下着が少しずつ下にずらされる。隠れていた場所が、ゆるゆるとあらわになる。これは医者としての仕事だと、ちゃんと判ってはいたが、口に溜まる唾を、化野は無意識にごくりと飲み込んでいた。

 やがて見せ付けられたギンコの「それ」は、同じ男として見れば、いくらか小振りだった。色が…淡い…。その色を綺麗で、別のものの色のようだと思った。華…とか、果実とか、そういうものを思わせる桃色。

 そういえば、胸の二つの部分は、それよりももう少し赤いだけで、やはり似た色だ。どちらも、なめらかで柔らかそうな色味をしている。

「…で? これの何処に蟲がいるんだ?」

 言いながら手を伸ばし、化野は酷く無造作にそれに触れた。下から支えるように、手のひらの上に乗せて…。

「…んっ、や…!」

 まるで、何か熱いもので触られたような感じがする。その辛い感覚に、声を立てて逃げようとするギンコの手を、化野が掴んで引き止めて、わざと呆れたような言い方で言った。

「一体どうしたいんだ、お前。診せる為に来たんだろう。違うのか? 違わないなら、そこに横になって、ちゃんと診せろ」
「…わ、判った。もうお前に全部任せる」

 そんなふうに言われて、ギンコはやっと逃げたがるのをやめた。太ももまで下着を下げた恰好で、おずおずと布団に膝を付き、そこに横になる。

 布団の上で、体を横に向けようとするギンコの片足首に、強い力を込めた化野の手が掛かった。

「おい、横向くな。仰向けになってろ。それじゃ見えない」

 言われた通りに仰向けになると、太ももにある下着を、ゆっくりと下にずらされる。あの時と同じ感覚が、あっという間にギンコの体を襲った。

 何かをされているというほどの事は無い。ただ、下着を脱がされて、その時に軽く化野の手のひらが、肌を掠めるだけだ。なのに、息が止まるほどの快楽…。声を堪えるので精一杯で、ギンコは目を閉じて酷く顔を歪める。

 一体、なんで、俺は…こいつの手にだけ、こんな…っ。
 ああ…でも、だからこそここに来たんだ。この体をなんとかしてくれるのは、化野だけだと悟ったから。
 でももう既に、鼓動が速くて、今にも心臓が壊れそうだ。

 両足首から下着を外されてしまうと、もうギンコはすっかり裸だった。肩に掛けていた着物は、布団の上で広がって、彼の体の何処をも隠してはいない。

 ギンコの片ももを跨ぐような恰好で、化野も布団の上に膝を付き、軽く屈んでそこに触れる。さっきよりも、ずっと熱い。それに、いくらか変化している。そう、それは隠しようも無い、性的な反応だ。

 化野は黙ったままで、まじまじとそこを見る。性器全体を手のひらに乗せ、まずは先端を眺めた。それから先端部分を指先で摘み、顔を寄せながらそれを持ち上げて、裏側を見る。

「ふむ。ちょっと見たとこだと、どうとも無いようだが? もう少しよく見たいから、膝を立てて、もっと脚を開いてくれ」

 そう言った途端、ただでも固くなっていたギンコの体が、さらに強張るのを感じた。それでも何度か浅い息を付いてから、ギンコは言われた通りに膝を立てる。だが、そこまでで精一杯で、立てた膝を広げることは出来ない。

「…できないか」

 ぽつりと言ってから、化野はギンコの脚に手を掛けた。両方の膝裏に手を入れて、何も言わずに左右に開く。狭い布団の両端に、ギンコの足先が届くほど大きく、容赦なく。

 そうしながらギンコの顔を見ると、彼は自分の握ったこぶしに歯を立てて、苦しそうな顔で喘いでいた。こぶしに立てた歯の間から、浅い息と微かな声が、引っ切り無しに零れている。

「ギンコ…」

 その顔を見て、さすがに可哀想になって、化野は続けてそこに触れるのをやめた。そして自分の着物の片袖を掴んで歯をあて、一部分を器用に裂き取って、それをギンコの口元に差し付ける。

「そら、これ噛んどけ。その様子じゃ舌とか唇とかまで、そのうち噛んじまうだろ」

 一瞬化野を見た、彼の翠の瞳が、零れそうな涙を溜めている。ギンコがそれを噛むのを見ながら、化野は先を言った。

「…しばらくは見て触って、それだけだから何も聞かない。まあ…外は吹雪だし、今は夜中だし、隣家はあの通り遠いからな。喘ごうが叫ぼうが、お前の声、聞いてるのは俺だけだ」

 化野はランプの灯りを強くして、それをギンコの脚の間に置いた。明々と照れされた「そこ」に視線を戻しながら、なるべく静かな声で、彼はギンコに優しく言った。

「なあ、ギンコ、だからもし、俺に声を聞かれるのが気にならなくなったら、布から口を外せ。そんなもん噛んでちゃ、息苦しいだろう?」

 だが、その穏やかな言い方を聞いても、ギンコの気持ちが軽くなったようには、とても見えなかった。

 ギンコは開かされた膝を震わせ、布団の縁に丁度掛かった、両足の指を固く強張らせている。両脚を閉じ合わせたいと思うのを、必死で堪えているからだろうか。布団に置かれた白い尻までも、時々ひくりと震えていた。

 そんなことは無理だと、重々承知していたけれど、あとはそう言うしかなくて、化野はもう一言だけ、ぽつりとギンコを慰める。

「…まぁ、気を楽にしてな。俺でやれる事なら何でも、幾らでもするよ。嘘じゃぁない」

 広げた脚の間の、さらに奥へと触れてきた化野の指に、ギンコは背中を撓ませ、胸をを仰け反らせる。きつく閉じた目蓋の縁から、一滴の涙が零れて、ギンコの頬を濡らしていた。



                                         続











 いやー。化野先生の気持ちも、ギンコさんの気持ちも、両方書きたいんですけどね。両方ちゃんと書くのは難しくて、今回はギンコさんの方をメインに書いたような…気がするんですが、どうかしら。

 あのぅ、見られて消え入りそうになるほど、恥ずかしいんだってところを、ちょいと強調したみた? ギンコさんが恥じているのを書くと、すっげー興奮する私は、マゾですか? サドですか? 謎ですか?

 先週「華蜻蛉・一」を書いた時から、ずっとずうっと、書きたかったんで、やっと書けて満足してます。縛られてたアレを、自由にしてもらって、やっとイけたような気持ち…。って何言ってんだよ、私ぃぃぃ。

 あああああ、読んでくださる方が、今、一歩、ザザッと離れたような気がします。きゃー、見捨てないで〜っ。

 この話、まだ先は長そうですよね。だって、脱がしてちょっと触るだけで丸々「二話」! ですよ。笑。もしよかったら、今後もお付き合いください。エッチ度は多分、ますますエスカレートしますっ。


06/12/13




華 蜻 蛉  hanakagerou 3