TURN OVER 2
待たされるのはいつものこと。いつもだけど腹が立たねぇわけじゃねぇんだ。呼びつけられて、あいつの部室前。犬小屋ん中の凶悪な犬も、いい加減俺がここに突っ立ってるのに慣れちまって、ウーとも唸りやしねぇ。
バイクのエンジンを切る。ガソリンもタダじゃねぇから勿体ねぇし。静まり返った途端に、部室の中から聞こえた音は、シャワーの水音?
「…んだよ、呼びつけといてシャワーかよ」
どくん、って鳴った鼓動に、自分で気付かないフリだ。ホントやべぇ。最初からどうかしてる俺を、さらに可笑しくさせるような、あいつの言動が、何だか…怖ぇよ。苛立ちを紛らわせたくて、無意識に俺はドアを蹴った。
ガツン、て、結構デカい音して、その振動のせいか、ドアは外側に揺れて開いた。シャワーの音がもっと大きく聞こえて、一瞬後に途切れ、目に飛び込んでくるのは、アイツの素っ裸の…。
「……っ」
声も無く驚いたのは、俺じゃあなくて、ヒル魔。水滴らせて、裸足の足で部室ん中ぺたぺた歩いてた足止めて、こっちを見てる顔が今まで見たこともねぇような「素」の表情に見えたんだ。いっつも立たせてる髪は、首筋に濡れて垂れてて、細ぇ首が、なおさら華奢に見えた。
やべぇくらい、その顔が、キレイで…なんか…。
「覗き、かよ、エロカメレオン。見物料、取るぜ?」
「…かっ…」
勝手に見せたのはてめぇだろうが!って、言うはずの声が出てこない。
でも、にやっと笑った顔は、もういつものヒル魔だった。デカいバスタオルを頭から被って、上半身だけ隠した恰好で、髪をくしゃくしゃやりながら、奥の方に歩いてって、ものの五分もしたら、もういつものヒル魔の恰好だった。
でも、見たもんは頭ん中から消えねぇから…。
首筋から、するっ、と、ずれた視線、鎖骨より下。
胸までもう少しの、眩しいくらい白い肌に、
サッキ見エタノ ナニ…? 赤イ、跡…
そんなこと、俺が考えてるのなんて、お前、知らないんだな。いっつも似たような煽り文句。癇にさわる顔と声と態度で、間近から俺の顔見上げる、目。
「ヤりてぇんなら、タクシー済ませたあと、女んとこでも行けよ。いっぱいいるだろ? 賊学ヘッドのハバシラサン」
「ふざけるのも大概に、しろよ…」
やべぇ、キレそう。今、もうちょっとでも煽られたら、多分やべぇ。今、欲しいのはお前、つったら、どーすんの? それとも、予想ついてるかよ? なら、よく出来たオツムで想定済みとして、フェイントだの、フェイクだの、得意なお前は上手に逃げられるかよ。
この、長ぇ俺の腕から。
モウ イイヤ ドウトデモ ナレバ
無言で俺が跨ったゼファーのバックシートに、お前、いつものような横座り。髪からも体からも、シャワー後のいい匂いがして、俺の頭ん中、スパークしてるのは、多分、セイヨク、だよ。
アオッテ ミロヨ
ソウ イツモ ミタイニ サ
イッソ スイッチ キリカエテ クレ
ドレイ カラ ケダモノ ニ
バイク転がしたのは、その後、ほんのちょっとだった。ガッコの敷地から出て、命じられた駅へ近道する、ハンドル擦りそうな暗い路地。その路地を抜けた途端、信号無視の車のせいで、軽く、右に傾いた車体。
腰に一瞬回されたヒル魔の腕。指先が、俺の白ランの胸に、一瞬、爪立てた。それだけで。
タッタ イマ スイッチ キレチマッタ …
*** *** *** *** ***
背中が、いきなり固いもんに叩きつけられた。見開いた目に映るはずの、奴隷野郎の背中は見えなくて、代わりに見えたのは、コンクリートの壁と、もう一方も同じような壁と、その隙間。
「な…に」
が、起こった? ハバシラ、てんめぇ、コケやがったのかよ。ケガでもしてたら、ぶっコロス…! 一瞬で考えるのは、試合への支障のこと。ちょっとくらい無茶させても、事故らねぇ腕だと思ったからさせてた無茶だったのに。
けど、
ヒル魔が起こったことを把握する前に、ブツンって、音がする。彼の着てるシャツの胸から。熱い何かがその肌に触れる。湿った音がして、やっと息が吸える。息を吸ったのと一緒に、声が、出た…。
「…っあ、…」
ブツン、ブツン…っ。
合わせて三回聞こえた音は、シャツのボタンが飛んだ音だ。一瞬遅れて、コンクリート壁やら地面やらに、ぶつかって落ちて転がってく音がする。
「あー、何、これ、キスマークかと思ったら、ぶつけた跡かなんかかよ。はっ、信じらんね。そんなんで俺、一線踏み越えたの? はは…ッ。笑うしかねー…」
ちゅ、と鎖骨の傍の肌が吸われる。遅れてもう逆側の胸に何かが触った。二本の指で、摘むように揉み回される、柔い皮膚。もともと淡く色付いてる場所に、もっと強い赤をつけるように。
「な、にしやが…っ…」
「るせぇ! さんざ煽ったのてめぇだろーがッッ!!」
びっくりするくらいの音量で、怒声が出た。バタつかせるヒル魔の脚が、葉柱の脚にぶつかる。あ、やっぱ細ぇ…、そう思う。壊れて散った理性の何処かで。でも理性より、欲望の方が遥かに強い。
何デ ベルト シテネェノ? オマエ
余計 脱ガスノ ラク ダヨ?
