誘い叶う … イザナイカナウ ・ 11 …
ギンコ、ギンコ…と、化野は何度も彼の名前を呼ぶ。勿論、そのたびに返事などしないが、布団を握るギンコの指に緩く力が篭っている。
口づけは唇にだけではなくて、体中、すべての場所を愛しむように、数え切れないほど降り注いだ。首筋、喉、胸、腕にも、脇腹にも、大腿にも…。
目を閉じた暗がりの中で、ギンコは化野の唇を感じ、その浅い息遣いを感じて、無意識に膝を震わせている。一度は優しく撫でて、指に包んだ熱い場所に、長いこと触れないまま、化野は唇で、指で、淡すぎる愛撫を繰り返す。
「ぁ、あ…、あだ…しの……っ…」
「…ん。感じすぎるか…? もっと、優しくした方が…?」
「ふ…ぁあ…。化野…」
見開いた目を、次の一瞬でまた閉じて、ギンコは微かに首を横に振っている。
辛いと言っているように見えたのか、化野はさらに愛撫を弱くしていく。自分がギンコの体に触れているかどうか、判らなくなってしまうほど、ほんの微か、吐息がかすめるだけのような触れ方で。
「…これなら、いいか? お前、感じ過ぎるから…。どれだけ加減したらいいのか、よく判らないんだ。教えてくれ」
「ぅ、く…ふ…」
つい、というように、化野の唇がギンコの胸の突起に寄せられる。触れる寸言に欲望を押し殺したが、湿った息がかかって、ギンコは体を仰け反らせた。その動作で浮き上がった胸の、薄赤い花に、化野の唇が触れてしまう。
「は、ぁあ…ッ!」
布団の上で、ギンコの腰がふるふると揺れ、焦ったように閉じあわされたが、先端から白い液が零れるのが見えてしまった。
「…悪かった。今の、辛かったよな…?」
「ぁあ…ぁ…、はぁ…は…ぁ…」
言葉など紡ぎ出せるはずもなく、ギンコは涙の浮かんだ瞳で、恨むように化野を見た。
泣き喘ぐのを無視されて、どこまでも追い上げられるのは確かに辛い。それはそうだが、今のこの淡い快楽が、いつまでも繰り返されるのも辛いのだ。
触れられているかどうか、はっきりしないような愛撫。そんな些細な触れ方にも、ずっと先端をひくつかせている自分に、羞恥の思いが途切れない。
こんな暗がりで、何も見えていないかもしれないが、やがて直に触れられる時がくれば、その時は何もかも全部、知られてしまう。いや、何も見えていなくても本当は、その体の震え方で、化野にはすべて知られている気がする。
それなら化野は知っていて、知らないふりをしているのか。
「おま…え…。ひ…ど…」
「…え?」
「も…。じ、焦らす…な。こんなの、かえって…く、苦し…」
優し過ぎても辛い、容赦がなくとも辛い。でも、快楽に溺れるその辛さが既に、今まで知りもしなかった悦びなのだと、まだギンコにはわかっていない。そのあどけなさが愛しくて、化野はギンコの頭を抱き締め、自分の胸に片耳をつけさせた。
「うん。判った。もう焦らさない。また的外れだったな…」
そうしてそのまま、化野はギンコの髪を撫で、どきどきと激しい自分の鼓動を聞かせながら呟いた。
「…こんな時になんだが、お前、判ってないだろうから、教えといてやるよ。ちょっと照れくさいけど。最初にさ…うちの門のとこで、倒れてるお前を抱き上げた時な」
目を閉じた化野の瞼の裏に、気を失って倒れていたギンコの姿が見える。ギンコもまた、最初に見た化野の姿を思い出していた。
「あの時既に、俺はお前に惹かれてた。その後お前が目を開けて、その瞳で俺を見た時なんか、もう心臓なんか壊れそうでどうしようかと思ったんだ」
医家なのに、ほんとにどうしようもないと思うだろ。と、化野は苦笑する。
「少しでも長くいて欲しいと思って、実はお前の怪我まで、心の何処かで喜んでたんだ。そうしたらお前、こんなとこに長居したくないようなことをきっぱり言うから…。それでその後の治療が、あんなようなことに。…すまんな…」
