さっきまでは蟲の命を助けてやる為の行為。

 そして。今からする事は、形こそそれと似ていても、意味の上では少しも似ていない。それとも、自分の体を欲しくて堪らないと思ってくれる化野を、ギンコは助ける気でいるのだろうか。

 自分は助けて貰ったから、今度は自分が助けるのだと…。

 そんなことなら欲しくはない。義理だとか借りを返すだとか、そういうことでギンコが、嫌々体を差し出すというのなら、悲しすぎるじゃないか。だって、俺は本気でお前を。

 だが、心に流れているそんな思いとは裏腹に、化野はもうギンコの体を離せはしなかった。唇を吸い、喉に舌を這わせ、首筋を噛むように愛撫する。肌をなぞる指で、幾度も胸の突起を転がした。

 痛みを堪えるようにして、ギンコは布団の上に五指を立て、淫らな形に敷き布を掻き乱している。

「んぅ…う、ふぅう…ッ」

 そうしていないと、嬌声を上げてしまうからなのだろう。ギンコは下唇を固く噛んで、浅い息遣いに嗚咽だけを絡ませていた。上擦ったその声は、常の彼の声とは違って、妙に甘くとろけて聞こえる。

 首筋、喉、鎖骨を辿るようにして、次には胸元。あざやかに紅い花を散らすようにして、口づけの跡を増やしていく。

 こんなところに跡をつけたりしたら、旅の空に戻った時には、目立ってしまって困るだろうか。ふとそう思えた途端に、離れていく彼を思い出して、化野はなお強く激しく、ギンコの白い首筋を吸った。

 まだ着物を乱してもいない化野の体の下で、ギンコは最初から一糸も纏わぬ姿。

 抵抗一つ出来もせずに、身をよじり、腰を跳ね上げ、ただ膝を緩くもがかせているギンコの姿が、貪り喰われる哀れな獣のようで、化野は酷く無茶なことを言葉にする。

「もっと…お前も、楽しめよ。これじゃあまるで俺が、弱みに付け込んで無体を強いてるようでなぁ…」
「…そ、んな、無理だ。俺はこんなこと、慣れてな…」

 何もかも初めてのこの体を、やるよ、と差し出しただけで、羞恥が身のうちを焦がしているのに…。それを聞くと化野は苦笑して、そんなこと判ってるよと言いたげな目をして、そろりとそこに手を伸ばす。

「慣れてなくとも、ここを弄られりゃぁ感じるだろ?」

 また根元から、ゆっくりと焦らすようにして、そこが執拗に愛撫される。化野は枕を一つ取って、それをするりとギンコの腰の下に入れた。そうするとギンコは膝を開き、腰を化野の前に差し出すような恰好になってしまう。


 ちゃんと俺が楽しませてやる。

 ずっと忘れられないような、いい思いをさせてやるから、
 義務の為に仕方なく体を与えているとかいうような、
 そういう気持ちは、どうか、捨ててくれ…

 
「は、ぁ…あぅ、う…」

 もがくギンコの両膝を、化野の両腕がしっかりと抑えつけた。そうやって開かせた脚の間に、深く顔を埋め、性器そのものとその下の柔らかい部分とに、化野は熱い舌を這わせる。

 舌先を尖らせ、一箇所一箇所を試すようにして時間を掛け、全部を舐めてやって、その愛撫に、段々とギンコの声も理性を失った。


 人の心というものは、形や色も持ってはおらず、目で見て判るようなものではないから、化野の想いがギンコに判らないように、化野にもまた、彼の想いは判らない。

 今夜のこのひと時は、義務とか義理とか、仕方なくとか、そんな気持ちじゃないと、ギンコが言葉にすることは、多分、生涯ありはしなくて。
   

 容赦なく喘がせて、布団の上を掻き乱す指を、視界の端に見続けて、やがて化野は、静かに聞いてくる。

「…どうだ…気持ちいいか?」
「は、ぁ…ん、うぅ、ふ…っ」

 聞かずとも、上限知らずに熱くなる肌で、零れて伝う精液の雫の数で、ギンコを溺れさせている快楽の強さくらいわかる。びくりと腰を跳ね上げて、ぎりぎりまで追い詰められたギンコの体が、なんとか逃げようともがいた。

 イくのだと判って、化野はギンコのそれを深く口に含んだ。今、一番していて欲しくない事をされ、このままではどうなるか判って、ギンコは化野の髪に指を絡ませて嫌がった。

 声の無い声で喚き散らして、実際には熱い息だけを撒いて、首を激しく左右に打ち振った。

「や、…や…ッ、あ、あだ…しの…ッ…。く、は…ぅぁあ…ッ!」

 弾け出る液の熱さを、口の中で暴れるギンコのそれを、黙って口腔内で感じ尽くして、化野は彼の精液の半分を飲み下し、残りの半分を口に含めたままで顔を上げた。
 
 性器から口が外れるとき、くちゅ…という淫らな音が鳴って、そんなことにもギンコは泣きたくなる。言葉ではなく、薄く笑った目で、どうだ、気持ちよかっただろうと問われた気がして、彼は居たたまれない気持ちにさせられた。

「…の、飲んだ…のか…?」

 そんなふうに問われて、化野はニヤリと笑い、閉じていた自分の下唇の傍に、横にした右手の人差し指を当てた。その唇を軽く開くと、そこからとろりと零れかかる白い液。

 見た瞬間に顔を赤らめて、必死で目を横へ逸らしてしまうから、そのあと化野がした事を、ギンコは見てはいなかった。口に含んだギンコの精液で、化野は右手の人差し指をたっぷり濡らして、その指でギンコの後ろの穴に触れたのだ。

 逃げようと暴れられないように、最初から片脚の大腿をしっかりと抱えて押さえ、菊の花の形に閉じた箇所に、濡らした指を当て、そのまま強引に捩じ込んで…。

「なっ…。やめっ、…あ…」

 揉み解すように、小刻みに抜き差しを繰り返し、それでも入りにくいからと、一度指を抜いてその傍に口を付け、舌を差し入れながら、化野はギンコの精液を、その奥へ塗りこめる。

「ぁあぁ…ッ。嫌だ、いやだ…。も…ぅ…、あだ…し…」

 舌と指とで交互に入り口をほぐし、最後には指と舌とを同時に入れて舐めながら、突き上げ、淫らな水音が途切れなくなるくらいまでしつこく続けた。

 そして彼がやっと顔を上げた時には、ギンコはあまりの快楽からか、翠の瞳から涙を零して、子供のようにしゃくり上げるばかりだった。



                                      続



 

 
 

 

 

 えと、ヤ、ヤり過ぎました、か? ギンコさん、殆ど悲鳴と喘ぎ声と嗚咽しか出してないぃ〜! もう今回は、いつも以上のエロノベル。これから突っ込む訳ですが、突っ込むのなら先にこの一言でしょう。

 先生、あんた、なんでそんなに巧いの??
 一体今まで、どんな修行してきたのかいなー。 

 それにしても、ギンコさん、大変ですね。初めてだっつーのに、こんな濃厚な。しかもさっきまでも散々、類似の行為を続けてたってのにさ。いい加減、あそこ擦り切れるよ?

 スイマセン、執筆後コメントまでエロいですね。

 こんなんでもまだ続きを読んで下さるつもりの方、どうもありがとうございます。心からの感謝を!

 いやホント、エロいばかりでゴメンナサイ、マジで!


07/04/15







華 蜻 蛉  hanakagerou 12