「雪の東雲」という話と繋がっています。
そちらもどうぞー♪ 異色ものってとこにあるヨ。
雨の化野 3
明け方前、ギンコは化野の寝顔を見ていた。いつしか雨は上がっていたし、空は白々と明けて、閉じたままの障子から、朝の光が差し込んでいる。すぐ傍で横になっているから化野の顔はよく見えた。目を覚まして眺め始めてから、どうしても目を逸らせなくなって、ギンコは実際困っていたのだ。
長ぇ睫毛…。前からこんなだったか?
肌はまるで女の肌みたいだ。
触り心地とか、あんまり意識したことはなかったが…
無意識に手が伸びて、化野の首筋に指が届く。するり、と撫でて、思わず吐息をついた。
俺とは、全然違う感じだな。
育ちがいいとか、関係あるもんなのか。
そういや、髪も…。
ギンコは化野の髪にも触れた。指ですくようにすると、さらさらと指の間を零れ落ちる。眠りながらでも何かを感じるのか、化野の唇がほんの少し開いて、何かを呟いたようだった。
「…しの……」
寝言か? と、ギンコは思う。夕べ話をしたから、夢の中で思い出しているのかも知れぬ。きっと「しののめ」と、そう言おうとしているのだと思った。
「…め」
「お前の弟に…会ったよ、化野」
ギンコは極小さな声で呟いて、呟きながら今度は化野の頬を撫でた。そうしたら唐突に化野の目が開いて、はっきりと目覚めている顔でギンコを見たのだ。いつの間にか腕を掴まれていて、引っ込めようにも動けなかった。
「なんだ? ギンコ、夕べの続きがしたいとかか?」
「…っ!?」
起きていたのか。だったらさっきの寝言はなんだ? 振り、ということか? 心臓が破れそうに騒いでいる。聞かれただろうか。いや、まさか。殆ど心の中で言ったようなもので、声になどあまりなっていない筈だ…。実際、化野はそのことを聞いてこようとはせず、あっという間にギンコを組み敷いて、唇をギンコの喉に落としてきた。
「も、もう朝だぞ…!」
「そうだな。でもまだ早朝だろう。半時もあればお前を抱けるさ」
「馬鹿…っ、やめ…。ぁ…あ…」
着ているのは昨日のままの着物だ。しかも夕べ乱された名残で、もがいただけで裾が乱れた。する、とギンコの片膝があらわになり、太腿までが空気に曝される。化野の視線がそちらをちらりと見て、唇の片端を上げるようにして笑う。あらわになった下肢に、手のひらが這わされた。
仰向けのまま、両腕を床に縫いとめられ、もがけばもがくほど着物が乱れたし、胸を反らすような形になって、乳首の片方が空気に曝される。
「いい格好だ。色っぽいな、ギンコ」
「…や…っ」
顔を寄せられ、化野の唇がそこへ届く寸前に、ギンコはされることを想像して目を眩ませた。一瞬、ほんの一瞬だけ抵抗が止まる。愛撫を待つように、快楽に期待するようにだ。だが化野は、ギンコが思ったようにそこに吸い付いてはこなかった。顔を上げて、間近からギンコを見て、彼の唇へと唇を寄せてくる。先に舌を差し出して、閉じた隙間をなぞられるのが堪らなかった。
「ん…んぅぅ…」
塞がれているわけでもないのに、舌を入れられるのを恐れて、ギンコは唇を閉じたまま呻く。化野の舌先がからかうように唇の隙間を往復していき、背筋を駆け上がった震えが、体の芯にまで通るように染みた。そうして染みたものは、ギンコの雄芯へと届く。辛うじて着物の下に隠されたそれが、びく、と震え上がって濡れ始めていた。
「…安心した」
「な…っ、何が、だよ…ッ」
「いつもの反応だ。うぶで可愛くてな。相変わらず溜めっぱなしだろう。分かるぞ。半年近く、か? お前は自分でしないみたいだしな」
かぁ、と頬が熱くなる。ほんの少しの間、ギンコは本気で抵抗を試みた。二度ほど身を捩ったが、そのせいで体がどこも全部見えるくらい、着物が乱れてしまった。化野の視線が肌を辿るように下へと動いていくのが分かり、ギンコは思わず叫ぶように言った。
「み…見るな…っ」
「別にいいだろ。お前のは綺麗なもんだし」
ちゅ、と口を吸われ、その後はもう視線が刺さってくる。ギンコの片腕を押さえたままで、化野は余裕で視線を滑らせていき、その部分を特にじっくりと眺めているようだった。視線がそのまま愛撫のようで、ギンコのそれが震えている。先端がひくひくと反応して、とろり、とろりと精液が滲んで零れていた。
「見ろ。あんまり放ったらかしだから、見られただけであんなだ」
「あ…化野…っ」
「…してやろうか? それとも? 浮気じゃないってのは、もう確かめられたしな。時間も無いし、やめようか、ギンコ。ここでやめて自分でヌくか? やり方がわからなきゃ教えてやるぞ?」
酷いことを化野は言った。もしかしたら、まだ疑いは晴れていないのかもしれなかった。間近にある意地の悪い表情の顔が、それでも綺麗に思えてギンコは音を上げる。堪らなかった。こんな場合だというのに東雲の顔がちらついて、やっぱりあれも浮気なのか、と後ろめたくなってきたのだ。
「ひでぇ…な。あんまり、い、意地が悪ぃ、だろ。化野…」
「じゃあ?」
「……し、して…くれ…」
そしてもう疑うのはやめてくれ。自分でも、あれが浮気だったのかもしれないと思えて、その思考を止めたかった。双子の兄と弟と、両方と関係しているのか、自分は。抱いて、抱かれて、どっちの幻にも責められるのか…?
