手を伸ばす。指先がそれに触れる。熱くて、微かに脈打っていて、葉柱は反射的に、一度は触れた指を遠ざけた。そうしてまた、右手でナイフを持ったまま、そこを支えるように、指をそえる。

 引きつるような、微かな息の音をさせたきり、蛭魔は声も立てずに葉柱の手元を見ていた。

 一糸まとわぬ自分の体を隠そうともせずに、ベッドの上で脚を広げ、蛭魔はいつもと大して変わらない顔をしている。葉柱の方が、動揺で心臓が壊れそうだ。

 どうやったらいいっつーんだ、これ。こんな糸が皮膚に食い込んで。蛭魔の体を傷つけずに、このナイロンの糸だけ外すのなんか、殆ど無理なんじゃねぇのか?

 だが、無理だとか言って、そのままにしておく訳にもいかない。見るからにきつそうで、それにこのままじゃあ、生理的な欲求に追い詰められた時、どうする? 要するに、排泄することもできない。

 どうしたらいいのか、答えも出ないままで、葉柱は親指の先の爪を、一番先端近くの糸に、無理に引っ掛けてみた。指がそれに食い込むような形になるが、糸と性器の間に、わずかの隙間も出来ない。

 別の場所ならどうか、と、違う部分の糸にも同じようにしてみる。自然、親指の腹で、蛭魔のそれを撫で回すような感じになり、広げた脚が微かに揺れた。

「…て、めぇ…何、いじくってやがんだ。早く外せっ」
「るっせえな! 好きでやってんじゃねー…」

 顔を上げて、蛭魔の姿を見た途端、葉柱の理性は吹っ飛びそうになる。仰向けの格好で、ベットの上に両肘を付いて背中を浮かせ、蛭魔は浅い息をついていた。

 白い体にうっすらと汗を浮かべ、顔をそむけて、視線だけで葉柱を睨みつけ…。昂ぶっているからなのか、葉柱の見ている前で、彼はひくりと腰を波打たせる。

 言葉を止めた葉柱に気付き、蛭魔は息を浅くしたまま、ゆっくりと唇に笑いを浮かべた。体はこんな状態だというのに、その笑いだけを見れば、まるで余裕そのもの。

「なんだよ、糞カメレオン。そそられんのか? えぇ?」
「…ああ…まぁな」

 ごくりと息を飲んで、葉柱はそう言った。蛭魔の視線を受け止めて、何故そんな、真っ正直なセリフを吐いてしまったのか、自分でも判りはしない。

 そうだ…。俺は目の前のこのカラダに欲情してる。抱きてぇと思ってる。こいつのカラダが、他のヤツラに好きにされたって事実にも、ムカついて我慢がならねえ。

 認めてしまうと、胸の奥のもやもやがすっきり晴れて、あり得ないような事なのに、自分の感情に納得がいった。そうか、そうだったのか、それなら判る、と内心で頷いているくらいだ。

「はっきし言って、むちゃくちゃそそられっから、それ以上、あおるようなセリフ吐くな、この悪魔が。こっちは飛び掛らねえようにしてんので、精一杯なんだよ」

 言いながら、蛭魔のそこに視線を戻し、葉柱はそれに巻きついているナイロン糸を、じっくりと観察した。どこもかしこも、ぎちぎちにきつく食い込んでいて、爪の先を入れる隙間も無い。

 指で触れると、先端よりも根元近くの方が、それでも幾らか緩いだろうか。指の腹で、蛭魔のそれを歪めるようにして、糸と肉の間に、無理に爪の先を押し込む。

「……ッ!」

 びく…ッ、と、蛭魔の腰が跳ねそうになり、葉柱は急いで、彼の片方の膝を押さえつけた。

「動くな! 動くとコレ、外せねえぞ」
「…ぅ…。主人に命令とは、偉いもんじゃねーか、糞奴隷」

 軽口を叩いているようで、声が上擦るのを隠せない。体が震え、身をよじりそうになるのを、蛭魔は必死で堪えている。

 ただ、その先端から、熱い液が滲んで零れるのだけは、どうしようもなかった。零れた精液が、見る間に根元まで流れて、それに触れている葉柱の指を濡らす。糸を緩めようと動いている指先は滑り、蛭魔がそうして昂ぶると、糸はますますきつく食い込んでいった。

