誘い叶う  … イザナイカナウ ・ 4 …




 化野はギンコの首筋を愛撫しながら、片手で器用に彼の帯をといた。元々、下手な結び方だったから、そのまま掴んでほぐすと、あっさりと解けてくる。緩めて、緩めて、すっかり解いて、それから着物の前を開いた。

 首筋から顔を上げて、ちらりとそこらへんを見た途端、化野の視線はそこに釘付けになってしまう。

「…お前」

 言われた途端にギンコも、そのことを思い出して狼狽した。必死になって化野の手を振りほどき、片手で着物の前を合わせ、羞恥に染まった顔をする。

「ち、違う。これは、その…。さっき風呂場に、替えを…持っていき忘れただけで…」
「いや、ありがたいけどな。手間が一つ減って」

 ギンコの震えた声に、化野は微妙に苦笑して、着物を押さえている彼の手首を掴んだ。そのまま強引に手を退けさせ、折角掻き合わせた着物の前を有無を言わせずに、広げてしまう。

「や…、み、見るな」
「本当に今更だぞ、ギンコ。お前のここなんか、前の時に散々見て、どこもかしこも覚え込んでる。目ぇ瞑っても全部判るくらいだ」

 着物の下には、下着すら穿いていなかったギンコに、化野はそんな意地の悪いことを言ってやった。羞恥に焦げ付きそうなほどの思いで、ギンコはなんとか膝を立て、僅かばかりでもそこを隠そうとする。

「あのな。膝なんか立てても、別の方が無防備になるだけだぞ」
「…ひ、ぁぁ…ッ」

 太ももの上をするりと滑った化野の手が、そのまま尻の方へと這い、奥の袋を、その手に握り取ったのだ。乱暴なくらいの強さで、指に握り込まれ、そのまま揉まれて、ギンコは快楽に仰け反ってしまう。

「あぁ…、く、ふ…ぅ! や、やめてくれ…。あだしの…っ」
「そう言われてもな。体は欲しがってるようだし。そら」
「は…ぅッ、ぁ…あぁ」

 小刻みにそこを揺すられて、ギンコはもう、喘ぎと叫びだけを零し続けていた。体を襲う快楽は、すぐに彼の自由を奪い取っていき、震え上がることしか出来なくさせる。

 化野は巧みにギンコの体を開かせ、その両膝を左右に崩して、今度は前からそこに触れた。親指と人差し指で輪を作り、ギンコの性器をその輪にくぐらせるようにして、先端から根元へ向け、じっくりと扱き立てていく。

 双つの珠から茎の先端へと、溢れ始めている精液を、逆に奥へと押し戻すようなその愛撫。ギンコの悲鳴一つまでもが、もうどうしようもなく濡れそぼって、彼は早くも泣き喘いでいる。

「ん、ふぅう…っ。あ…化野。や…、ぁあ、頼む…から…ッ、もう」
「…随分と、ためてんなぁ、ギンコ」

 ギンコの懇願など、聞いてもいないように、笑っていう言葉。あんまりな事を言われているのに、狼狽しているギンコには、意味が判るまで時間が掛かる。

「嬉しいぞ。俺以外、それこそ自分ででも殆どしないのだろう? この体が、俺だけを待ってたようで、えらくそそられる」

 何を言われているか、意味だけはやっとなんとか判って、ギンコは首をふるふると横に振っていた。

 そういう訳じゃない。ただ、そんな気分にはそうそうならないし、なったとしても、大抵は冷たい水を浴びて紛らわしたりして、それで済ませていたのだ。

 自分の体がこんなふうになるなんて、後にも先にも、化野の存在にだけ。彼に会わずに来た今まで、一度だってこんなふうになったことも、快楽に流されたことも、変になったのじゃないかと思うような、あんな激しい放ち方をしたことも無かった。

 愛撫に溺れながら、ギンコはそう思って、思ってしまってから愕然とする。結局は、化野の言った言葉と、今、自分の思った事は同じなのだ。ギンコのそんな動揺など知らず、化野は楽しげに囁いている。

