.
Voice voice voice … 4
「ここ、俺の付けた跡だったのかよ…?」
ちゅっ、と音を立てて軽く吸ったあとで、葉柱がそう聞くと、ヒル魔は笑ってそれを肯定する。
「別のヤツなワケねーだろ」
「ヒル魔…」
それって、俺が特別ってこと? こないだみたいに無理やりじゃねぇ限り、俺以外のヤツにはヤらせねーって、そういう…。だったら、嬉しい。あんま嬉し過ぎて、変になりそうなくらい。
でもそれはムシの良過ぎる考えだった。奈落に落ちるってのは、こんな気持ちなんだろう。
「男が男をヤる時ってのは、もっとソクブツ的なんだよ。唇にキスとか、首に跡付けるとか、んな事してきたのはてめぇくらいだ。口なんて、ぶっ込む場所の一つっか、ヤローは考えねぇ」
「ぶ、ぶっ込…」
頭のどっかがズキズキしてくる。そんな無造作に、俺の怒りのスイッチ入れんなよ。ヒル魔があの時、風呂場で吐いてた白い液が何だったのか、今はもう判ってる。
あんな事でさえ、初めてじゃないと笑って言って、一体こいつ今まで何回、ああいう目にあったっていうんだ。
無意識にヒル魔の細い体を抱いて、きつく抱き締めて髪の中にキスをする。自分のものにしたい。そうして他の誰にも二度と、あんな事はさせたくねぇ。させねぇ…っ。
「力入れすぎ…。離っ…!」
「俺のもんになっちまえよ、ヒル魔」
「……」
ヒル魔は返事をしなかった。髪から頬に、唇をずらし、細い顎、喉、首筋と、甘いキスを繰り返し、鎖骨を噛んだ辺りで、ヒル魔の無反応に葉柱は気付く。ただの人形を抱くように、その体は身動きもしていない。
「ヒル…」
顔を離して、覗き込んだヒル魔の瞳は、夜の始まりの空みたいに、透き通ってて冷たかった。投げ出された手足、裸の体。そして白けたような顔。
「い、嫌なのかよ」
「嫌っつーより…。話になんねぇ」
「そ…か…」
いつもはあんなに、きらきらしてて、宝石みたいな目ぇしてんのに、今のヒル魔の目はまるで、その辺に転がってるガラス玉みてぇだ。心臓が何かで締め上げられるように痛くて、見てると泣きたくなるから、葉柱はヒル魔の胸に額を伏せた。
「わり…。気色悪ぃこと言って…」
「別に。てめぇが気色悪ぃのはいつもだしな、ハチュウルイ」
冷たい目をしてたのに、ヒル魔の体は凄く温かくて、葉柱はその肌にノロノロと唇を這わせる。こうして抱くのを許してくれるのは、単なる気まぐれなんだろうけど、それだけだって葉柱には奇跡みたいに思えてくるから。
「顔、あげな」
命令されて、名残惜しげにヒル魔の肌から顔を上げる。ヒル魔の笑ってる顔が見えたと思った途端、ねっとりと唇を重ねられて、葉柱は狼狽した。
ただのキスなのに、こいつとだとこんなにエロい。口開けたまま唇を斜めに交わらせ、口の中で唾液の音を鳴らす。舌をぬるぬると動かして、葉柱の舌と絡ませ、それも、目をしっかりと開いたままで。
葉柱も目を閉じるのを忘れ、ヒル魔の顔を見つめたままで、その濃厚なキスを更に濃厚にしていく。夢中で舌を突き入れてたら、やがてはヒル魔の顔に苦痛の色が滲んできた。
見てるだけでイっちまいそうな、すげぇエロチックな顔。寄せた眉が卑猥に見える。まだ閉じていない瞳が潤んで、長い睫毛が濡れて光ってる。
「…ん、く、ふっぅ…んん…!」
葉柱の髪に絡むヒル魔の両手の指が、最後には強引にその髪を引っ張って、無理にキスから逃げた。
「て、めっ…窒息死させる気かよっ。舌で喉、塞ぎやがって! どんだけ長い舌か、自覚ねぇのか?!」
「ご、ごめ…」
「…ぶ…っっ」
謝ろうとした途端、ヒル魔はびっくりしたように目を見開いて、次の瞬間には派手に吹き出した。
「ゴメンナサイ、ってか? 賊学ヘッドが?! ほんとおもしれぇヤツ」
そのまま笑ってるヒル魔の顔が、さっきと同一人物とは思えないくらい可愛くて、まるでこいつは多重人格。ずるくて、冷たくて、エロくて、可愛くて、傍にいると葉柱は、始終ぶんぶん振り回されっぱなし。今以上、捕まったらどうなるか怖いのに、心が縛られていく。
「やべぇよ…ほんと」
葉柱の唇から零れた言葉に、ヒル魔は気付いたけど、それについては何も言わなかった。
「なぁ、笑わして貰いに来たんじゃねぇんだし、そろそろ本格的に始めねぇ?」
「お、おう…」
ゆっくりと広げられる脚の、あんまり凄すぎる色の白さ。滑らかな肌が仕掛けられた罠みてえ。綺麗な蜘蛛の巣に絡めとられる虫みてぇに、掛かったが最後食われちまうのに、自分から掛かりに行っちまう。それが本望なんだから。
「この唇から泣き声あげさせてみろよ、ハバシラ」
なんてすげぇ、殺し文句。気ぃ狂いそう。
じわじわ愛撫は煩がりそうだから、最初みてえに下に吸い付いた。まだ柔らけぇそこを、口に含んで吸ってやって、丁寧にイイとこを探してやる。先端も途中も根元も、全部ヨさそうな反応が帰ってきて、ヒル魔のそれはすぐに元気になった。
こんな綺麗な顔してる癖、やっぱりここについてるもんは、他の男とおんなじもんなんだな、なんて、痺れそうな頭で考えて、自分のイイとこを思い出しながら、舌と指で撫で続ける。
でもヒル魔のイイ声は中々聞こえてこなかった。ここは固くしてるのに、そんな感じてねぇのかなって、思った途端、頭にボサリと何かをぶつけられた。しかも、二度、三度繰り返して。
「ってぇな、何すんだっ」
ぶつけられてた枕を奪って、それを部屋の隅に放り投げながら葉柱は顔を上げる。こっちを睨んでるヒル魔の顔を見て、彼は開いた口を閉じるのまで忘れた。
「…い、イイんなら、なんでぶつんだよ、てめぇは」
続
なんつーか、ハバシラさんの弁じゃありませんが、ヒル魔さんって人格色々ありすぎ。普段の悪魔な顔とは違って、イイ時は可愛い顔してて欲しいって思ってたら、こんなんなっちゃいました。
あっれー? このシリーズのヒル魔さんって、こんな可愛いっけ?って思ったけど、きっとベッドから下りて主人に戻ったら、いつも通りのムカつく奴だよ、多分。
そういうギャップが一番の魅力だって、私は思ってるけども、振り回される方は堪らないですよね。ハバシラさんは本望だそうですから、ま、いいか。
意地っ張りのヒル魔さんは「声上げさせてみろ」なんて言ってましたが、なんて強がりなんでしょう。弄られて弱いとこいっぱいある癖に、その背水の陣は無理すぎるよ?
それでも声を堪えようとする姿が、きっと次あたりたっぷり見れると思うんで、楽しみ〜♪
07/01/08
