「く、ふ…ぅッ。んん…」

 くぐもった声が何度も聞こえるのを、黙ったままで聞きながら、化野はギンコのそれに触れている。開かせた脚の間の、ずっと奥に手を入れて、固く勃った性器の根元を、するすると指で撫でて。

 さらに奥の柔らかな部分を、揉むようにして何か異常がないか確かめ、奥まった場所にも光を当てようと、化野はランプをさらに手元に引き寄せる。

 節約して短くしてある芯を、いくらか長くすると、それまでよりずっと強い白金色の光が、ギンコの性器を照らした。

 やっぱり、綺麗な色をしている。まるで、そう…まだ幼い少年のそれのようだ。先端のくぼみも小さくて、それがひくひくと収縮している様が、かえって酷く淫らに見えてしまう。

 と、不意に化野は気付いた。元々近寄せてあるランプを手に持って、そこに寄せながら、彼は幾らか険しい声を出す。

「なんなんだよ…? これ」
「…え…?」

 言われた意味もよく判らずに、それでもギンコは口から布を外し、何とか返事をしようとする。

「な、なにが…っ?」
「傷、付いてるだろうが、こんな」
「は…っ、ぁう!」

 いきなり撫で回されて、ギンコは声を引き攣らせた。化野は身を屈め、眉をしかめてギンコの性器を凝視している。その柔らかな手触りの先端には、幾つも幾つも、引っ掻いたような傷跡。薄くかさぶたになっているところまである。

「誰にされた? 蟲に、って訳じゃないだろう」

 俺だけを頼りにしてきてくれたのだと思っていたが、それじゃあ、ここに来る前に、ギンコは誰か他の医者にでも、今しているような恰好をして、ここを見せていたのか。

「別の医者か? それでこんな傷付けられるような治療受けて、それでもどうも出来なくて、今度は俺のところに来たのか、ギンコ」
「ぁ…あ、ちがっ…。ひぅ…ッ」

 もう癒えかけていて、微かに残るだけの小さなかさぶたを、化野は爪の先で引っ掻くように剥がした。敏感すぎる場所に、そんな残酷なことをされて、ギンコは体を仰け反らせ、酷くもがいて逃げたがる。

 広げた脚を突っ張ったが、途端に性器を強めに握られて、息が止まるほどの快楽に溺れる。必死で首を持ち上げて、ギンコは化野の顔を見ながら、言いたくなかったことを告白することになる。

「ちがう、違う…っ。それは、じ、自分…でっ」
「自分で…?」

 指を緩めて、化野は聞き返した。宥めるようにギンコの太ももを撫でてやり、彼の言葉の先を促す。

「自分でこんなふうにしたのか? 血が出るくらい、傷がこんなに付くくらいに乱暴に弄ったのか? なんで…」

 肌を撫でられて、そのたびに背筋を這う快楽に悶えながら、ギンコはそれ以上、言えないようだった。化野は掛け布を一枚、ギンコの裸体の上に広げて掛けて、短く息をつく。

 明るくしていたランプの明かりを、ぐっと暗くしてやり、湯のみに水を注いで、ギンコの傍に置いた。

「診るより先に、話を聞いた方がよさそうだ。言いたくなさそうだが、どうにかしたいんだろう、ギンコ。なら、ゆっくりでいいから、話せ」
「…そう、だな」

 震える声を隠せもせずに、ギンコはそう言った。差し伸べられた化野の手を、彼はどこか怯えたような目で見るのだが、それでも素直にその手を握って、辛そうな様子で身を起こす。

 ギンコは渡された湯飲みを両手で握り、軽く口を湿してから、消えてしまいそうな声で話し始めた。

「華蜻蛉って名前の…蜻蛉にそっくりな蟲だ…。タンポポの種に産み付けられ、種が育って芽が出て、伸びていく茎の空洞の中で、卵は徐々に栄養を得て大きく育つ。それで華が咲いて、タンポポの綿毛が飛ぶ時に、羽化した蟲も一緒に飛ぶんだ。それが…なんでか間違って、俺の中に…卵が、産み付けられた…」

