TURN OVER 3
「………なぁ? ヒル魔」
呟きながら指を動かすと、自由を封じられたままで、ヒル魔の体が派手に仰け反った。最初は乾いてた先端からは、ぬるつくものが滲んでる。ガキが気に入りのオモチャを弄るように、俺はしつこくそこばかりを撫で回した。
すげぇ、気持ちイイ手触り。濡れてるせいもあるけど、キレイな丸い形の先端が、快楽のせいで、ひくひく、びくびく震えてて、可哀相に思えるくらい派手に反応しちまってる。そのクセ、さっきみてぇな声は聞こえてこないから、そむけられてる顔を、俺は無理に覗き込んだ。
歯ぁ食い縛って、噛み締めた歯列の間から、震える浅い息遣い零して。どうしても堪えきれない嗚咽が、喉の奥の方で小さく響いていた。
「…く、っ…ふぅ、んん…っ」
「感じてんだ、お前」
「誰…が…っ、は…ッ、ひ、ひゥ…っ」
奥の方へ、思い切り手を突っ込んで、握り込んで中身を転がすようにしてやっただけで、ほら、この色っぽい声。堪んねぇ。握力つけるのに、胡桃を二つ、手の中で転がしたこととか、あるだろ。あの要領で強弱つけて、手のひらの中に揉みほぐして。
いつも俺のこと嘲笑ってた目が、苦しそうに細められて、強く閉じられる。目じりに滲むのって…。
なみ… だ… ?
ぎく…っ、と、しちまう。憎くて可愛げのねぇオオカミに、ちょっと痛い目見せてやるつもりだった。だから、いきなり、その相手が子ウサギになったら、そりゃ少しは動揺もするさ。ひるんで手を緩めたら、頬にいきなり温い感触。
唾を吐きかけられたって、判った途端、元々キレてたのが、さらにキレる。
「退けよ…。離せっつってんだ、きたねぇ顔寄せんじゃねぇ…、こ、の変態カメレオ…。…ぁ…ッ…」
「………」
無言まま、ただ熱い息を吐いた。獣の匂いがしただろうな…って、遠い心で思う。
なぁ、俺がナイフ持ち歩いてんのは、それを振り回すためだと思うだろ? けど、殆どは脅すためのアイテムで、誰かを切り刻むことなんて、ありゃしねぇよ。
こうみえてアメフト馬鹿なのはてめぇだけじゃなくて、俺もなんだから、ほんとの力は有り余ってんだ。ただ、持ってるナイフを振りまわさねぇのと同じに、ただその力を、暴力に使おうとしなかっただけなんだぜ。
ヒル魔の着てるシャツは、それこそティッシュペーパーを破くみてぇに、あっさり二つに裂けた。残ってたボタンが全部弾け飛んで、そこらの暗がりまで転がって消えちまう。
ズボンを脱がすのだって簡単。片手で無理に引き下ろして、突っかかったとこで、もっと力を入れたら、それだってビリビリって破けた。残った下着なんか、引き千切るのは造作もねぇし。
「…や、…ぁ…」
「イイざま、だ」
素っ裸に剥かれて、これじゃ逃げることも出来ねえだろ、って、残酷に嘲笑ってやる。地面に落ちてたヒル魔のネクタイは、腕を縛るのに丁度いい。細い手首ひとまとめにして、適当にぐるぐる巻きつけたら、膝でコンクリを掻くようにして、無様にもがくことしか、お前に出来る術がねぇ。
「…ぶっ…殺…っ」
「その口癖も、そういう格好して叫んでりゃ、意外に可愛いかもな」
「ハバシ…ラ…」
名前を呼ぶ声は震えてた。あえて見ないようにしてた顔は、きっと恐怖に歪んでただろう。
「通行人に、見られたくねぇだろ。もっと奥、行こうぜ」
ヒル魔の服の残骸と、転がったゼファーを置き去りにして、俺は生贄のカラダを抱きかかえた。今、何時だっけな…って、心のどこかで、変に冷静に思う。十時くらいだっけか。朝までは長過ぎるけど、きっと飽きねぇだろうな。
だって、こんなに欲しかったカラダが、今は俺のものなんだ。
*** *** *** *** ***
「…ア、ぁー…っ…」
薄暗い倉庫の天井に、壁に、声が反響してた。餌の肉を喰らう犬みてぇに、ヒル魔のあそこに鼻面突っ込んで、舐める、しゃぶる。血よりは多分温い精液を、長ぇ舌を伸ばして丁寧に味わった。
