『 たとえ貴方が狼でも… 3 』
放つ瞬間だけ指を緩めて、その液の残りの雫を指先に受けながら、蛭魔は冷静に感想を言う。
「カタチは悪くねぇな。すぐイっちまうのも、それはそれで、俺は嫌いじゃねぇぜ、チビ」
そして彼は、投げ捨てるように言葉を続けた。その冷たい言い方が、薄暗い部室に響く。
「てめぇは、もう行っていい。あんまり乱暴しねえように、程ほどに、だろ? 判ったから帰れよ、糞デブ」
それは瀬那ではなく、栗田に告げられた言葉で、そう言われるのが判っていたように、彼は顔を上げて蛭魔を見た。瀬那の腕を押さえていた手から、栗田は黙って力を抜いたが、それでも、そこから動こうとしない。
「僕も、もう少し、いるよ…」
「…好きにしな」
蛭魔が答える前の、一瞬の沈黙は、酷く奇妙な色をしている。彼は栗田を見て、ほんの少し歪んだ顔で笑った。てめぇの考えてることなんか、全部判っているんだと、言いたげな唇の形。
栗田は蛭魔から視線を逸らして、その目で瀬那を見下ろす。
「ごめんね、セナ君…。あんまり…抵抗しちゃ駄目だよ。少し痛いかもしれないけど、その時は逆に体から力抜いて。じゃないと怪我しちゃうんだ…。それとね、蛭魔を」
「うるせぇよ!」
怒りを含んだ蛭魔の声が飛ぶ。それでも栗田は瀬那の肩を撫で、髪に触れて、頭を下げるような姿で顔を寄せ、耳に幾つか囁いたのだ。囁かれた言葉は、擦れていて小さくて、全部は聞こえなかったけれど、それが何なのか、瀬那には聞こえた気がする。
蛭魔を キライに…ならないで… アメフトを…やめないで…
そんなことを、言われても。今は、考えられない、何も。
「く、栗田さ…。え…? あ…」
広げられていた脚を、開いたままの形で押さえられ、思わず首を持ち上げて、瀬那は蛭魔を見た。制服のシャツの胸ポケットから、細長いプラスチックの容器を出して、その蓋を口で獰猛にむしり取る彼が見える。
開いた脚の間、剥き出しにされた体の中心に、その容器を無造作に近づけて傾ける。とろりとした薄金色の液体が滴って、瀬那の性器の根元に滴った。
「ゃあ…ッ、ナニ、それ…」
「オリーブオイル。別に変な薬とかじゃねぇよ。潤滑剤ってとこだな」
滴り落ちたオイルが、瀬那の肌の上を、後ろの方向へと流れていく。蛭魔の微妙な加減で傾けられた体を、びくりと激しく跳ね上げて、瀬那は殆ど無意識にもがいていた。
オイルが流れる感触が、あまりに異様で動かずにはいられない。蛭魔のポケットの中で温められていたオイルは、少しも冷たくはなく、まるで温かい指先が滑っていくようだ。
「指、入れっからな。動くなよ」
「いや、嫌だっ、やめ…、や…。ひぅッ」
オイルの付いた性器を軽く弄って、一指し指をたっぷり濡らしてから、蛭魔はその指を、ゆっくりとそこに沈み込ませた。
数秒かけて、ゆるゆると、一センチずつ…。指の関節を通す時は、少し左右に捻るようにして。それでも抵抗がある時は、数ミリ単位で、一度引き、入れ直す。
どんなに力を入れても、脚を閉じあわせることが出来ない。もがいても、腕を掴んだ栗田の手は緩まず、蛭魔もまた、時間をかけてはくれても、しようとしている事をやめてはくれないのだ。瀬那には、逃げるという選択肢が無い。
「力、抜いて、セナくん。ゆっくり息して」
「も…、ゆ、許し…ッ。んぅ、ぅあ。…ふ…っ」
きつく閉じていた目を、思わず瀬那は開いていた。声を零していた唇が、そっと何かに塞がれたのだ。開いた瞳には、蛭魔の顔が映る。薄暗い明かりの下で、蛭魔の閉じた白い目蓋と、長い睫毛、額にかかる金の前髪が見えた。
その穏やかなキスに、頭の奥が痺れて、抵抗する力が、一気に消えてしまう。微かに開いた目蓋の下の、いつもとは違う表情の蛭魔の目に、心が釘付けになる。
「力抜けって言ってんだろ? 瀬那。てめぇ…言葉が通じねぇのかよ。聞こえてねぇのか?」
「大丈夫だから、ね、セナ君。蛭魔は、その…巧いから、ちゃんと、あんまり痛くないように、怪我しないようにしてくれるから」
もう一度、軽くキスされて、舌で唇をなぞられて、朦朧とした頭の中に、蛭魔の苛立ったような声が聞こえた。
「…知ったふうな口、聞いてんじゃねえよ、糞デブ」
「うん。でも、今まで見てきた…から」
朦朧としたままの頭に、流れ込んでくる不思議なやり取り。とんでもない事を聞かされていると、おぼろげにだが瀬那にも判る。こういう事は、初めてじゃないのだ。
自分以外に誰か、同じようにされた人がいる。それも、今、この状況と同じように、栗田に押さえられ、無理に蛭魔に犯された人が、いるという事だろう。
それでも。
それでも瀬那の心の中に「怒り」という感情は生まれなかった。怖い。嫌だ。逃げたい。でも、蛭魔を…栗田を、憎いとは思わない。嫌おうとも思わない。アメフトを続けるかどうかとも、別のことのようにしか感じない。
「何だ、泣き叫ばなくなったじゃねぇか、瀬那。指一本入れに慣れたんなら、増やすぜ?」
言い終えるか終えないかの内に、蛭魔の指が、体の奥から引き抜かれる。その一瞬を判っていたように、栗田は瀬那の腕を押さえている手に、黙って力を入れた。
続
すいません。と、また謝る。二話のラストにつけたコメントで、惑い星は嘘を申しました。栗田はもうすぐ退場する…と。だって、ヒル魔が命じたら、黙って帰ると思ったのに、帰らなかったんだもん、彼。
流石ですね、ヒル魔さんの絡む話ですもん。惑い星ごときのやりたいように、動いてくれる筈はないってか。ヒル魔さんなんか、きっともっと勝手にやりまくってくれるよ。指図されて諾々と聞く彼じゃないよな。
さて、どーすか? Hの度合いは。鬼畜ではないですが、結構詳しくなってきましたねぇ。ヒル魔さんの、あの長い綺麗な指。あのメチャクチャ器用そうな指が、その器用さを発揮しまくってますよん。
セナを相手に、ちゃんと加減してくれてる優しさも、私は結構好きですよ。ふふ。
ところで、うちのサイトは更新速いです。どんな按配に速いかは、履歴をご覧下さい。今後どんなものを予定しているかは、まあ、日記でだいたい判るかな。
それを見ながら、ご訪問くださると、とても嬉しいです。こんなとこにこんな事を書く惑い星は、ちょっと変かも知れないね。いや、ちょっとどころではなく、元々変かもしれない(笑)。
06/06/04
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