「嫌がったっておんなじだから、素直にそのまま一回イっとけ。ん? 咥えてやろうか?」
「…なっ、い、嫌だ…ぁッ!」

 言われたことが聞こえた途端に、ギンコは悲鳴を上げた。膝を抱え上げられ、臍の下あたりを舐めながら下へと辿られ、言葉通り、今にも咥えられてしまいそうだ。

 膝を揺らして嫌がって、無理やりに身を捩らせると、化野はそれでも、ギンコのそこから顔を遠ざけ、口ではなく、片手でギンコ自身に触れてきた。右手の指で茎を握り、イきそうに震えている先端の穴を、親指の腹で、するすると刺激する。

 神経がむき出しになったように、あまりに敏感なそこを、指でそうやって弄られて、ギンコはもう我慢することすら出来ずに放った。

「ひ、ひぅ…ッ、ぁぁあ…!」

 化野は、手の中で暴れるギンコを感じながら、泣き叫ぶ彼の顔を眺めている。ギンコの全身の隅々まで快楽が回って、着物を腕に纏いつかせただけの白い裸体が、綺麗な形に乱れるのをじっと見つめていた。

「…ん、っん…ぅう。や、嫌」

 更なる愛撫に怯えて、ギンコはうわ言のように呟いている。そんな彼の為に、化野は手巾で濡れた手を拭い、傍らの徳利を取って、それを直に口につけた。上等の酒を口に含み、苦しそうに喘いでいるギンコの唇を、その酒の雫で潤してやる。

 あっという間にイかされた事実に比べれば、口を塞がれることなど些細に思えて、ギンコは大人しく酒で口を湿され、そのまま軽く舌を吸われた。

 まるで、ただ戯れているだけのように彼の白い髪を撫で、それから少しの間、何もせずに傍らに横になって、化野はギンコを眺めている。その涙に濡れた美しい瞳を。そして甘く熱い息をつく唇を。

 そうしてその後、化野は思いついたように、ぽつりと聞いた。

「なぁ、平気か…? ギンコ」
「…っ」

 言葉も無く、ただ何度も何度も首を横に振って、ギンコは自分がちっとも「平気じゃない」ことを訴えたのだ。なのに、化野は困ったように少し笑って、ただ一言

「すまんな」

 と、そう言った。出会ったあの日に聞いたのと同じ、その言葉を聞かされて、ギンコは妙にどきりとしてしまう。こんなふうに、なる筈のなかった自分と化野との、その時のことが彼には遠く思えるのだ。

 あの時の「すまん」は、彼自身の謝罪ではなかった。でも今日は違う。今日のは、彼自身がしている事への謝罪だ。それなのに「嫌だ」も「やめてくれ」も「頼むから」もみんな無視して、化野はギンコを好きなように抱こうとしている。

 すまん、とか言いながら、もう多分、やめてくれる気など少しもないのだ、この男には…。

 どんなに抵抗しようと思っても、愛撫してくる彼の手からは逃げられそうになくて、だからもうギンコは流されていく。そう、仕方なく、流されていく。

「すまんって…い、言うくらいなら…」
「いや、やめようがないんで、すまんと言っている」

 ああ、ほら、やっぱりそうなのだろう。
 謝るのならするな。
 この上まだ更に、する気なのなら、謝るな。

 もう何も言えず、震える息を付きながら、ギンコは疲れた顔で化野の唇を見つめた。

 今は徳利を掴んでいる、彼の器用な指を見つめた。それらが自分を翻弄し尽くすのを判っていて、その唇が、手が、見つめてくる眼差しが、大切に思えて仕方なかった。

 理由の判らない痛みが、ちくり、と心を刺して、ギンコは黙って目を閉じるのだった。


 
                                     続












 あらら、また夜更かしですね。その上、なんか今回、また…また?! そうです、またヤりっぱなしノベルですよ。スンマセン。色っぽいギンコさんを書くつもりが、何でか今回は、どっちかっていうとギンコ視点ですよね。
 
 色っぽく乱れまくるギンコさんを見て、鬼畜モード発動するのは、まだまだこれからのような気がするのですよ? ってことは、次回もヤりっぱなしっ?? はぁ、もう、読んで下さる方に呆れられそう。ガクっ。

 大急ぎでアップして、本日は寝ますっ。寝坊しないよう気をつけよう。


07/07/12