「雪の東雲」という話と繋がっています。
そちらもどうぞー♪ 異色ものってとこにあるヨ。
雨の化野 6
「どうした? しないのか…?」
盃を持った手が触れた瞬間に、化野の目がギンコの目を覗き込んだ。湿ったような声で囁いて、自身の襟の中に入れた手の甲で、着物の前を、ぐい…と寛げる。そのまま両肩から着物を落とせば、帯さえもが元々緩めてあったと判った。
「折角、俺がここまで」
「…別に、望んでなぞ……」
「判らんのか? 望んでいるのは俺だ。弟にお前をとられるくらいなら、別に何されたって構いやしない。言ってやろうか…?」
ふ、と唇に笑みを浮かべて、化野は囁く、ギンコの耳朶に唇をつけて、息だけの声で。
「抱いて、くれ…」
「……っ…、化野」
どさ、と音を立てて化野の背が畳についた。上半分だけ、既に脱いだ着物の袖を腕に絡めて、少し伏目がちな眼差しが、下からギンコの姿を見る。いつも自分の上にいる体に圧し掛かれば、上下が変わっただけで、どうしてこんなに違って見えるのかと、ギンコは思った。
白い肌の上の浅い陰影が、蝋燭の火の揺らぎと共に震える。わざとでも何でもなく、手の平で触れる前の爪が化野の脇腹をかすめた。零れる息遣いと声。ほんの僅かに反らされる胸と、眉根を寄せた顔。
「…ぁ……」
目が眩んだ。そう、あまりに色っぽくて…。指先で、形を確かめるように肌をなぞれば、化野の指が、袖の布地の中で床を引っかく。慣れてもいないたどたどしいギンコの愛撫だけで、もうじっとしていられないように、化野は片膝を立てた。
「あ…っぁ…」
「…感じたふりなのか?」
「なに、何で…だよ」
だってまだほんの少し、指を滑らせただけなのに。しっとりと湿った喘ぎと声。
「馬鹿か…。ふり、で、こんなになるほど器用じゃない。見えてるんだろ? …判らないか。吸って…」
終わりの言葉で意味がわかる。見ただけでそうと知れるほど、そこがもう固くしこっているのに気付いた。ギンコは唇を寄せて、化野の乳首の片方を舐める。舌が触れるのと、化野が細い悲鳴を立てるのが同時だった。
「…ひ…、ぁあ…」
はぁ、はぁ、と浅い息遣いが聞こえている。逃げたがるように身を捩りながら、ギンコの舌先に乳首を転がされ、そのたびに下肢へと響く快楽に、化野は目を潤ませていた。
「は、初めてでな…」
「…なに、が…?」
ふふ、と小さく笑う声が聞こえた。涙で潤んだ目を、ギンコから逸らしたままで、化野は立てた片膝を揺らす。着物の裾が割れて、膝から大腿までがあらわになった。化野はその下に何も着ていなくて、もうそれが空気に曝されている。
「好いた相手に、抱かれるのがさ」
そのまま言葉を続けて、違うものだな、と、化野は笑った。
「ギンコ、お前も俺に抱かれるとき、こんなふうか? なら、確かに、さんざ朝までとかじゃ、意識が飛ぶかも…な」
初めて、と言っていながら化野は抱かれることに慣れて見えた。ギンコの指が、手が、どこへと這っていくのかも判っている。仰向けでいて身をもがけば、どんなふうに着物が乱れるのかも、知っているように見えた。
したことのないギンコが戸惑うと、哀れに思えてしまうくらい震えながら、両膝を立て、なんとか腰を浮かせ、受け入れ安いように身を開く。自分で自分の口に指を入れ唾液を絡め、根気良く後ろを濡らし、ギンコのために、そこを広げて…。
「出来そうか? ギンコ。自分のに、手ぇ、そえて…。あぁ…」
視線を下へと流してギンコのそれを見れば、はっきりと立ち上がっている様を瞳に映して、蕩けるように化野は頬笑んだ。一つに繋がることの、幸福感。自分の体に、ギンコが自身を食い込ませていく快楽。
「…ぁあー…っ、ぁ、イイ…。ん、っ、く、あ…ぁ」
慣れない仕草で、ギンコは化野の中を広げていく。化野の内側を、自身の性器で擦り上げながら、ギンコはまるで、自分が犯されているかのように錯覚した。そうしながら、自分が化野を喘がせている自覚もあって、身の内にある意識が二つに裂けていくような気がした。
