ギンコの口の端から、白湯が零れていくのを、化野は親指の腹でゆっくりと拭った。薄く開いた目の、視線だけを横に逸らして、ギンコは大人しく化野に抱かれている。

「……もう少し飲むか?」
「いや、いい…。つ、続けてくれ。蟲の事が心配だ」

 そうだろうな、と軽く笑って、化野はギンコの体を、再びそこに横たえた。片膝を立てさせ、もう一方の脚を伸ばさせて、彼の体の横から、化野はそこに手を寄せる。

 わざと無造作に触れて、真ん中辺りから、するりと先端へ撫でてやると、ギンコは不安げに目を見開いて、布団の上に爪を立てた

「あ…ぅ…」
「…どうした? 居場所が判ったのか?」
「い…いや、違ったかもしれん」

 でも、明らかにギンコは何かを感じている。化野はもう一度同じ場所を、今度は少しゆっくりと触れた。熱く震えているそれを、指先で揉むように撫でて、その指を少し上へ滑らせた途端、ギンコの体がビクリと跳ね上がる。

「あぁッ、化野…っ」
「…判った。ここにいるんだな。どのくらい力を入れても平気そうか、言ってくれ」

 どれくらいと言われても、どう言っていいか判らない。華蜻蛉の卵の硬さは判っているが、それを何と伝えれば…。迷った末に、ギンコは戸惑いながら言った。

「や、山葡萄の実…。それくらいの固さ…って言えば…」
「…ああ、判るが。何だ、それほど脆くはない訳だ」

 山葡萄と言えば、何処の山でも見るし、果実酒にして貰おうと、裏山のをとったこともある。普通の葡萄と違って、かなり固くて丈夫な実なのだ。

「大きさは? ここに入ってるくらいだから、大きさまで山葡萄の実と同じってことはないよな? 米粒大とか?」
「米よりは、大きい…。丸い、形の。ふ、ぅ、あぁ…っ」

 止まっていた化野の指が、また敏感な肌の上で動き出す。卵があると判った場所から、根元までを扱くように擦ってやると、ギンコはすぐに泣き声を立てた。

「あ、ぁあ…。く…ッぅ」

 中にある蟲の卵が、丁度、一番感じる場所に当たっているのだ。あまりに感じすぎ、四肢を突っ張って、ギンコは身を捩る。その腰を布団から浮かせて揺らし、化野の前で、彼の性器は白い液を零し始めた。

 目を見開いて見た視野が、一気に霞んでしまうほどの、強い快楽…。喉の奥から零れる声さえも、火傷しそうな熱を帯びて、体はもっと、それ以上に熱い。

 怖くて、つい化野の腕に縋ると、その指をやんわりと外されて、穏やかな声で諭される。

「イきそうなんだろう…。任せていていいから、そのままイっちまえ、ギンコ」

 言いながら、化野はギンコの性器の軟い袋を握り込んでやった。もう一方の手で、卵のある位置を狙って、くりくりと細かく刺激してやる。ギンコが一瞬、怯えたような顔を見せ、その顔が急いで横に向けられた途端、そこから熱い液が弾け飛んでいた。

「ひ、ぁぁ…ッ…。ぁ、あ、あぁ…っ」

 どうせ見えないのだが、化野はつい、ギンコのそれを凝視する。綺麗な白い名残の液を零し、ギンコはそれの先端を、切なそうにひくつかせていた。

「…どうだ? 出たのか?」

 その先端を摘み上げて、親指で撫でながらそう聞くと、殆ど気を失いかけていたギンコは、上擦った微妙な声で言う。

「ふ、ぅ…。ま、まだ。でも多分、少し、先の方に動いた…?」

 その時の、白い首筋を染めたギンコの顔…。縋るような目で化野を見て…。乱れた白い髪が、汗ばんだ頬に幾すじか貼り付いていて、それがまた変に色っぽい。思わず化野は彼のその姿に見惚れて、返事をするのを忘れた。

「…あだしの?」
「え? ああ、そうか。なら、やり方は間違っちゃいないんだな。何とかなりそうで、よかった」
「…あ…。す、すまん」

 ギンコは不意に侘びを言った。彼の視線は、化野の着物の胸の辺りを見ている。気付いて自分を見下ろすと、手で受け止めそこねた白い液が、化野の着物の胸を随分と汚してしまっていた。

「ああ、いや…別に…」

 済まなそうにして瞳を潤ませたギンコの顔を、急に直視できなくなって、化野は酷く慌てる。顔を横にそむけて、彼は慌てて腰を浮かせた。

「じゃあ、その…ちょっと、ふ、拭いてくる」

 何でもないふうを装いながら歩いていって、ギンコの視界から消えてから、化野は台所の壁に腕をつく。そうして壁に縋るような恰好で、そこにゴツゴツと頭をぶつけた。

 冷静な態度でいながら、その実、化野は少しも冷静ではなかった。している事は間違っていないだろうし、これは確かにギンコの望んだ「治療」だが、彼の心は乱れに乱れている。

「…落ち着け、化野っ!」

 彼は小声で自分自身を叱責した。

「患者なんだぞ。何考えてるんだ、お前…っ。こんなんで、治療、続けられるのか? おいっ」

 片手を胸へ上げて、化野はギンコの飛ばした白い液に触れる。傍らにあった手ぬぐいで、それを雑に拭い、それから彼は、自分の着物の袷せの、脚の方からそっと手を入れた。

「うッ、ぅ…」

 最初からだ。最初から…。ギンコの話を聞いた時からずっと、化野はたかぶっていた。秘かに想う相手から、そこを見てくれ、任せるから弄ってイかせてくれと言われたのだ。興奮しないでいろという方が無理だった。

 下帯を緩めて手に触れた雄は、もう固く熱くなって、精液の雫を垂らしていた。慣れた手つきでそこを扱きながら、化野は零れそうな声を噛み締める。

 
 あぁ…

 …ギンコ…ギンコ…っ


 心の奥で名を呼んで、さっきまで見ていた顔を、思い浮かべるだけで堪らない。繰り返し聞かされたギンコの喘ぎ声も吐息も、全てが彼の耳に刻まれて残っている。重ねた唇の、あの柔らかさも…。

「ん…く、ぅ…」

 化野は声を殺したまま、そこに押し当てた手ぬぐいに熱い迸りを放った。それをなんとか拭き取って、へたり込むように脇の踏み台に腰を下ろす。

 壁に寄りかかって首を反らすと、疲れた彼の耳に、外で吹き荒んでいる風の音が聞こえた。



                                    続











 想像していたよりもエロチックでなかった気がして、私的には、非っっ常に残念ですが! 皆様はどう思われました? センセ、あまりに溜まり過ぎて、一度、ヌキに行きましたよぉ。笑。まあね、生きた男なんだから、しょうがないよ。

 治療も少し進んだようですが、蟲さんも、ただでは降参しないと思うので、さらにこの先を見守ってやって下さいね。

 惑い星は実は、入れるシーンよりも、その前にじっくりってのが好きですよ。先生は? …って、先生に聞くなぁぁぁっ。じゃあ、ギンコさんは? って、ギンコさんにも聞くなぁぁぁぁーっ。

 先生、最後にはさせてもらえるといいね。というか、我慢の限界超えて、やっぱ、しちゃいますかねっ? ともあれ、先がとても楽しみなのでした。


07/01/21






華 蜻 蛉  hanakagerou 6