Voice voice voice … 6




 たかが奴隷に愛撫されて、妙な喘ぎを立てないように、ヒル魔はさっきから何度も息を詰めていた。そのたびに、無理に止めた声が、喉の奥で嗚咽に変わる。

「…ん…ぅ、く…っふ…」

 零れてしまうのは、まるで鼻を鳴らしてでもいるような、甘ったれた声。掴んだシーツを口に押し当てて、その声を殺しているが、それでも少しは、葉柱に聞こえているかもしれない。

「あの、さ…そろそろ、咥えていい?」

 両脚を左右に開かれた格好で、唐突にフザケた問いかけが聞かせられた。まだ駄目だとか言いたいのに、シーツから口を外せば、多分もうヒル魔は、一瞬も声を抑えられない。

 迷って結局黙ってたら「OK」の意味に取られたらしい。いきなり熱い口腔に締め付けられて、結局は声が零れた。ぬめる舌先で、先端を何度も舐め回される。まるで、犬にしゃぶられるみたいに。

「は、ぁ…ッ、ん、んっ」

 その一瞬で、ヒル魔の理性が白く濁って、彼はそれを必死で心に繋ぎとめた。乱れるばかりにされるのは、やっぱり我慢がならない。我を忘れないように唇をきつく噛んで、開いた形に押さえられた脚を、ガクリと揺らして暴れかかる。

 けれど、すぐに片膝を抱えられて動きを封じられ、最初よりもずっと深く吸い上げられた。吸いながらあの長い舌を絡められて、ヒル魔は首を仰け反らせてもがく。

 触れているヒル魔の肌全てが、一瞬強張って震えて、葉柱はより一層、丁寧に舌を這わせた。自分の口で、ヒル魔がイくのだと思うと、背筋がぞくっとするような凄い高揚感。

 なんでこんな嬉しいのか判らない。なんでこんな興奮してるのかも判らない。男にカラダ許してもらって幸せだなんて、あんまり可笑し過ぎて笑えねぇのに、それは事実、本当のこと。

 それに舌を滑らせるたび、手のひらで太ももを撫でてやるたび、ヒル魔の返してくる反応が嬉しくって仕方ない。早くイって欲しくて、一度口を外し、もう一度飲み込もうとした途端、いきなり額に手を掛けられた。

 細い針みたいな指が、頭にギリギリ食い込んできて、かなり痛ぇ。そのまんま強引に顔を引き剥がされて、せっかく奉仕してやってた場所から、口が外れちまった。

 ピンク色の性器が、目の前で揺れてて堪んねぇ。まだ全然、味わい足りねぇし。

「な…っんだよ、ヒル魔。イイんだろ? イきてーんだろ? なら、もっと…」
「るせぇ…ッ。黙れ」

 上擦った声で、彼はそう言った。突き飛ばすようにして葉柱から逃げると、ヒル魔は彼の目の前で身を起こし、片膝を立てて広げた脚の間に右手を滑り込ませる。

「見んな」
「…なっ…。…え?」

 また、ぞくっとした。今度は背筋どころじゃない、全身鳥肌が立つみたいになって、その上、口から心臓が飛び出そうだ。だって…男でこんなエロいなんて、ありえねぇよ…。

 見るなと一言、言っただけで、ヒル魔は葉柱の目の前で、自分のそれに触れていた。細い指を絡めて、先端近くを細かく撫でて、そうしながら項垂れて、赤い唇を噛む。

 ん…ん…っ、と細い声が零れて、時々、堪えられないと言いたげに、細めていた目が、ギュッと閉じられて…。乱れた金髪の隙間から、その目蓋や、濡れた唇が見えた。

「ん…ぅう…ぁ…ッ」
「ヒ、ヒル…魔?」

 びくりと肩を震わせたきりで、少しの間じっとしていたヒル魔が、目元をほの赤く染めて、葉柱の方を見るのだ。その目付きだけは、いつも通りの顔に戻り掛けてる。すげぇ奴…。

