や、やべぇ…ッ。

 殆ど無意識にそう感じて、葉柱は傍らのティッシュを数枚掴み取る。自分の放ったモノで濡れている手を拭うと、慌てて下着とズボンを引き上げた。

 バスルームのドアが開き、素っ裸の蛭魔が出てきた時、葉柱はベッド脇に坐っていたが、その手はまだ不自然に、ズボンに掛かったままだ。

 濡れた足のままで立つ蛭魔の体から、ぽたぽたと水滴が滴っていた。肩に引っ掛けていたタオルで体を適当に拭い、そうしながら彼は、焦った葉柱の顔を見る。

 ズボンのベルトに両手をかけて、ついさっきまでナニをしてたか、一目瞭然。蛭魔はそんな葉柱を見ると、微かに唇の端を吊り上げて、軽く笑うのだ。「サカってんじゃねーよ」とかなんとか言われた気分で、思わず葉柱は赤面する。

 タオル一枚を片手の、雫に濡れた裸のままで、蛭魔はそんな余裕の顔をして…。

 さっきは自分だって、声を上げてた癖に。葉柱の手と口に追い上げられて、震えながら放った癖に。今は、もうこんなに涼しい顔をしてるなんて、どういう神経なんだか。

 バスルームの水音に隠れながら、蛭魔も、燃えたぎっちまった自分の性欲を、吐き出してたのかも…なんてのは、あり得無さ過ぎる妄想だったらしい。

「さっきの倉庫、場所、覚えてっか?」
「え。そりゃ、わかっけど。なんで」

 ベッドから立ち上がった葉柱の隣を擦りぬけ、蛭魔は葉柱の長ランを広いあげると、当たり前のように袖に腕を通す。

「そこに連れてけ」
「だから、なんでだよ」

 それには答えずに、余りまくる袖を見て、イラついた顔をする蛭魔。袖先を何度も折り曲げるのも腹立たしいのか、ずり下がるのただ無造作にたくし上げ、前ボタンはかけずに、胸で掻き合わせるようにして着込む。

 華奢だな、と葉柱は思った。背はそんなに違わないのに、あんまり細過ぎる。腕の長さの違いはさておき、長ランの前があんなに余って…。しかも袖付けが肩よりずっと下にある。そのせいで、裾の長いのも目立って見えた。

 気が付くと、蛭魔の金色をした髪は、いつもみたいにぴんぴん上に立っていなくて、柔らかそうに首筋に垂れている。どっか別人みたいに見えるのは、髪型が違うせいだろう。

 髪、けっこー長ぇんだな、こいつ。
 背はそんな低くねぇ筈なのに、幅がねぇからなのか? すっげぇ、ちいせぇ。それにこいつって、なんか、すげぇ…きれ…。

「倉庫、行くのか? 行かねぇのか?」
「ああ…行きゃいんだろ。あ、ちょ、ちょっと待て」

 言われて、浮かびかけていた思考が飛んだ。葉柱は焦ったようにバスルームに飛び込む。シャツもズボンも下着も脱いで、急いで体にシャワーを当てる。

 さっき、シャワーを浴びてる蛭魔をオカズにして、妄想逞しく、ぬいちまった自分が、なんだか汚れてるような気がしたのだ。バイクに乗るとき、そのまんまの腕で、そのまんまの胸に蛭魔を抱くのが嫌だった。なんで、そう思ったのかは判らないが。

 金を払って部屋を出て、ガレージのバイクへ。葉柱はほんの数十歩の距離を歩く間、後ろにいる蛭魔を気にしたが、もうふらつくことも、具合が悪そうにすることもなく、彼は淡々と歩いている。

 来たときと同じに、蛭魔を膝に乗せようとしたら、ぶっ殺しかねないような険悪な顔で葉柱を睨んで、さっさと後ろのシートに座った。相変わらずの横乗り。危ねぇから、と何回言ってもやめない乗り方。

 なんだ。また腕で抱くことになるんだと思って、胸とか、手ぇ、綺麗に洗ったのによー。

 そんな事でがっかりしている自分の奇妙さに、葉柱はまだ気付く余裕もないらしい。エンジンを掛けて、重心を前に乗せて緩く走り出す。蛭魔は葉柱の背中に、軽く体を寄せ掛けて、片腕だけを彼の腹に回してきた。

 いつもは指一本も触らないか、触れてもせいぜい肩に手を掛けるくらいだから、弱ってる今の自分の体の事も、下手すりゃ振り落とされる危なさも、蛭魔はちゃんと判ってるらしい。

「もっとちゃんと掴まれ、っつっても、聞かねぇんだろーな」
「るせえ。いいから、早く倉庫行け。明るくなってきたら困んだよ」
「さっきから聞いてっけど、なんで倉庫。……まあ、いいけどな」

 スピードを上げると、後ろでバタバタと長ランの裾がはためく音がした。蛭魔はそれ一枚、体に巻きつけたっきりで、他は何にも着ていないのだ。下着すら着てない。思わず後ろに視線をやると、まだ夜中と同じに暗いってのに、膝上あたりまで、蛭魔の白い足がちらちら見えた。

 思わず眼が釘付けになり、赤だってのに交差点ぶっちぎりそうになる。後ろから聞こえた舌打ちに、本気で面白がるような、微かな笑いも混じっていた。でも、笑われるようなボケをしかかったと、葉柱も判ってるから何も言い返せない。

「そこ左に行け。その方が近いし、目立たねえ。そっから次、二本目右。デカい通りに出ねえで、次も右。その先の赤い錆びた扉」

 拉致られたのは自分の癖に、まるで自分ちの廊下をいくみたいに、蛭魔は近道をよく知ってる。気を失った振りをしながら、薄目を開けて場所を把握してたなんて、あの馬鹿どもは知らないだろう。

 言われるがままのタクシーはいつもの事で、指図に従ってるうちに、目の前に例の古びた倉庫。ほんの数時間前、蛭魔がさらわれてきて、犯された場所。

                                   続












 ちょっと没頭して書きすぎて、何書いてるんだか、判らなくなってましたが。なんも考えないで書いてるってのは、調子が悪くない証拠、なんです。いや、ホントですよ。

 ハバシラさん、ヒル魔さんの魅力にくらくらしたり、ヒル魔さんを犯した奴らに腹が立ちすぎて、キレそうになったり…。そういう繰り返しですが、ヒル魔さんが、そんな彼の気持ちを宥めてくれる筈ですから、暴れたりはしないと思うんだ。うん。

 あっ、やっとヒル魔さんの綺麗な金髪が書けたよー。シャワー浴びて、いつもと違ってる髪のヒル魔さんは、絶対絶対、綺麗だと思うんだー。それって私の中では、決定事項なんです。

 そんなヒル魔さんを、今に、しょっちゅう見れるようになるんだから、ハバシラさんの果報者めっ。羨ましいったらないよっ。

 でも、その反面、色々大変なこともあるんだろーなー。だって、あのヒル魔さんが想い人なんだもんね。二人の未来が心配&楽しみな惑い星です。


06/09/26
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Trap Collection 8