆い始めている。まだ辺りは薄暗い。
沖田は気配をぎりぎりまで殺し、風のように木々の間を駆けていた。足音は殆どしない。前を見据えた目を苦しげに細め、夕暮れ後の林の中に、研ぎ澄まされた彼の神経に、触れてくる異変を探していた。
土方はまだ、戻ってはいない。近藤のことをあれほど心配していて、傍を離れないようにしていた土方が、生半可な理由でこんなにも長い時間、姿を消すなどとあり得ない。戻れない理由が、何か、あるのだ。
ちょっと、私、探してきますね。
沖田は近藤にそう言って笑った。ことさら何でもないようにそうして笑って、列を離れて林の中に入り、誰からも姿を見られぬ場所まで、ゆっくりと呑気な様子で歩いた。それから彼は走り出す。眩暈に似た不安が、沖田の心に滲んでいた。
林の奥へ行けば行くほど、木々が生い茂り辺りは暗くなる。夕日も落ちたこの時刻は、ただでも夜が急ぎ足だ。視野が悪くなってゆくのに焦って、なお脚を速めたその時、近くに誰もいないと思っていた沖田の目の前に、黒い影が飛び出してきたのだ。
咄嗟に剣を抜いた。何者かも判らずに抜いた彼は、自分が剣を抜いた事実で、己が焦りを自覚した。しまった、と思う。ここはまだ浪士の列からそれほど離れていない。騒ぎは御法度なのに。
ああ、斬っ…。
斬ってしまったかと思ったのだ。抜き打ちの自分の剣の素早さは、自惚れでなく自身で判っている。避け切れるものがそうそう居るはずもなかった。
キン…!
だが、空を走る剣は何かに弾かれて鋭い音を立てていた。この男を…知っている、と、そう感じるのは剣士だけに通じる直感。何度か竹刀を合わせたきりだったとしても、相手の剣の癖が判る。
「……何故…」
問う言葉が、知らずに零れていた。銀色に煌く刀を斜めに構えて、その時、沖田の前に立っていたのは、その男、だったのだ。
「あぁ…判った。貴方、追ってきたんだ。そうですね?」
刀を下ろして、沖田はそう言っていた。
続
ほーら、ちゃんと斉藤が出てきましたよ! …って、きゃー、これっぽっちでゴメンなさいっ。怒られそうです〜。いやはや土方さんを苛めるのに夢中で話が伸びてしまってですね。って言ったら、尚更怒られますか。すいませんすいません…っ。
次回は恐らく、沖田と斉藤の斬り合い…! だと思います。お読みくださりありがとうございましたっ。
10/10/17