ちゅぶ…って、気ぃ狂いそうにヤバイ音がして、その音と同時に、また新しい熱い液体が、どばって口に溢れる。何度かに分けて、ゆっくり飲み下すと、視野の隅で、ヒル魔の痩せた下腹が、せわしなく上下して震えた。
あぁ、なんかお前さ、泣いてるみてぇなのな。
止せよ。いつだって強かで、憎々しくてムカつく奴で、弱みなんてねぇんだろ…って、そう思ってたのに。お前、そう、誰にだって思わせてるのに。
ほんとは、こんなに弱ぇの…? 嘘だろって。
現実を見定めるのがどうしてか嫌で、ずっと俺は顔を上げねぇ。細ぇ太腿掴んで広げ、ただの人形にやらしいことして遊ぶみてぇにさ、あっちこっち、敏感な場所ばっか選んで、噛み付いて舐めてしゃぶって、舌先で突付き回して…悲鳴上げさせた。
その声だって、そろそろ枯れて。
もう、終わりにしてやろうか?って、聞いたんだ。お願いしますって言えよ、なんて、言ってみようかと思ったのに、声に出なかった。それで無造作に痩せた体を四つんばいにさせて、ぐちゃぐちゃに濡れてる穴と繋がる。
突き刺した途端に、ヒル魔の全身がガクガク痙攣して、だけど逃げようなんてしないで、ただ、頬っぺたを土の地面に押し付けたまま、何度だって揺さぶられてた。
乱暴にやると、もともと痩せっぽちのお前の、尻の辺りの骨と、俺の腰が当たって痛ぇ。もう力の抜け切ったその場所に、散々出し入れして中に全部出して、押さえつけてる手を離したら、そのまま…ヒル魔の体は横に崩れた。
「ヒル魔…」
どう言おうなんて思ったわけじゃなく、無意識に名前呼んだ。ヒル魔は引き裂かれて濡らされて汚されて、ぐちゃぐちゃにされた布っきれみたいに、少しの間ぴくりとも動かねぇで、そのあとで、息の音だけで何か言ってた。
満足…かよ…、てめ…。
息の音だけなのに、その声は震えてて。ヒル魔はのろのろと手を動かして、ネクタイで縛られたまんまの両手を、自分の額の上に乗せる。
「ヒル…」
もぅ、ここに置いてけよ。
触んな。
それとも、シャシンでも撮って、俺を脅すかよ。
俺は手ぇ伸ばして、ヒル魔の腕を掴んだ。ネクタイを解いてやろうとしただけだったけど、そのせいで、泣いてる顔を見ちまった。一瞬で、脳裏に流れる思い。
初めて、だったなんて。なのに、こんな酷ぇヤり方しちまった。ただ、お前が欲しいだけだったのに。あぁ…こりゃあ、嫌われたよな、完全に。それどころか、もう、顔も見してくれねぇよ。
「わりぃ…俺」
「……」
「お前のこと、好き…なんだよ」
ぼろぼろ、ぼろぼろと、涙を零しているヒル魔の顔を見下ろしながら、俺は何かがほつれるように、そう言っちまってた。気狂いみてぇなこんな手順で、告っちまうなんて、馬鹿みたいだ。
いつの間にか脱いでそこらに放ってた白ラン拾って、酷ぇ姿のヒル魔のカラダを包む。子供を抱っこするみてぇに、膝の上に抱いて壁を背にして、俺も、泣いた。
不器用すぎて、もう死んだ方がいい? 好きだなんて、前々からわかってて、つまりは大事にしたいのも判ってて、どこをどう躓いたらこんなことになっちまうのかって、そんなのは、今更判ったって遅過ぎだ。
「好きだ。嘘じゃねぇ…よ…」
「…あぁ…そー。……ほんと、馬鹿…ばっかし」
がくり、と喉を仰け反らせて、暗い天井を見上げて、それでもヒル魔が、少し笑った…気がした。
続
キてますね…。すいません。読んじゃった方が怒ってないといいんですけど。ごめんなさーーーーーーーーーい。不器用すぎるにしても、こいつは酷ぇ。酷過ぎる恋愛。
一つ。思ったんですけど、ヒル魔さんも自分がハバシラさんのこと好きだって、どっかで自覚してましたね、これは。そしてハバシラさんも同じにそうでさ。あ゛ーーーーーーーっっっ。だったら普通に恋愛しろやーーーーーーっ。みたいな。
エチシーンは、終わりましたね。こんな話で、どーもすみませんっ。次回はエンディングですよね、はいーっ。
09/09/25