 躊躇いは無かった。葉柱は何も考えずに顔を寄せ、長い舌を絡めるようにして、零れた精液をすする。されている事に気付いた蛭魔は、いきなり葉柱の髪を掴んで、そこから顔を引き剥がした。

「や、めろ…ッ」
「しょーがねえだろ、こうぬるついてちゃ、糸がほどけねぇんだよ!」

 だが、舌を這わせた後は、そうする前よりももっとずっと、派手にそこが濡れてくる。言い返してから気付いて、葉柱は上目遣いに蛭魔を見て、再びごくりと唾を飲んだ。

 蛭魔の細い膝は震えて、逃げるようにもがいている。金色の髪を乱し、喉を反らしてシーツに爪を立て、小さく開いた唇と、微かに見える尖った歯。その唇が、声を抑えようとするように、きつく噛み締められていた。

 強がって見せていても、辛くないはずはないのだ。視線をそこに戻すと、蛭魔の性器は細かく震えて、先端からは、とろとろと液を零れさせている。

 見ているだけで、誰もかれもケダモノにされちまうような、淫らで、それでいて綺麗なカラダ…。

 カ…ッ、やってらんねぇ。元々、我慢なんてのは苦手だってのに、なんで喰らいついちゃ駄目なんだ? 抱きてぇ、犯してぇ、自分のものにしちまいてぇ。奴隷だとか主人だとか、もうそんなもん、かなぐり捨ててしまいてぇのに。

「待ってな。しゃーねーから、洗い流しながら、なんとかこの糸、解いてやっから」

 葉柱は、風呂場で空になったペットボトルを広い、その中に温い湯を入れて戻ってくる。蛭魔はベッドの上で、脚を広げたまま、大人しく葉柱が戻るのを待っていた。

 蛭魔はまだ、余裕のふりでもしたいのか、その唇に笑いを浮かべている。膝から足先から、全部、細かく震えるのも隠せていないくせに、大したタマだと、葉柱は思った。

「ハバシラ…」
「何だよ、うるせぇ。気が散るだろーが」
「あの続き、だがな…」

 なんの事だろう、と思ったのは、ほんの一瞬。キスをしたあの時のことだと葉柱にはすぐに判る。それも当たり前だ。あの日からずっと、そればかり思い出していたんだから。

「また別の日な。今日は…ちっと俺も、余裕がねぇしな」
「何の話だか、わかんねぇよ」

 そう言って葉柱は、蛭魔自身の精液に濡れているそこに、ペットボトルの中身の湯を、僅かずつ零して洗ってやった。蛭魔は体の力を抜いて、交差させた両腕で顔を隠し、ずっと唇を噛んでいた。


                                    続










 進みません。進みません。すみません。もっとサクサクと話を進めるつもりで、この壁紙に決めていたのに、ラスト近くでやっとペットボトル登場ですよ。とほほほほ。

 最初の方を読んでいる間は。何のことだか判らなかったよね、この壁紙。しくしくしく。まあいいさ、あらかじめ壁紙の写真を用意しとかないと、小説書いてすぐにアップできないしさ。

 友人Jとチャットしていたら、前回、ヒル魔さんが白い液を吐くところが、凄くHだと言われました。そうかい? 自覚ナッスィングでしたよ、私。それだと、今回の話はどーだい、Jさんよ。

 ヒル魔さんが、色っぽく書けたのは満足なんですが、彼。ハバシラに惚れてるからでしょーかね。少し強気の角がとれてる気がしてます。私はそんな彼も好きだけどさ。

 では、次回も頑張ります。ってか、まだ先だけど、キス話も頑張りたいですっ。


06/09/04

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Trap Collection 5