でも傍にいて欲しかった。好いて欲しかった。嫌がられて、ガキみたいに怒っちまって…。
そんなふうに、最初から、お前の存在が俺を振り回した。一度目も、二度目も、三度目の今回なんか、息の根が止まるかと思うほど苦しくて辛くて。
好きだ。と、化野は心の中で思う。
心底惚れてるよ。と、心の奥で呟く。
心で渦巻く思いは、まるで海の水のように果てがなく、激しくて強くて狂おしくて、制御できない奔放さ。けれど化野は、言葉に出しては、たった一言、甘く穏やかに囁いた。
「お前が、欲しいよ…ギンコ…」
言われた途端、ギンコはびくりと震え上がり、化野の腕から逃げたがった。腕を少し緩められて、逃げようと思えば逃げられるのに、ギンコはかえって大人しくなり、震える声で、今更なことを打ち明けた。
声が酷く震えて、上擦っている。
「今日、発たなきゃならないなんて、最初から…嘘だ。何も、用なんかない。明日も、明後日も、ここに…いていいか。その次の日あたりは、発つけど…」
「…勿論だ、願ってもない」
再開の合図などない。いいか、とも、何も言わない。化野はギンコの体を、改めて布団に組み敷いて、ついさっきまでとは逆に、唐突に胸へと吸い付いた。
闇に響くギンコの嬌声を聞きながら、片手をするりと下に下して、脚の間にその指先を滑り込ませる。触れた途端、熱い液が手を濡らした。それと入り混じるような、ひんやりとした感触は、随分前に零れて、ギンコの下毛を濡らしていた精液。
ついさっき、腕の中でもがいていたのも「欲しい」と囁かれて、濡れてしまったからだろう。
手の中に握られて、上下に愛撫されると、ギンコの性器はくちゅくちゅと淫らな音を立てる。神経がむき出しになっているんじゃないかと思うような、あまりに敏感な場所を、化野は容赦なく攻め立てた。
茎を擦りあげながら、先端を指でほぐし、指先で小さな口を塞いだり、摘むようにしていたぶったり。そうしながら顔を寄せて、口を付け、とめどなく溢れてくる精液を啜る。
手加減など何もない愛撫に、ギンコは二度も気を失った。放った回数など数えられもしないし、イく瞬間の記憶なんかない。気を失うたびに、甘い口づけと名前を呼ぶ声で、すぐに気付くのが不思議だ。
まるで意識を失っている時間を惜しむように、泣き叫びながらでも、化野の愛撫を受け止め、辛過ぎる快楽の責め苦をその身に浴びて。
三度目に意識を失ったのは、化野と体を一つにして、互いに放った後のこと。体の奥底で相手を感じ、その焼かれんばかりの熱が、消えない約束のようで嬉しかった。
少し傷を負ったのだが、その痛みさえ悦びでしかなかった。熱い迸りを中に感じ、繋がっていた体が離された後、無意識にギンコは化野に縋りついている。
ああ、このまま…
死んでも構わない。
いいや、死んだら二度と会えない。
だからどんなに辛くとも、
ここから旅立って、
そうして何度もここへ戻りたい。
お前がそれを、許してくれたら…
続
あ、続いちゃいました。笑。またしても、ヤりっぱなしノベル。前半、優しすぎるほど優しく。それでは満足できない人もいるから(はいはいっ、私本人もそうですっ)後半は激しくね。
激しい部分はちょっと流しましたけど。すいません。長くなっちゃうから〜。てなわけで、口に出さないで告白した先生に対し、ギンコさんは「急ぐ用があるなんて、嘘だから」?
ズレてるよね、この二人。いや、これで意思が通じているのか? まぁ、そういうことにしておこうか!
さーて、これをアップしたら、今日も整体院に行ってきます。ババくさいねぇ。涙。あっと、その前にご飯だ! 朝飯も食わずにノベルを書く私。私ってさ、ブログには日常を書かないくせに、こんなところに今日の予定を書いてどーすんの?
おバカですいません。ではまたっっ。
07/09/23
