移 緋 2
感じたのは、熱くて柔らかな化野の…舌先の味だった。
うっすらと口を開いて受け入れていて、けれどもギンコの体は再び、凍りついたように動かなくなっている。差し出した舌に絡められる舌の感触。痺れるように、体の芯に何かが満ちて、それが羞恥なのだと追いかけられるように判る。
「あ、だし…っ。ん…ぅ…っ」
閉じた蔵の戸は、自身で鍵をかけた。何が起こるか判っていた。背中を強くそこに押し付けられて、逃げ道のないままギンコは微かに身をよじる。長い深い口付けで、溢れる唾液が零れて、あまりに淫らな自分と化野とに、眩暈のような動揺。
「すまん…嫌なら、そう言ってくれ。逃げてくれ。…ギンコ」
甘い囁きを聞いて、頬を、首筋を両方の手で包まれて、もう既に目が潤んでいる。
「ギンコ、いい…のか…?」
「…言っ…ただろ、今は、お前の願いが叶う時だ。俺の意思なんか…っ」
「俺は、無理強いはしたくない」
零れた唾液を、名残惜しげに舌で舐め上げ、それでも化野は理性を振り絞ってギンコから離れた。彼を捕まえていた両手を離せば、ギンコはずるずるとその場に座り込む。
「悪かった…。さぁ、出よう。こんな薄暗いとこを出て、朝の光の中にいれば大丈夫だ」
ギンコは座り込んだまま、弱弱しく笑って化野を見上げ、小さく首を横に振ると、震える腕をゆっくりと持ち上げた。
こりゃあ、ある意味、拷問だ。俺にだけじゃなくて、お前にもさ、化野。自分で判ってもいなかった望みを、その目の前に突き付けられちまうなんて、俺なら勘弁…して欲しいもんだよ。
ギンコは化野から目を逸らして、自分の着ているシャツの胸をたくし上げる。腹も胸もさらし、その上の鎖骨の窪みまで全部見せて、揺れる声で呼んだ。
「あだしの…。こ、こんな格好させて、今更、放ったらかしは無し、だろ」
白い肌、滑らかなその胸を裏切るような、薄紅い箇所が、誘うように段々と尖って、さらに色づいて。化野にもう言葉は無かった。彼は床に膝を付いて、甘い小さな果実を味わうように、そこに吸い付いた。びくり、とギンコの体が跳ねる。
「ぁ…っ、あ…」
息に悲鳴が混じるような小さな声を立てて、ギンコは固く目を閉じていた。舐め上げられると、さらにそこは物欲しげに尖る。くすぐったさと快感が混じったような、そんな甘い痺れが、一瞬で下肢へまで届いて、力の抜けていた膝ががくりと揺れる。
じわり、と何かが滲むのを感じながら、執拗に胸をなぶられ、気付けば背にあった壁は埃の積もった床に変えられていた。
「はぁっ…はぁ…っ…ん、ぁふ…」
ずり落ちてくるシャツを、ギンコは何度も何度も、自分の手で掴んで持ち上げる。化野の前に胸を突き出し、紅く紅く、血の色さえ思い出す色に染まっているそこを、さらに舐め回してもらい、歯を立ててもらうために。
「ギンコ、すまん…こんな…」
いつも通り、理性的に言う言葉が上ずっている。既に背を床に預け、首だけは壁について苦しい姿勢だったギンコの体を、少し下に引っ張って楽にさせ、化野はそうっと彼の唇に唇を乗せる。
「謝んなよ…。ったく、お前、いっつも抑え過ぎてるせいだろが。だからこんな…。…あ…っちぃ…」
唇が離れると、ギンコは横を向いて、消えそうな声でぼそりと呟く。薄暗い蔵の中にいちゃあ、気付かれることはないかもしれない。ギンコのそこはもう濡れて、下着どころかズボンにまで、濡れた跡が付き始めている。
謝るなと言われ、いつも我慢してきたことを言い当てられ、黙ってしまった化野の前で、ギンコは自分のズボンの留め金に手を掛けていた。化野の紅い目が、ギンコにそれを強いるのだ。
「ほんと、酷ぇ…のな、お前…。こんな恥ずかしいのは、初めてだよ…」
窮屈になってしまった前を開けて、震える足に力を入れて腰を持ち上げ、やっとのことでギンコはズボンをずり下ろす、一緒にずれた下着は、それへ引っかかって半端で止まる。
「て…手伝って…くれよ…」
ギンコの声は消え入りそうだ。はた、と我に返って化野が手を伸ばし、ギンコが半端に脱いだズボンを取り払う。はぁはぁ、と、ギンコの息が上がるのは羞恥のせいだ。
もう濡れそぼった下着も、その下ですっかり固く反り返った彼自身も、化野に見られてしまう。触られてしまう。口付け一つと、胸への愛撫一つで、こんなに乱れて欲しがっている自分が、化野の目にはどんなふうに映るのか。
「み…っとも、ねぇなぁ…」
「これも、蟲のせい、なのか…?」
「俺が、知る…かよ…っ」
知らないと叫ばれて、それでも化野は知りたいと思った。ただ今だけの一時、蟲の味方がついたせいで、今日のこのギンコがあるというのなら、それは無理強いとどこも変わらない。
「ギンコ…」
名前を呼ばれただけで、ぞくぞくと震え上がりながら、ギンコはそれでも化野の声に混じる寂しげな思いに気付いた。
「ギンコ、お前は…本当には、俺とこんな…」
「なら、言ってやるっ。…いつも焦らされてばっかりで、こっちも変になりそうだったよ…ッ。だから今日くらい…焦らすな、化野。嫌だったら、移緋がついたと判った途端に、黙って逃げてたさ」
ギンコは化野の願いを知っていた。どうしたいかなんて、来るたびに見え見えだった。互いに臆病で、好きだからこそ奥手で、だから二人の間はいつも、日差しの下の細かい砂のようにさらさらと乾いて、綺麗で温かくとも、それ以上に近づけなかったのだ。
優しくて安心できても、どうしてか喉が渇くような日々。分け合う湿度を求めて、手を伸ばせずに縮こまっていた。
ガキの「ごっこ」じゃねぇんだよ。互いに欲しいんならもっと、もっと想いを解き放って、したいだけする夜を過ごしたっていいだろうに。
ギンコは化野の緋色の目を見つめ、それからごろり、と横向きになって、背を丸めて横になってとうとう下着に手を掛けた。震えたままの手で、するりとそれを引き下ろす。膝上で止まったそれを、化野の手が手伝って最後まで脱がせた。
脱いだだけにとどまらず、それ以上求められていることに気付いて、ギンコが涙声で呟く。
「…んで、こんなことさせる…? こうでもなきゃ、俺が望んでる…って、自信もねぇのか。困った…もんだな、先生…」
自分の膝裏の手を掛けて、ゆっくり脚を左右に開いて、脚の間のものも、その下にぶら下がるものも、さらに奥の閉じた蕾のような場所も全てさらして…。ギンコは激しい羞恥だけで、息が止まりそうになっていた。
「…だって、お前はいつも、俺に抱かれたいなんて、一言も言わないし…。聞いたって返って来るのはもしや、一宿一飯の恩義とやらなのかもしれなくて、どうしても…」
「じゃあ、今日はこんな、はっきり見せたんだから、判るだろ…っ」
続
えーと、単なるエロスですいませんっ。本日二話同時アップですので、ここはサラリとー。よかったら続きをどうぞ♪
10/02/05
