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続・シロオオカミ 2
「立てるか…? なんてな。立てるわけねぇか」
声をかけられて小さくもがく四肢の震えが、離れて見下ろしててもはっきり分かる。
「あ…っ、ぁ…」
「でも、ここでじゃ嫌だろ?」
くす、と小さく笑う声。
「抱き上げるにゃ、ちょっと狭いしな」
腕を掴まれて強引に立ち上がらされ、ギンコに支えられて部屋の中へと歩く。気付けばギンコの片手は後ろから化野の右の脇に、もう一方の手は左腕をしっかりと掴まえて、これ以上は無いほどうまく支えられていた。
耳朶にまた熱い息が掛かってくる。小さく首をすくめるようにして、化野は無意識に目を閉じた。またよろめいて、前のめりになって手を突いた場所が、やっと辿り着いたベッドだった。
「やり方、分かるか? 俺があんたを抱くんだから、別に知らなくても構わねぇけど」
ギンコは軽い口調でそんなことを聞いた。そうしながら、躊躇いもせずに化野の服に手を掛ける。
ひょい、と膝を持ち上げられたと思ったら、仰向けにベッドへ転がされ、それと殆ど同時にズボンと下着を、一瞬で脱がされてしまう。ふるり、と化野のそれが、脚の間で跳ねた。シャツのボタンの最後の一つを外されて脱がされ、最後に残ったネクタイは、息遣いのような音を立ててほどかれた。
ギンコを見る化野の目が、酷く怯えている。与えられたあの快楽は、彼の理性をばらばらにして、後に怖さだけを残していった。
「ギ…ギン…」
「ギンコって呼べよ。…怖いか? あんたはなんで俺なんか好きなんだろうな」
ギンコの声がそう言った。言いながら彼は化野の腕を押さえて圧し掛かる。その視線は下へと流れて、剥き出しの下肢を捉えた。派手にイかせたままの性器。灯りの無い薄暗い中でも、そこがどんなふうになっているのか判った。
する、と彼の片手のひらが化野の大腿を撫でていく、上へと向けて、そして内側へと。指先で小さくくすぐるようにすると、化野は喉を逸らして小さく首を横に振った。
「これでそんなに感じてんのか。でも、もう加減しないぜ?」
「あぁ…ッ…ぁ…」
「怯えてる癖に、随分元気だ。…勃ってきてる」
じかに握られて、そのまま上下に揺するように扱かれて、化野は悲鳴を上げた。放ったもので汚れたままのそこから、にちにちと淫らな音がする。その音がさらに酷くなって、耳を塞ぎたい心地がした。
「は、ぁ…っ、んん…ッ、あ…ぁっ」
「あんた、こういうのは苦手そうだけどな…」
「…ぁ、何…、ひ…! あ、ぅうッ!」
ギンコは慣れた仕草で身を屈めた。右手で軽く扱き上げながら、ほんの一瞬も愛撫を止めないまま。そうして顔を寄せて、それを口に含んだ。先の丸い部分を愛でるように、軽く舌で舐めてから、その後はもうほんの少しの躊躇いもなく。
速い勢いで根元を擦りながら、口内では舌先で先端を舐め回した。何度か軽く吸って、舐めて、もう一度吸って…。その間化野は、自分が何をされているのかも、判らなくなるくらい感じて、シーツにきつく爪を立てながら、あっさりギンコの口の中に放ってしまった。
放ちながら、びくびくと身を震わせる化野。口に溢れてきたものを、ゆっくり、ゆっくりと飲み下していきながら、ギンコは視線だけで化野の様子を窺った。
もう、半分くらい、意識が飛んだようになってる。全部飲み干した後も口を外さずに、もう一度、今度は小刻みにすすってやると、痛みでも感じたように化野は小さく眉を寄せて、やっとギンコの方を見た。その時の見事なまでの反応。咥えられているのに気付いて、飲まれたことも分かって、泣き出す寸前の小さな子供みたいな顔をする。
「ご…め…。我慢、出来なく…って…」
「………」
「…ギン、コ……。飲…っ」
くち、っと小さな音を立てて、ギンコの口がやっとそこから離れた。見せ付けるように舌舐めずりして、白いものを纏いつかせたその舌で、ギンコは化野の腹を舐め上げた。
「飲んでるのを見せてみたくて、わざと口でイかせたんだ。あんたが謝るのは変だろ?」
化野が声を失うようなことを言いながら、ギンコはシャツのボタンを上から二つ外し、僅かばかりそうやって服を崩す。化野は肌を隠すものを全部取られ、とうに裸のなりなのに…。
「なぁ? あんたのイく顔、どんなだっけ?」
「…あ……」
視線を合わせたままでそう言われ、化野の頬に朱が差す。ほんの少しだけ顔を逸らして、ごく、と化野が息を飲んだのが分かった。それを見て何か気付いたのか、ギンコは唐突にベッドから降りた。まるで自分の家にでもいる態度で、勝手にキッチンへ行って、勝手に冷蔵庫を開けている。
「なんもねぇな…」