ボタン、弾いて、ジッパー下すのなんか、自分ので慣れてる。手ぇ突っ込んで、開けたズボンの前を手首で広げるようにしながら、下着越しに握る。強めに力、込めたら、感触は柔らかくて、それに苛立っちまうよ。
さっさと、俺とおんなじ気分に、なっちまえ…って、そう…。
「ヘ、ヘンタイ、かよ、てめ…っ。言い触らして、や…」
「あー、好きにすれば? どっちみち、もう、止まんねぇっ!」
言いながら、ほんの少しの違和感。なんかヒル魔の声、震えてねぇ? きっと聞き間違いだろうって、手首揺らして奥をいじる。布越しが早くももどかしい。いったん手ぇ引っ込めて、今度は下着のゴムの内側へ、指を滑り込ませ、直接触れて、根元から、先端へ。
びく…って、細い腰が震えて、そこにまた違和感。先端の丸みに指を絡ませるのは、殆ど無意識の動作だったけど、その場所は乾いてて、清潔ささえ感じたんだ。違和感ばっかり増えた。
だって、高校生のオトコだぜ? 弄ってるのが同性だろうがなんだろうが、勃ってきてフツーじゃね? こんなイイとこなぞられて、いじくられて、フツーはそろそろ濡れるよな?
「お前さぁ、なに、不感症気味ってヤツ?」
言いながら手は止めない。イイとこ探し当てたくて、指先でも一度根元から先端まで、じっくりなぞる。それも細かく扱いてやりながら。気付いたらいつの間にか、ヒル魔の手が俺の腕を掴んでやめさせようとしてる。
けどさ、随分力がねーのな。逃げようとして膝立てて、もがく動きは、だけど、あんまり上手くいってなかった。ヒル魔の手に捕まえられたまま、葉柱は愛撫の手を止めようともしない。とうとう、くちゅ、と小さく音が聞こえる。その途端の、信じられない声。
「…ぁ、ひ…ッ」
「……うわ。すげ、今の、お前の声?」
コンクリの地面に、立てられた細い爪。白く色変えて、震えてた。ちょっと動揺して、顔上げた途端、片膝跳ね上げて、股間蹴り上げようとしてくる、この、暴れ猫みてぇなヤツ。あぶねぇな、気ぃ抜いたら逃げられちまう。こんなチャンス、きっともうないのに。
なんのチャンス?って、脳裏で頭ん中に浮んだ疑問符は、すぐ消えた。どーでもいーんだ、そんなのは。ヤりてぇ相手の自由を奪うことの出来た今、手加減してる場合じゃねぇよ。
片手で手首を一つに掴んで、頭の上に押さえ付けて、思い切り体の上に胸を重ねて重みを掛けたら、ヒル魔はもう、そんなに暴れることもできねぇで…。ただ、ギラ…って、凄ぇ目ぇして俺を睨んだ。ぞくぞくしちまう。いっそ気持ちイイ。
続
またこれ、凄い半端なところで続くですみません。しかももっと、ガンッガン本気で憎くて強姦するみたいになるはずが、最初っからハバシラさんヒル魔さんに惚れてるモード全開なんで、あんまし酷い、いかにも「暴行」って感じのエッチは書けないみたい。
おっとー。すいません、目次のとこに注意書きしましょ。こんなルイヒル、多分書いたことないからー。
それではでは、次回もきっとエッチ続行ですので、それでもいい方は是非とも見にきてやってくださいませ。ありがとうございましたっ。
09/06/13
