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続・シロオオカミ  3






 あぁ、綺麗だ。なんて…。

 白い髪に白い肌。ちゃんと筋肉のついた体は、彼よりもずっとがっしりしているのに、化野は見惚れてしまって目が逸らせない。その体が目の前で動いて、シャツの次にスラックスと下着を脱ぎ捨てた。乱れた前髪を掻き上げれば、閉じた左目の瞼が一瞬見える。眼窩におさまった右の目は、まるで、命のある宝石のようで。

 綺麗だ… きれい… 

 うっとりと潤んだ化野の目が、自分の顔や体を見ている視線を、ギンコは淡々と受け止める。

「あんたも随分、この見目が好きみたいだな…。だったら目を閉じんなよ。今日みたいなのは一回限りかもしれないぜ?」
「一回…かぎ…り…?」

 途端に悲しそうになる化野を、困ったような表情で見る。ギンコは彼の体の両脇に手を突いて、獣のように這った姿勢で顔を寄せた。胸と胸が一瞬触れる。片方の乳首だけを化野の肌に擦らせて、軽いキスを唇に落とした。

「そういう意味じゃねぇんだ。一々怖がるなよ。…つってもな、俺はあんたに、この先の何の約束もしねぇけど」

 慰めながら、同時に不安にさせるような事を言う。そうして、ちゅ、と、また口を吸った。

「口、開けなよ」

 からかうように舌先で化野の唇をなぞり、そのまま深い口付けをする。約束はしてもらえないのだと、気にかけていた化野の意識を、そのキスが見る間に蕩けさせていく。着衣のまま、どこか別の場所で交わして身を放す、そんなキスとは違うのだ。そんな生易しいものじゃ、ない。

「…ん、ん…ッ…。ぁあ…、ギ…ンっ、い、息が…」
 
 はぁ…、と苦しそうに喘いで、化野が無意識に逃げれば、それを追いかけるようにまた口を吸われる。体に取り込まれる空気が、一気に半減していた。呼吸が変に浅くなって、乱れて、息苦しさに目が眩む。

「気持ちイイだろ? 少し苦しくて、意識がイっちまいそうに頭がくらくらして。あぁ…あんたも男だな、入れたがって、腰がガクガクいってるぜ」

 言葉を放っている間は、口付けは止まっている。その代わりのように、ギンコの指がするすると化野の胸を弄っていた。親指の腹で、触れるか触れないか。かと思えば、爪の跡に赤いものが滲むほど、きつくなぶられて、知らぬ間に腰が揺れていたのだ。

「…待ってな、今」

 そう言って、ギンコはローション瓶の口を、化野の先端に触れさせる。とろりと残りの液体が零れ落ちてきて、それを塗り広げるようにギンコの手が化野の性器を扱いた。

「あ…っ、ぁ…ひ、ぁあ…ぁッ」
「…あんた、ほんとにいい声してる。実際、堪んねぇよ。今、イってもらっちゃ困るんだけどな」
「え…っ? な、に…。ぁあ…っ」
「なにって…。まぁ、今に分かるさ。もうちょっと、いい声で鳴いてなよ。イかないように俺が調節しててやる」

 けして元々高くは無いギンコの声が、さらに低く深くささやく。

「…そら、ここもイイだろ? こっちも?」
「や…っあ…ッ、ん、んぁあ…っ、ぁひ…ぃ…ッ」
「…イきてぇだろうな。まだ駄目だけど」
「は、ぁ、ぁうっ!」

 弄られながら、言葉で耳まで犯されてるようなものだ。化野の性器は、ギンコの手の中で跳ねて、本当はもう何度も軽くイっている。それを先端を塞がれ、絶頂が止まるまで塞いだままにされるから、本当の意味での絶頂は来ない。

 放ってすらいないのに、放った直後と同じほど敏感な性器を、さらに苛められる。先端を指で丸く撫で回され、ひくひくと収縮する穴を、爪の先で刺激された。

「い、やだ…っ。ひ、ぁ…ッ」

 抵抗するまいと決意していただろうに、そんな意識はとうにどこかへ霧散して、化野の手がギンコの手に掛かる。その反応はけして嫌悪からではなかった。ただ、知らなかったことへの恐怖と不安。強すぎる快楽から、心と体の両方が逃げたがる。

「もぉ…やめ…っ…。や、ぁあ…ぁ」
「…やめるか? 客が本気で嫌がってるなら、そりゃやめるけど」
「あ…ぁあ…」
「あんたは客じゃない。…そうだったよな?」

 視線が合って、化野は頷いた。二度も、三度も、頷いた。ギンコの目がほんの少し和らぐのを、あまりに幸せな気持ちで彼は見た。何度でも思う。後悔は、しない…。

「…客じゃ、ない…よ…」
「なら、安心してな、そう簡単に狂いやしねぇって」
「うん…」

 少しかすれたその声が、ギンコの欲情の証だなんて、化野は知らない。化野の性器から手を放して、ギンコは彼の腰を跨ぐように脚を開いた。

「最初も言っただろ? 目を閉じないで俺を見てなよ。俺があんたとのセックスに、ヨくなってくとこをさ。そしたら、入れられるのも痛ぇばっかじゃねぇのがわかるから」

 頷きはしたものの、化野には意味が判っていない。ギンコの下毛が、目に焼きついてしまうくらい真っ白くて、そこで屹立しているものには、殆ど意識がいかなかった。何も考えずに手を伸ばし、その手を取られてシーツに押さえつけられた。

