水揺らぐ夜  sui you ya   10





 ギンコは思っていた。一体なんで、こんなことを、俺はさせているんだろう。どうしてこいつは、こんなことをしたがるんだろう。

 欲しがられることにも、求められることにも、酷く餓えていた自分のことなど彼はよく知らない。ただ、化野が自分に向ける目が、嬉しくて仕方なく、好きだ惚れたと、臆面も無く繰り返される言葉に、胸が芯から温まる。

 俺は、珍品好きのこの医家に、物珍しいものを買って貰おうとやってきた。そうして罠にはめられて、あんな…あんなことをされたのに、今はどうしてこんなことをしているのか。

 そういえば、紫水碧…。
 あの蟲が海で毒を吐かなくてよかった。
 誰も死なないで、本当に…。
 
 ふと思い出すと、水に溶けたあの碧い色が、今更のようにギンコの脳裏でゆらゆらと揺れている。その色は優しく、まるで夢のようで、本当に夢の中にいるような心地がしてくる。

 夢。夢か…。夢の中の事か…。海沿いのこの里も、里に一人の医家も、この里に来てその医家に会った自分も。

「あだ…し…。ん…く、ぅ…っ」

 自分の上げた声に、ギンコは我に返った。夢ではなくて、全部が現実だと判って、思わず安堵の息をつくが、その息には喘ぎが混じる。

 仰向けで横になっている化野の体の上で、四肢を布団について、背中を仰け反らせるようにして、胸の位置を低くして…。ギンコはさっきからずっと、喘いでいるのだった。

 潤んだ瞳で自分の胸元を見れば、その薄紅い飾りのような小さな乳首に、化野の舌が絡んでいる。

「ぁ、あ…、ふッ」
「ギンコ…も少し、体、下げて…」
「……ん…」

 切なげに眉を寄せ、止められない浅い息遣いをつきながら、ギンコは化野が求めるように、一度は離れた自分の胸元を、黙って化野の口元に寄せる。濡れた熱い唇に、また吸い付かれて、彼は無意識に腰を捩らせた。

「ん、く…ぅ、ぁあ…あッ」
「もう片方も」

 気が変になりそうだ。別に、性器を弄られているわけじゃないのに、こんなに乱れて、昂ぶって、声の一つも抑えられない。もう片方、と、欲しがられて、それでも言うなりにギンコは化野の口元に、逆の乳首を近寄せる。

 散々なぶられて、紅く固くしこった右側に比べて、左は寒そうに縮み上がっているようにも見えた。それへ、化野の尖られた舌先がそろりと触れ、下から上へと転がすように舐め上げる。

「…ひ…っ」
「なんか、痛そうに悲鳴上げるんだな…。もしかして、ほんとに痛いか? ギンコ」

 痛い訳じゃない。ただ、まるで微量の電気にでも触れたように、瞬間痺れて、それから甘い快楽が迫ってくるのだ。到底声を堪えるなんかできない。

「痛いのか」
 
 本当に気遣うように言われ、下から心配そうに顔を見上げられて、快楽以外の何か、もっと心の奥底から溢れるような思いが、ギンコの心を蕩けさせる。

 化野になら、どうされても、いいような気がする。
 だって、もう、金を受け取る約束をしたんだし、払って貰うんだし。
 だったら、何を望まれても、言う通りするのが当たり前で。

「痛くは…ない。ただ…」
「ただ? 凄く感じるか…?」
「…ぁ…あ…」

 今は、シャツを一枚脱いで、胸だけを見せているのに、その言葉を告げられた途端、もう全てを曝しているような心地になる。

 もっと見たい、触りたいと望まれ、嫌だとも言わず、目の前でシャツを脱いで…。包帯ごしに手でじゃなく、直に触れたいのに、と哀しげに言われて、自分からこんなふうに身を寄せた。

 視線で愛でられ、愛しげに手でなぞられて賛美される美術品に、もしも心があるのなら、それらもこんなふうに悦ぶんだろうか。嬉しがり、永遠に愛して欲しいと、望むんだろうか。

「ギンコ…。俺は、幸せだよ」

 唇から零れた言葉が、淡い息にのせられて、散々に濡らされて紅い、ギンコの乳首をくすぐった。

「なぁ、脱いでて、寒くないか」

 寒さなんか、感じるはずが無かった。こんなに熱くされていて。

 いっそ着ているもの全部を、脱いでしまいたいように思って、そう思ってしまってから、化野の次の願いに気付いてしまった。目をそっと開いて窺えば、遠慮するように視線をそらしたままで、化野の包帯の右手が、そろりとギンコのズボンの腰に触れている。

