水揺らぐ夜 sui you ya 3
初めて来た里だ。道筋など知らない。上へ行けば恐らく山だろう。下へ行けば海だろう。
ギンコは坂を下る。立ち木に縋り、崩れそうな膝を励まして。膝をついてしまったこともあった。それでも身を起こして進んだ。後ろから迫る足音のないのが、逆に恐ろしくてならない。家から外へ逃げられたくらいで、諦める筈はないだろう。
いつしか波の音が近付いている。
ああ、そうだ。木箱の中に、こんなモノをもっているのに、海へと近付くなんて、愚かだったのかも…しれない…。怯えながら振り返るが、あの医者の姿は見えなかった。
身を隠しながら進もうと、道を逸れていけば、いつの間にか足元は浅い砂。砂の向こうは岩場。その向こうには波が見える。もう海は、間近だった。木箱の中で、あの蟲は水の気配に歓喜しているかもしれない。
なんらかの方法で、木箱の中のその蟲に、操られている気がしてくる。歩く方向を狂わせる蟲も存在するのだ。海へ歩いているのは本当に自分の意思か? 今からでも行き先を変えて、海を離れた方がいい。山の方を目指して…。
「ギンコ」
「…あ、ぁ…っ」
目の前の大岩の向こうから、人影がするりと現れた。月の明かりは朧だが、それでも声で、その影で化野なのだと判る。後ずさろうとした脚が、砂に埋まる。転びかけて捕まった岩で、手の甲に傷を受けた。
「危ない。転ぶ」
差し伸べられた化野の手が、ギンコの二の腕を掴み、容赦ない力で自分へと引き寄せた。
「離、せ…ッ…」
「危ないから大人しくした方がいい。いや、大人しく、しててくれ」
淡々とした声が、耳元で囁かれた。化野はギンコの体を両腕で縛るようにして、慣れたふうに物陰へと入り込む。大岩の裏へと回ると、そこは波の打ち寄せるぎりぎりの場所で、濡れた黒い岩肌が、鈍い光を反射していた。
岩の窪みにたまった、浅い砂の上で一度は化野を突き飛ばし、ギンコは彼の顔を見上げている。
「お前、足、大丈夫か? 裸足でこんなとこまで歩いて、岩で切ったりしてないか?」
まるで友のようなその物言い。後ろめたいことなど、何一つないとでもいうような、あまりに淡々とした言い方が、ギンコを奇妙な気分にさせる。態度と仕打ちの落差が怖い。
「俺を捕まえて、何、する気なんだ」
「…何するってか? まぁ、そりゃ、見たいだけのつもりだったんだが」
「み、見るって、何を」
「全部」
砂の上に座り込んだ体が、その言葉に怯えて強張る。化野はギンコの傍に膝をつき、ゆっくりと片手を伸ばした。ギンコの裸足の足首を掴み、強い力で自分へと引く。
「や…、さわ、るなっ」
もがこうとしても、体は自由に動かない。思い切り暴れるはずが、膝を緩く揺する程度しか、足が動かず、逆の足首もすぐに捕まえられる。体を捻るようにうつ伏せにされ、弛緩した両腕から、木箱の背負い紐が外された。
「やめろ…っ、頼むから、俺の荷物に…触れるな。中には、あ、危ないものもあるんだ。だから…」
怒りよりも、怯えを。怯えよりも哀願の響きを滲ませて、ギンコは化野の顔を見上げる。木箱を奪い取ってしまうと、化野はそれを傍に放り出した。そちらへの興味は、さほど抱いていないようで、化野は一度ギンコから離れて、彼に背を向ける。
岩のくぼみの、少し高い場所に吊るしたランプが、そう明るくはない光を二人に注いでいた。化野はそれを手にとって、ギンコの体の傍らに、その灯りを置いて火を強めた。そうしてギンコの衣服に手を掛ける。
「し、正気か…っ、あんた。男の俺に、なんで…ッ」
「正気かどうか知らないが、欲しいものを我慢できない、ただ、そういう性格なんだ」
「ひ、ゃ、あぁ…ッ」
殆ど動かせない筈の体が、その時ばかりは、がくりと跳ねた。化野はギンコの服の上から、そこを手のひらに握り込んでいるのだ。そうしてすぐに指の力を緩め、下から上へとそろりと撫でた。
「すぐに済むから、我慢しててくれよ」
ギンコは声もなく、ただ、緩々と体をよじっている。脚をバタつかせ、両腕で岩を掻き毟り、そうして必死で逃げようとしているのに、実際は砂に爪を立てるだけ。膝をがくがくと震わせるだけしか、もうギンコには出来なかった。
そうやってもがいている間に、ギンコの珍しい衣服を、不慣れな手付きで化野は剥ぎ取りにかかっている。ズボンの前に手を掛けられ、緩められて引き下され、もう、下着の上から視線がそこに突き刺さっていた。
「や、や…め…っ」
「あぁ、本当に見れるとはな…」
うっとりと呟かれるそれが、とても正気の言葉とは思えない。化野は指先だけで、ギンコのそこにそろりと触れ、その温かな感触に、無意識の溜息をつく。ギンコは布越しに触れられるたび、固く目を閉じて唇を噛み、押し寄せる羞恥と屈辱に堪えるしかなかった。
「実はな、ギンコ」
と、化野は言うのだ。
半年前に、俺は山の中でお前を見たんだ。遠かったから、お前は気付いちゃいなかったし、俺が見たのもほんの一瞬だがな。ここから峠二つ向こうの山の中で、お前、泉だか池だかで水を浴びていただろう?
「その姿を見た時から、俺はお前を、もっと傍で見たいと思ってたんだ。あの時、裸でいたお前のここを、遠くから、ほんのちらとだけ見たのだが、綺麗な色をしていたっけな」
だから、もっとよく見せてくれ。
息遣いだけの声で、化野はそう言った。ギンコは必死で身を捩り、無駄と思い知りながら、もがいていたが、それは何の意味もない。
そうして、とうとうギンコは下着まで引き下される。化野が見たがっているその場所が、淡いランプの灯りの傍で、外の空気にさらされ、舐め回すような視線を浴びた。 化野はごくりと息を飲み、長いこと黙り込んでいてから、上擦った声で言うのだ。
「やっぱり綺麗だ。こんなに白くて。白いというより、柔らかそうな銀色で。その下の桃色が…少し、透けて見える」
「う…ぅ…っ。やめて…くれ…」
その時、震えながら懇願する、ギンコの言葉は、化野の耳には届いていないようだった。
続
す、すいません。化野センセ、変態で。セリフがエロいですよね。セリフが。でもまぁ、本当はもっともっとエロセリフが出てきそうですが、実際、書く時になったら、そのセリフを書くことに抵抗があるかもぉ〜。
まぁ、書いてみてのお楽しみです。先生、どこまで変態になるんだ。そしてどこまでギンコさんをイジメるんだろ〜。あんま楽しんでると、後で手痛いことになる!かもしれないねぇ。ひひひ。
ま、これも書かなきゃ判らないけどさ。ふっふ。ではでは、続編をお楽しみに。こんな話でスイマセンんんんんん〜。
07/10/20
