熱くて熱くて甘い
これに酔ってていいのかどうか
危うそうで儚そうで恐い
これに酔ってていいのかどうか
でも今は何も考えられねぇ
感じるだけで精一杯だ
お前のことを
感じるだけで…
俺ぁはお前に喰らわれてぇ
喰らわれながら
逆にお前を喰らいてぇ
一瞬、斉藤が動きを止めたのがわかった。見ている。見られている。見ろと言ったのは自分なのに、膝を立てて足を開いた格好でいるのが、堪らないような気分になる。
男のそこなんざ、いいもんなんかであるわけがねぇ。
お前だって見た途端に気が削がれて、
なんか勘違いしてたのがわかって、それで…
「…っんんッ、ふぁ…っ！」
おかしな声が喉から零れて、土方はそんなことなど、考えていられなくなった。熱くてねっとりと柔いものが、唐突にそこを包み込んで、土方の雄を捏ね回していたからだ。
先端を、括れを、そして茎をも、ぬぶりと包まれて、余すところ無く舌で舐られる。何をされているか分かるより先に、土方は己の着物の袖を掴み、その布地を口に押し込んで、必死になって歯を立てた。
その上で片手で口を塞ぎ、背を仰け反らせ、両膝をめちゃくちゃにもがかせる。残る片方の手の指が、がり、と畳を掻いていた。目を見開いていても、眼前で何か眩しいものが弾けるようで、何ひとつ見えない。
斉藤は土方の両の膝頭をしっかりと押さえ、左右に広げた形で押さえつけながら、夢中でそれをしゃぶっていた。
まるで、餓えた野良犬が獲物の腹に鼻面を突っ込み、また温かい肉を喰らっているようだ。ふっ、ふっ、と、鼻でしている息が浅く早い。獣染みたそんなことをしながら、自分のしていることで土方がどれほど反応しているのかだけは、恐ろしいほど密に感じ取っている。
裏筋を舌の先で抉るようになぞった瞬間、押さえ込んでいる両膝ががくんと大きく震え、口を塞いだままの土方の喉が、ひぅ、と音を漏らしたのにも気付いた。
だからそこの場所は、しつこく念入りに、さらに舌先で攻め立て、わざわざ一度口を外して、その部分を中心に改めて吸い付いた。ちゅるちゅると音まで立ててきつく吸い上げ、土方の性器がびくびくと跳ね回るのを、片手で押さえて封じて、さらにもっと、もっと。
「んんふぅ…ッ。んぐぅっっ！」
その一瞬で、土方の意識は一度は軽く飛んだ。半分気絶しかかりながら、もうひとつ心の臓でもあるように、そこをどくりどくりと鼓動させ、白く濃い飛沫を放っていたのだ。反り返ったその先端から、滴りは土方の胸の上へと弾け、薄紅色に染まっていた素肌を、酷く淫らに飾り立てた。
ふぅ…っ。ふぅ…っ。ふぅ…っ。
荒い息遣いは土方のも斉藤のも、交じり合うように交互に部屋に響いている。何が起こったのか分かっていないような顔で、土方は斉藤の方を見た。袖の布地を喉奥にまで押し込んだ、そのままの姿である。
見開いた目が怯えたように揺れていて、斉藤はその目を見つめ返したまま僅かも動けなかった。片手は土方の右膝を押さえていて、もう片方の手は、ぐったりと萎れた土方の雄に添えられたままで。
今は愛撫は止まっているのに、土方の声帯は震えがおさまっていず、喉の奥から、ん、ん…っ、と細い声が零れていた。その嗚咽は、それでも甘やかであった。屈辱だの嫌悪だの、そういう負の感情は、どこぞへ落として来てしまったようだ。
たっぷりと唾液を吸った袖を、やがては喉から吐き出し、そこらに転げていた手布を、片手で出来得る限りきちんと折って口元に持ってくる。
「………」
「………」
斉藤も土方も、言葉を発しなかった。土方は手布の折ったのを口に咥えて、何も言わずにもう一度脚を開いたのだ。喩え、誰にでも抱かれる廓の女だって、こんな淫らな所作などするまい。
吸いてぇんだろう、と土方の目が、熱に浮かされたような色をして言っている。喰らいてぇんだろう。俺のことがそれほど欲しいんだろう。喰えばいい、奪えばいい。許してやるから。
いいや違う。そうじゃねぇんだ。
俺ぁがお前に喰らわれてぇんだ。
喰らわれながら、
逆にお前を喰らいてぇんだ。
見えねぇ何かで、
お前ぇをずっと繋いでおくために。
そうする為に、
俺ぁはお前ぇの餌んなる。
ぼんやりと、土方は自室の天井を見ていた。傍らにもう一人男が寝ていた。
青ざめて疲れたような顔をして、今は正体もなく眠っているこの男は、ほんの半刻ほど前まで理性も分別もねぇただの犬みてぇなもんだった。素っ裸で、うつ伏せの姿勢が少し苦しげに見える。
「…もう…朝、か…」
土方はぽつりと言って、その声が聞こえたせいか、土方の隣に眠っていた斉藤も目を覚ました。んん、と、くぐもった声を立て、寝返りを打ち掛けて出来ず、そのまままた寝入ってしまいそうだ。
「…いい度胸じゃねぇか、こいつ」
ちらりと見ると、小さく笑ってそう言って、土方はまた天井へ視線を戻す。
「よかった…」
零れた言葉と安堵の吐息。昨夜はとうとう、斉藤に体を許した。そのことが、沖田の復調を思い出させるのだ。心から笑んで、よかった、と短く呟き、土方は痛む体をおしてなんとか身を起こした。
あんなに乱れて、体は酷い有様かと思ったが、疲れて寝入る直前に、斉藤が彼の体を拭いてくれ、その上、寝間の着物で体を包んでくれたのを思い出した。その癖、自分自身は裸のままだとは。
「斉藤、起きてくれ。早く着物を着て、そしたらそっちの廊下へ出て、向こうっかわに抜けて出てくれ。あと半刻もすれば、寝起きの茶を持って誰かこの部屋にきちまう」
声を掛けた途端、ぱちりと目を覚まして、斉藤はなんとも言えない顔をして土方を見た。視線をやりながら、怯えたように目を見開き、口を開いて閉じて、また開いて…。
「あぁ、昨夜のことは忘れろ」
「…土か…っ」
「また…、次の時にゃ思い出していい。それまで忘れていろ。俺もそう努める。もしも出来ないと言うなら、残念だが今夜で終いだ」
残念だが、と言った言葉に、斉藤は小さく反応した。笑ったのだ。ほんの微かに、目元と口の端のところだけで。
「承知」
小さな笑みと、満足さを笑みを含んだその言葉は、妙に色っぽく聞こえて、土方は随分迷惑そうに、眉を顰めたのであった。
続
あらまぁ、ただのエロいターンで終わってしまったっ。この夜を経て、沖田が斉藤にどう接するかとか書きたかったんですが、次回になりますねー。そして数ヵ月後の、かしたろーさん加入とか、一応書きたいですよー。
史実を取り込むのは正直荷が思いですが、どこか微妙に間違っていたら「あぁ、この話は組ノベルのようで、似たような別世界だから」とか思っていてくれるとありがたい。ほんにスイマセン。
ではまた一ヶ月後に〜
12/08/13