「もっと腰、揺すっ…て…。は、っ、あ!」
泣き出す寸前のような化野の顔を見ていると、もっと追い詰めたい欲と、酷いことをしているのだという自覚で、知らずにギンコは顔を歪めている。
「…ギンコ」
「………」
「ギンコ、ぁ…。イ…っちま…。…ッ!」
袖を纏いつけたままの手で、化野は自分の性器を覆った。ガクガクと身を揺すりながら、随分と長い時間をかけて、ゆっくり少しずつ放った。放っている間の姿を、ギンコが見ていると思っただけで、中々射精が止まらなくなる。
ギンコは化野の体の両脇に手を置いて、じっと首を項垂れたままで、彼の姿を見つめ続けている。やがて絶頂の過ぎた後、荒い息をなんとか沈めて、化野が斜めの眼差しでギンコを見た。
「…悪いな、我がまま、聞いてもらって…。もう、いいのか? あと一回くらい…」
「いや…」
化野の声が消え入りそうに細い。全身どこも震えているその様が、ギンコの脳裏に鮮明に刻まれて、正直、ギンコは後悔した。抱かれるだけで、毎回理性が焼き切れるものを、今度はこんなことまで覚えて、これにまで溺れたら身を滅ぼしそうだ、と。
ギンコが動けずにいるのをかすかに笑って、下にいる化野が無理にでも動いて身を剥がす。抜き取る時、思わず目を閉じたギンコの顔を、化野は熱に浮かされたような顔で見ていた。
「くっ、ふ…う…ッ」
短く声を上げたのは化野。抜き取られることで、また快楽に飲まれそうになって喘ぐ。
「は…は…。勃っちま…った、みたいだ」
「………」
「いや、別にいい…。自分で…やるよ。見てるといいさ…」
膝を開いて、化野は自分の両手をそれに絡める。竿を上下に扱きながら、丸みを帯びた先端を撫で、ぬるぬると零れてくるものを、指先に絡めている。自分でしていながら、強引な誰かの手で犯されてでもいるように、化野は辛そうに身を震わせていた。
先端の小さな穴から、とろとろと精液を零して、迸らないように加減して、これ以上部屋や、傍にいるギンコの体を汚さないように、射精を制限している。
「あ…ぁ…、んん…ぅ…ッ」
両手のひらで性器を覆い、背中を丸めたままガクガクと震えて、たっぷり数分も痙攣し続けたあと、化野はやっと全身の力を抜いた。寝返り打って、静かにギンコを振り向けば、ギンコは化野の方を見たままで横になって、半分放心したような顔をしいた。
「ふ…。なんだよ? 抱いたのはお前だろう。その顔じゃ、また俺がお前を散々責め上げたみたいだ」
「………」
どっちにしたって、同じだ。とギンコは何も言わずに思っていた。息を静め終えると、あっさりと化野は立ち上がり、ギンコに水を一杯渡してくれ、さらに隣室へ布団を敷きにいく。何も変わったことなど起こっていないような姿を見ていると、今も動揺すら冷めやらぬ自分の負けだと思う。
「これからは、そういう気になったらいつでもそうすればいい。お前にならどっちでも構わんよ、俺は」
そんなことまで言って化野は笑っているのだ。どこまで大きいのか、とそう思った。
「水が足らんか? 待っていろ。井戸から水を汲み上げてくる」
そう言って、化野はガタガタと雨戸を開けた。そのままそこで動きを止め、中々出て行こうとしない背中にギンコが気付いたのは、化野の次の声を聞いてからだった。
「………お、お前…。東雲…」
「兄上……」
開いた雨戸の外から寝乱れた姿のギンコへと、東雲の眼差しがはっきりと届いていた。
続
あら、とうとう誘惑に負けて出しちゃいました、東雲さん〜。双子ですからね、好きになるものが同じで当然かと思いますが。違いましたっけ。さて、どうするんでしょうか。楽しみたいと思います!
東雲と化野の過去のことも、ちょっと書けたらいいなー。
11/06/19