「くく…っ。何する気だよ、あんた。…ぅ…ぁ…あ」
「…っ…」

 笑ってギンコが言って、その直後の事だった。ぎゅ、と化野のそれが何かに締め付けられる。そうして彼の見ている前で、ギンコのきつい目がとろけた。揺れて、潤んで、唇からは甘い息を吐く。喉を逸らして、肌を震わせ、無意識に仰のいてしまった顔を、無理するように下へと向けて、ギンコは化野と視線を合わせる。

「分かる…か…? 俺のここに、あんたのが…」

 言われるまで、化野はよく分かっていなかった。今までギンコの手や口で、散々なぶられていた自分の性器が、ギンコの手にも唇にも触られないで、それでも何かにきつく締め上げられて、刺激を受けていること。その意味を。

「あ…っ、ぁ…」
「…なぁ? 勿論コレも初めて、だろ? 少し痛いか? 痛いんなら緩めてやれるぜ…?」

 今まで以上の熱い息。上擦ったような声。悩ましく眉を寄せて、ギンコが息をゆっくりと吐くと、言葉のとおりに圧迫感が緩くなる。緩めたままで、腰を揺するのは正直至難の技だったが、それでもギンコには不可能じゃない。

 化野の胸に両手を付いて、ギンコは膝を開き、胸を捩じらせて喘いだ。それでもゆっくりと腰を上下させ、苦しさと気持ちよさが混ざり合ったような、酷く扇情的な顔をする。

「ふ、ぅ…っ、ギ…」
「呼べよ…。ギンコって…ほら…」

 ぐ、とギンコが腰を沈める。強くなる快楽に化野は身を震わせて、シーツに強く立てた爪が、真っ白くなっていた。指が折れてしまいそうなほど力が入って、そのまま引っかくように布を握り締める。

「あぁ…、ギ、ギン…コ…っ。うぅ、あぁあ…ぁッ!」

 ぶる、とギンコは震えた。化野のそれが彼の中で脈を打って、熱いものがギンコの中にどくどくと溢れてくる。

 化野はまるで、強姦でもされてイってしまったかのように、体を痙攣させて喘いで、随分辛そうにしていた。そんな彼の顔をうっとりと眺めながら、ギンコもかすかに身を揺するようにして、軽く果てる。

 ギンコは片手をそれへ添えて、自分の手の中に受け止めるように放ったが、勿論受け止めきれるはずもなく、白くて熱い精液が、ぼたぼたと化野の胸の上に零れていく。

「どうだった? 聞かせなよ、初体験の感想。…おい…化野?」
「………」
「なんだ…飛んじまったのかよ? この程度で?」

 呆れたように肩をすくめて、それでもギンコは随分と気を遣い、ゆっくりと体を離した。意識の無い化野の体を、楽な姿勢に直してやり、彼の肌の上に飛んだ自分の精液をふき取って、他の場所も簡単に綺麗にしてやり、そのティッシュをくず入れに放る。

 裸のままでベッドの脇に座って、ちらりと時計を見ると、時刻は早朝とも、深夜とも言い難い三時半。ギンコは床に放り捨ててあったズボンを拾い上げ、そのポケットの中の鍵を手にとって眺めた。シャワーを軽く浴びて、そのまま帰るかどうか、迷う。

 ちゃり、と音を鳴らして、それを片手に握ったまま、もう片方の手には煙草とライター。服も着ないで窓の傍に立って、閉じた厚手のカーテンに寄りかかり、ギンコは煙草に火を灯した。手の中の革のキーホルダーには、模様も何も無い。イニシャルでも入れれば、多分、丁度いい感じの。

「…ふ…。また随分と、可愛いことを」

 そう言って細く窓を開けると、白い煙は外へ吸い出されるようにして消えた。










 
エロばっかりのシーンなんで、飽きますよね。ごめんです。寝なきゃ何もわかんない(だっけ?うろ覚え)なんて、イサザに言われたギンコですが、そんなあんたが私はわかんない! まぁ、つまり、性の対象かそうでないかっていう考えで、最初相手を見るからって意味かな。

 え? 違う? 

ベタですが、これから化野の真っ直ぐな思いに、戸惑いまくってヤられてしまえばいいよ。っていうか、このあとのシーンは特に書きたかったところなんで、私がヤられてしまいそうですーっ。早く書きたい!

自分に言うわ、待て次回!






11/07/10