 反応が気になるのか、ギンコはちらりと化野を見た。化野は故意に視線を逸らしていて、何気なく囲炉裏の中に薪を放り込む。火の上に下がった鉄瓶が、しゅんしゅんと音を鳴らして、白い湯気を吹き上げていた。

「中に華蜻蛉の卵があると、暫くして気付いたが、まだその時は卵も小さいし脆いし、そのままにしておくしかなかったんだ。下手をすれば、中で潰してしまいそうだったし」
「…って…、お前な、まさかそれ、生かして取り出せってのか?」

 酷く驚いた声で聞かれて、ギンコは弾かれたように顔を上げた。そのまますぐに項垂れ、ますます小さな声で彼は言う。

「今、確かに生きてるもんを殺すのは、好きじゃない」

 驚くというより、化野は呆れた。他の誰でもない、自分の体に蟲の卵が産み付けられているのだ。寄生されていると言ってもいい。それで今、こんなに酷い思いをしているのに、それを生かして助けたいのだと、ギンコは言うのだ。

 たかが蟲一匹の事だろう。言い掛けて、化野は口を噤んだ。それを言っては、ギンコの信頼を失うと、そう思えたからだ。化野の沈黙をどう思ったか、言葉を継いでギンコは言う。

「産み付けられた時と違って、卵の殻も固く丈夫になってるし、殻の中の蟲はかなり育ってる筈だ。中はその…あ、温かいから…羽化も、きっと近い。その前に卵のままで取り出したい。それが出来れば、助けられる可能性も…あるから…」

 顔をしかめた化野を、不安そうな瞳で見て、ギンコは言葉を途切れさせた。そんなもの、手伝えない、見えもしない蟲の命を助ける為に、こんな面倒は御免だ、と、そう言われるかと思った。

 だが、化野はギンコの不安を掻き消すように、真面目な顔でギンコを見て確信を突いたことを言ったのだ。

「話は判った。それに、お前がこういう無茶をして、こんな大事なとこを傷だらけにしちまった訳も、大体…な」

 化野は言葉を止めずに喋りながら、隣の部屋に入って行き、何かがさごそと探っている。

「その卵はかなり奥にあるのか? それともそれの先の方にあるのか? そういうのももし判るなら教えてくれ。卵が丈夫だってんなら、ちょっと荒いやり方だが、先から何かを入れて引っ掛けて、掻き出すってのも一つの手だ」

 小さな木箱と、布の袋を一つずつ持って、化野はギンコの前に戻ってきた。ギンコは半身を布団の上に起こした恰好で、酷く表情を強張らせている。

「か…掻き、出すって…」

 だが、ギンコが小声で聞き返したその声を、化野は聞き逃してしまっていたのだった。


                                      続









 なんか、凄いことになりそうですが。いやいや、大事なギンコさんの大事なところに、そんないきなり乱暴はしませんから、安心して下さいね、皆様。そしてギンコさんも。笑。

 まあ、さ、いきなりそこに何か入れて中を、ぐりぐりされるかと思ったら、誰だってギョッとしますよ。センセは医者だからか、今、冷静そうに見えて、実はイッパイイッパイだからなのか、無神経に怖いこと言ったよなぁ。

 化野センセが、密か?に怒っているところが、私は好きです。そりゃーね、自分が今、ギンコさんにさせてるような恰好を、彼が既に別の誰かのところで、してきたのかって思ったら、動揺するよね。

 お前、俺の想い人なのに、こんなあられもない恰好で、余所のヤツの目の前で股を開いて見せたのか? 触らせたのかよっ。…ブチッ!みたいな…ね。

 次もまだ、ギンコさんは話を続けてます。本格治療はその後ね。お楽しみにーっ。私も楽しみ〜っ♪ これが年内最後の更新かな。なので、次は来年です。ではっではっ。日記は明日書きますねー。


06/12/29






華 蜻 蛉  hanakagerou 4