そんなふうに呟く声が届いて、そのあとでギンコが持ってきたのは、中位の大きさのペットボトルと硝子のコップ。ミネラルウォーターをコップに注いで、先に自分が一口のみ、そのあとで口に少し含んで、化野にも口移しで飲ませた。
叫ぶと喉が渇く。喉をカラカラにしたまま、ずっと喘いでいるのは随分苦しい。下手をすれば吐く。そんなことを淡々と考えて、ベッド脇の棚にボトルとコップを置いた。
「あ、ありが…」
「そういうの、礼とか言うの…やめろよ。耳慣れねぇ。…続きだ。脚、もっと広げな。大きく」
「……うん…」
耳まで真っ赤にしながら、ほんの僅か化野は膝を開く。ギンコはその両方の膝裏に手を入れて、股関節が軋むほど開かせた。胸ポケットからローションの瓶を取り出し、片手の指だけで栓を開けようとするが、固くて開かない。蓋に歯を立てて捩じあけると、プラスチックの中蓋もついたまま。
用意の足りないそんなことが、煩わしいより面白くて、ほんの少し目で笑う。化野はそんなギンコに見惚れるように、かすかに目を細めていた。ギンコはその視線に気付いて、うるさそうに顔を歪める。
「なんて顔して見てんだよ」
「…あ、だって…き、綺麗だから…」
「この見目かい? ただの突然変異だろうけどな。まぁ、これのお陰で物珍しくて指名も取れるから、便利なもんだぜ? …あんたもそうだろ? 目立つからな、この目も髪も」
なんだか、酷く悲しいことを言われた気がした。なのに、違う、なんて言えるはずも無かった。直接話もしないうちに好きになって、好きだと告げて、今からとうとう「ひとつ」に、なる。外見が好きなだけだなんて、絶対に違うはずなのに、だったら何処がと問われたら、きっと何も答えられない。
あんたはなんで、俺なんか好きなんだろうな…
少し前、淡々と呟かれたギンコ言葉が、胸のどこかに刺さって痛い。でも、本当に好きなんだ。他の誰よりも好きで、こんな気持ちになったことなんか、生きてきて初めてなのだと、そんなふうに言うことは出来る。伝えようと決意した化野の顔を、ギンコはちらりと見て笑った。
「…見るからにノンケのあんたがさ、こんな危ねぇヤツに身を差し出すのは勇気がいるだろ? そんなキツキツに窄めてたら、実際指も入らねぇから、力は抜きなよ」
指先で、すり、とそこを撫でられて、化野の膝がもがく。逃げたがる膝を押さえ無理に膝を倒させると、ギンコは片手で化野の尻肉を広げる。歯で毟り取るようにしてローションの中蓋を外し、それを傾けて中指と人差し指を濡らした。
「ほんとはこんなの、別にいらないんだぜ? さっきからあんた、ぬるぬるしたもんを散々放ってんだろうが。それで充分こと足りる。まぁ、折角だから使うけどな」
とうとうギンコの指先が、きつく閉じた穴の中に入ってくる。シーツを握って、化野は無意識に上半身を捩じった。
「息を吐きなよ」
「…んぅ…う…ッ」
「止めるな、吐いて…」
止まってた息を無理に吐くと、そのまま忙しなく喘いでしまう。ギンコは中指を化野のそこへと捻じ入れ、少しばかり強引に中を抉った。直接そこにローションを足らして、ぐいぐいと肉を抉っていく。化野の中は随分きつくて「気持ちいい」より「苦しい」ばかりに見える。
「ぃ…あ゛…ッ、ぁぁあ…っ!」
「…いいから、息をしてな。そんな食い千切るみたいに力入れてたら、中を傷付けちまう」
ギンコはローションの瓶を、今度は化野の性器の根元で傾ける。そこを濡らして下へと流れた液が、尻の割れ目に届くほどたっぷりと。ベットが酷く汚れたが、構ってはいられなかった。
性器そのものを丁寧に愛撫して、そうするうちにほぐれてくれやしないかと思ったが、痛みと恐怖は相変わらずのようで、ギンコは化野の頬が、ぼろぼろと零れる涙で濡れているのに気付いた。
「化野」
ちゅ、と音を立てて、ギンコは化野の口を吸った。
「しょうがねぇ…。このまま突っ込んだら俺も痛ぇし」
情けなさそうに笑って言うと、ギンコは化野のそこから指を抜いて、もう一度深く彼の唇を吸う。
「俺はなんでこんなに、あんたを甘やかしちまうんだろうな」
シャツを脱ぎジッパーを下ろして、ギンコは呟いた。聞いているものがいたら、好きだからだろうと決め付けられそうだった。
「…ただの気まぐれだ」
聞く相手もいないのに言い訳して、ギンコはまた少し笑った。
続
エロシーン続きなのは、まぁ、もともとそういうストーリーなので、仕方ないとして、さすがに、こう…そればっかりだと間が持ちません…っ。なんか考えないといけなですねっ。
そして当初からの予定でもありますし、先生もう、いっぱいいっぱいみたいだし、大怪我させるのもまずいしってんで、上下交替のお時間ですね。先生はそれで、受ギンコの色気にもヤられるといいと思います。
ではまたー。
11/07/03