「いや…逆に、熱いくらいだ。…脱ぐ…」
「…うん」

 指先から手のひら。そして足先から膝まで、傷だらけの包帯だらけ。化野の上で体を浮かせ、そのままで彼が脱いでも、着物を着ている化野の肌のどこかに、ギンコの素肌が触れる事はない。

 だから脱いで、それから望みを確かめるように見やると、思った通りの願いを言葉にされた。

「そこも触りたい…。でも、さすがに、駄目だろうな…」
「……いい…」

 けれど、胸を舐められていた時のように、化野の顔を跨いで、その場所を口に近寄せるのは恥ずかしすぎる。耳まで染めて恥らうギンコに、暫し見惚れていてから、化野は言った。

「膝枕…とか、して貰おうかな。いや、正座じゃなくて、ここに足ぃ、広げて座って…」

 暫し意味を考えて、それからギンコは紅く染まっていた頬を、尚更羞恥に色付かせる。

「そ、そんな凄いこと、させる気か」
「他に思いつかない。じゃなきゃ、この包帯外して、手で…」
「駄目だ。傷に障る…っ」
「じゃあ…?」

 この、淫乱医者…。と、小さく悪態をつくギンコの声が聞こえた。その声が、もう快楽に染まり切って上擦り、震えているのにも化野は気付いた。

 ギンコが心底嫌なことなら、自分がどんなにしたくとも、もうさせない。無理強いで泣かせるのは、一度で充分だ。好きな相手にあんなことをして、一生嫌われるような恐ろしさは二度と嫌だ。

「なぁ、好きだぞ、ギンコ」

 自分の気持ちに正直に。いきなりそう言葉にすると、ギンコは怒ったように何かを言いかけ、言うのをやめて、化野の頭の下の枕をそっとどかせ、その代わりに自分が彼の顔の傍に座った。言われた通りに、脚を広げた恰好をして。

「ど、どうすりゃ…いいって…?」
「…そのままでいい。少し、見ていたいし」
「あ、あんまり、見るな…っ」

 間近にそこを曝しているだけで、息も出来なくなりそうに恥ずかしいのに、ギンコの性器は既に濡れてしまっているのだ。銀色の綺麗な毛並の、小さい茂みの下で、彼のもっとも敏感な場所が、もうひくひくと疼いている。

「前にも思ったんだが、奥が少し透けて見えるから、淡い桃色…」
「も…っ、もう言うなッ。…は、恥ずかしいんだ、勘弁…してくれ」
「でも…全部、綺麗だよ」

 そう言って、化野は身を捩って少し体をずらし、もう何も告げずに、そこに顔を埋めた。

「…っ、ひ、ぁ…ぁッ…んぅぅ…ッ!」

 声の混じった息遣いとも、細くかすれた悲鳴ともつかない喘ぎを零して、ギンコは座ったままの恰好で、身を仰け反らせるのだった。


                                    続









 さて、いかがなもんでしょう。エロス。こんなんで充分ですかね? 惑い星は口でするシーンを書くのが大好きでしてねぇ。うふっ。ってゆーか、まだ顔を埋めただけなのに、ギンコさんのこの反応。先生ったら早業で何してくれたんだろう。

 毛並みの下のモノを、舌先で舐め回してくれたんでしょうか? それとも、毛並みごと口にほおばって、吸い付いてくれちゃったんでしょうか。自分からやっといて、むせてケホケホとかしないで下さいね?

 しっかし元気な怪我人だ。笑。いや、あそこのことじゃなくてね。ま、絶対あそこも元気だろうけどよ。クス。←クスじゃねぇよ。

 まあ、従順に抱かれるギンコさんは、こんな感じなんですが、どーです、皆さん。言葉だけでも嫌々言って、叶わないまでも少しは抵抗して、それなのに力が抜けてて抱かれちゃうギンコと、どっちが好み?

 それとも大穴、攻めギンコがいいとか。

 さー貴方の落としたのは、銀のギンコか、金のギンコか、はたまたプラチナのギンコか。え? 全部? そんな嘘つきの貴方には「珍品スキーな強姦魔、化野」をあげよう。え、嬉しい? 戒めになってないかー。汗。
 

07/12/16