甘 い 雪 夜  …  参 





 何もそんな顔、するこたぁねぇだろう。
 慣れてるのかと聞くから、教えてやったんじゃねぇか。

 だからお前も教えろよ。

 なんであんなこと
 俺にしたのか……


 言葉を、そこまで言ったのは覚えている。布団の上で脚を投げ出した恰好で座っていたものを、気付いた時には天井を見ていた。天井板の、曲線を描く淡い木目。

 そうして見開いた土方の目は、次に、間近にある斉藤の顔を見た。その顔はすぐに彼の胸へと伏せられて、思わず息を飲んで身を仰け反らす。

「さい…と…っ」

 肌蹴られた着物の内から、白い胸がさらけ出されていた。見えた胸の淡い蕾を、斉藤の唇が覆って吸い付く。声も出さずに、指で布団を掻き毟り、もう一方の手で、自分をそこに突き倒した男の着物を掴んだ。

「な…に、しやが」
「答えを」

 斉藤の唇がものを言うと、すぐ傍にある彼の胸に息が当たる。それだけで竦んで息を詰め、土方は押し殺したような彼の言葉を聞いた。

「答えを見せているだけだ。あんたが聞くから」
「…ふ、ふざけ…ッ」
「ふざけてこんな事をするほど、俺は酔狂じゃない」
「…く…」

 言い終えてまた吸い付いてくる斉藤の唇に、触れてくる舌に、土方は再び白い胸を仰け反らせた。

 もがく体を押さえようともせずに、斉藤は彼の着物の襟をさらに広げて、襦袢ごと両肩から外へ落とし、そのまま強引に背中の下へと引き下す。

 抗う仕草で、相手の袖を掴んでいた土方の腕が、そのせいでそこから外れた。カギの形に折れ曲がった彼の指先が、代わりに斉藤の腕を掻く。紅い色が滲んで、微かに血の匂い。

 傷を負わされても、斉藤は一向それに頓着せず、もう一方の手を下から裾の合わせに滑り込ませてくるのだ。土方の帯を緩めもしないまま、着物の下の別の帯を、彼はもう解きにかかっている。

「慣れてるんだろう、あんた。それを聞いて枷が外れた」

 そう言われて、再び見開かれる目。どこか怯えた…慣れているとは思えないような。

 胸をさらさせ、下帯にも手を掛けながら、腰で乗り上げて押さえ込むと、腰に差したままの刀の柄が、布団に擦れて邪魔になる。刀を外して床に置くなど、そんな余裕も理性もない自分に、斉藤は今更のように思い至った。

「生憎、俺は慣れてない」

 腰にある刀を、ほんの僅かに鞘走らせ、零れた刀身を白い布地に軽く当てると、切れ味の良い彼の愛刀は、持ち主の願い通りに働いてくれる。

「…ぁ…、やめ、ろ…っ!」

 裂け目を作られた布地は、びぃ…、と微かな音を立てて引き裂かれ、一瞬にして薄紅い肉が零れて見えた。その時、顔を歪めて震える息をついたのは、恥辱にまみれた土方ではなく、寧ろ、斉藤。

「副長…」
「く、ぅん…ぁ。うぅ、ぅ……」

 握り込まれて、土方の喉を嗚咽が這い上がる。愛撫というよりも、ただ形をなぞり、そこにあるものを確かめるように、斉藤の指はゆるゆると蠢いた。斉藤は今更のように、腰から鞘ごと刀を抜いて、それをカラリと畳に放る。

 重い音が耳元で跳ねて、土方は逃げかかるが、前を強く握られては、ろくに身じろぎも叶わなかった。

 早くも先端は濡れ始めて、その淫らなぬめる感触に、斉藤はいぶかしむような目になる。ぬる付く手触りは気のせいではなくて、忙しなく指で撫で摩れば、そこからは、くちゅくちゅと微かな水音すら聞こえる。

「随分と…」

 思わずそう言いながら、斉藤は土方の帯を緩めて解き、急いた仕草で土方をすっかり裸にしてしまったのだ。

「斉藤」

 素肌の全てを剥き出しにされたというのに、いつの間にか抵抗もしなくなった土方が、下から、ぽい、と放つように、斉藤の名前だけを呟いた。足先から顔の方へと、ゆっくりと視線を上げていき、斉藤はしばし後に、やっと土方の顔を見る。

「お前、ふざけてねぇと言ったが…じゃあ、なんなんだ」

 今や、布団に指の一本も立てずに、ただ静かに斉藤を見上げて、この暴行の意味を、彼は問うのだ。

 問われた斉藤は、引き結んでいた唇を解き、何かを言いかけて答えを見つけられず、答える代わりに土方の唇を吸った。肌を曝したまま、抵抗の一つもしない従順な土方の唇は、酷く柔らかいように思えた。

 長く深い口吸いの後、斉藤は真っ白な土方の胸を愛撫する。手のひらで撫で、唇を這わせ、小さくしこった蕾のような薄紅色は、ゆっくりと舌で味わった。

 暴行を、甘んじてその身に受け入れる処女のように、土方は肌を固くして震えているのだ。ぼんやりと開いた瞳には、最初の一瞬と同じように、天井の木目が見えている。

「は、ぁあ…っ」

 胸の片方を唇で、もう一方を指で弄くられ、そのまま下肢を広げられれば、無意識の声が零れてしまう。前をなぞられ、握られ、しごかれ、絶頂は恥じたくなるほどに、すぐ。

「あぁ…あ。ふ、くぅうッ。あァ…っ!」

 イく瞬間を、わざわざ顔を寄せて、間近で凝視する斉藤の視線に、精を放ちながら気付いて、土方は嬌声以外の声も出せなかった。

  その一瞬に、きつく閉じていた目を開くと、斉藤は広げさせた土方の脚の間に座って、着物に飛ばされた液を、懐紙で拭き取ろうとしている。

 変に真面目な顔をしている斉藤を見ながら、土方は射精後の虚脱感と共に息を吐く。ただ、こいつの出方を見てみたいと思うだけだったのに、まさか、ここまで…。

「お前…無茶苦茶だな。溜まってるからって、上司を…。男を、本気でヤるヤツがあるかよ…」
「…違う」
「違わねぇだろ」

 詰めていた息を、まとめて全部出すように、もう一度土方は、深く長く息を付いた。

「違う」

 言いながら、斉藤は酷く怒ったような顔をしている。普段はそう見えないのに、そんな顔をすると、本当に沖田と同じほどの年に見えた。

 唐突に立ち上がって、まだ憮然とした顔をしている斉藤を、土方は肌を隠すもののない、あられもない恰好のままで、ぼんやりと見上げているのだった。


                                    続
  









 サカっておりますが。まだまだこんなもんじゃないんです、斉藤ワンコ。ワンコな攻めが何だか好きで、受難は明らかに土方さんですね、ごめんなさい。

 「甘い雪夜」書くかどうか判らないままで、長いこと放置プレイでゴメンナサイっ。

 では急いでアップしたいので、執筆後コメントはこんなもんで。何かこのノベルの事で思いついたら、その時にブログに書きますわ♪ 

 土方さん、びっくりしすぎて沖田の事は、今は思い出せない様子。酷いわ。でもまぁ、無理ないか。これ以後も、なかなか思い出す余裕が戻らないと思ってニコニコ、惑い星。


07/08/12