「なら、してやろう。嫌がるなよ、ギンコ」
化野はそう言って、ギンコの腕から手を離した。そうして何故か彼を起き上がらせて、自分と向かい合うように、膝を立てた格好で布団の上に座らせた。膝を立てていても、脚は閉じられない。ギンコの開いた両膝は、真向かいにいる化野の体を挟んでいるのだ。
「なんで、こんな格好…」
「それはな、こういうことだ。見ていろ」
「え…、何。ん、ぁ…、あ…ッ」
化野の手が伸びて、それを愛撫し出す。立ち上がり、反り返った雄芯の根元に指を添えて、先端へ向けてするすると扱く。にちゅにちゅといやらしい音がなって、そこに生まれた快楽は、ギンコの脳天に刺さるように響いた。
「や…ぁっ、あっ、あぁ…ッ!」
十回ほども扱いただろうか。あまりにあっさりと、ギンコは放った。びくびくと震え、白いものを飛ばすギンコの性器を、片手を添えたままで凝視して、化野は半ば伏せた目をしている。そう、あの長い睫毛だ。東雲とそっくりの。
手元を見ていろと、自分の性器を見ていろ、と、そう言われたのはわかっていても、化野の顔から目が逸らせなくて、ギンコは苦しそうな顔をしていた。それに気付いていないのだろう。化野は懇切丁寧に説明までしながら、さらにギンコのそれを弄っている。
「いいか、一度軽く放ったからといって、ここで終わりじゃ駄目だ。ちゃんとヌかないとすぐたまるからな。そら、ここにな、たまってるんだ。まだ張ってるし、重いしな」
手のひらを上に向けて、化野はギンコの雄芯の下にある袋を、下から包むように握った。緩く握られただけで、息が苦しくなる。
「さっきみたいにもう一回扱いてもいいが、ここをこうするという方法もある。いいか? 感じるぞ。なんなら俺の着物の襟でも噛んどけ、叫んでも隣家まで聞こえるとも思えんが、もうきっと起きてる」
なんでもないことのように、そら、と、声を掛けながら、化野は片手でギンコのうなじを引き寄せた。素直に言うことを聞いてる自分もどうかしている。化野の肩に頬を押し付けて、彼の着物の襟を噛んで愛撫を待つ。火花みたいに弾ける過激な快楽に、体が痙攣した。
「んぅう…ッ、んん…!」
化野の指先が、くりくりと先端を弄って、そうしながら手の中でギンコの袋をもみくちゃにするのだ。射精も一瞬で訪れる。雄芯の中を精液が走り抜け、どくどくと大量に放ちながら、気が変になりそうな快楽を、ギンコは味わわされた。
はぁはぁ、と荒い息をつきながら、ギンコは化野の腕の中で、半分意識を失ってしまっていた。そんな彼の体を大事そうに支え、布団に横たわらせてやってから、化野はおかしそうに苦笑する。
「なんでだろうな…。お前の体は確かに俺に『何もなかった』と教えてくれているのに、何故だか心が騒いで、どうしようもならんよ。でな…? さっきの…聞こえたぞ、ギンコ。…会ったのか…。そうか…そりゃぁ、似ていて、驚いたろうな」
化野はギンコの唇を吸おうとしてやめた。その代わりに脚を開かせて、ぐしゃぐしゃに汚れた場所を舐めてやった。舐め回すたびに、辛そうに痙攣するギンコの肌を感じて、せめてもと自身を宥めていた。
ギンコは俺のものだ。変わらず俺のものだ。
何があったかしらんが、言わないのなら言わせるぞ。
でなけりゃお前を、笑って送り出してなぞやれるものか。
雨が降っていればよかったのに。化野は障子をあけた向こうの青空を、恨めしそうに眺めた。青空の下で晴れやかにしていられるような、そんな心境にはなれなかった。
続
スイマセン、激烈エッチな展開となりました。これですっきりしたのか、本日書いた別の話は、エロシーンはかるーくスルーですが。書けば書くほど先生と東雲とギンコを、同時に会わせたくなるのは何故でしょう。か、書いたら怒りますか…? そのうち書いたら石投げますか?
11/05/15