「脱がねぇの…?」
「…脱げってことかよ」

 目付きはいつも通りに近くても、その上がった息や上擦った声が、これまた妙に色っぽくて、葉柱は言うなりに服を脱ぐ。

 考えてみれば、今まで随分、堅苦しい恰好のままでエッチしてたもんだと思う。長ランも脱いでねぇし、ズボンのベルトも外してねぇ。そんだけ夢中だったって事か。

 脱いでる間、ヒル魔がヤケに真っ直ぐに見てるもんだから、それなりやりにくかったが、それよりなにより、ジッパーを下す時がヤバかった。何しろ、もうすっかり元気なもんだから、前がきつくて。

「そんななる前に脱がねぇか? フツー」

 笑いを含んだ声が憎らしい。誰のせいだと思ってんだ。脱いでる間、そこばっか凝視されんのも落ち着かねぇし。

 でも、見た途端の奴の一言には、ちょっとショックが大きかった…ってか、どーゆー意味だ? 

 葉柱のそれをマジマジと見て、ヒル魔は言ったのだ。

「ふぅん、そんくらいか…」
「…そ、そんくらいっ? そんくらいって何だよ?!」

 小せぇってか? ふざけろよ、オイ。てめぇのよりはかなり…な、筈なんだけどっ?! そりゃ、ガタイも違うけどよ。

 思わず声をデカくする俺に、ヒル魔は平気そうな顔。さっきはイきながら泣きそうな目ぇしてたくせに、こいつの神経はどうなってるんだ。

「喚くんじゃねぇよ。やり方、考えてただけだろーが。じゃ、前からでいーだろ」

 何でもないことのようにそう言って、ヒル魔はそのカラダを捻り、ベッドに横になる。そして葉柱の前で、ゆっくりと焦らすように両膝を開いた。惹き付けられるように見たヒル魔の奥は、こいつ自身の出した液ですっかり濡れている。

「今更だけど、した事ねぇってオチはねぇよな…?」
「馬鹿にしてんのか、てめぇ」

 馬鹿にしてるとしか思えない口調で言いやがるんだ、ホント。 

「…同性とも?」
「まあな…一応、何回か」
「へぇー。じゃあ、フォローはいらねぇか」

 ほんとに平気そうな声出しやがって。さっきよがって見えたのが、幻覚だったのかとも思えてくる。

 前から…いわゆる正常位よりも、後ろからの方がヤられる側の負担が少ない筈だけどな。でもこのヒル魔に、尻をこっちに向けて、四つん這いになれ、なんて言った途端、撃ち殺されそうな気がして言えなかった。

「じゃ、じゃあ、入れっけど…」
「ゆっくりな」

 デカい口叩くわりに、やっぱ優しくヤって欲しいのか、なんて思った途端にヒル魔が言った。例の奴らに回された時の事だって、すぐに判った。

「この間、裂けたとこが、まだちっと痛ぇから」
「……」

 何だって今、言うんだ? 判ったよ、優しくヤってやるよ。それこそ、もっと乱暴にしてもいーけどって、言われちまいそうなくらい。

 ケダモノになり下がってヤっちまいてぇのに、できねぇじゃねぇか。こいつって、こんな時まで計算づくなのかと、葉柱は秘かに息を吐いていた。



                                  続









 振り回されてますな! 葉柱さん、そして惑い星もな!? いーよいーよ、振り回してくれよ。世話ぁ掛けられるのが快感なんて、惑い星と葉柱さんは同類? 

 いよいよ入れるシーンですっ。いよいよ、入・れ・る!シーンで〜すっ。失礼なことを言われてショックな葉柱さんですが、大丈夫だよ、ヒル魔さんは、貴方が相手だったら、いつでもすげぇ感じてくれっからさ。

 ポーカーフェイス全開で、判り憎いかもしれませんが、顔はさておき、体はそれなり反応するのでね、騙されないで下さい、葉柱さん。

 なんかこの執筆後トーク、葉柱さんへの応援ばっかりだ。笑。だってこれからもずっと苦労すると思うから、惑い星は彼の見方をしなくちゃーですよ。

 妙なトークですみません。またもや、夜半過ぎてかなり経ちましたので、アップは3日の日付でしておきまーす。こんな内容ですけれど、ほんのちょっとでもヒル魔さんの色気が伝わったら嬉しいです。


07/02/03