sweet fruity floral … 1




 シャワーの音がする。バスタブに湯をためてやっといたから、寒がりなアイツも、きっと寒くはないと思う。

 換えのバスタオル。爽やか系ジュースとコーラは冷えてるし、正月料理もばっちりだ。そりゃコンビニのセットだけど。あと何かないか。用意しといてやれるもの。

 数ヶ月前に借りたばっかりの、小綺麗な自分の部屋を見渡すと、不意に葉柱の目に飛び込んでくるのは、バスルームのドアの傍の、淡いオレンジのプラスチックボトル。

「…あ! やべっ、忘れてた!」

 間に合うかな。もう出て来ちまうかな。大体なんでフルーティフローラル? 俺愛用のシトラスグリーンじゃお気に召さないってこと?

 この前ヒル魔がここにきた時、次まで買っとけなんていきなり言うから、次がいつか判らない俺は、アイツ送ってったその足で、ドラックストアのハシゴしちまったじゃねーかよ。

 あー、もう、賊学ヘッドのハバシラさんが、真剣な目んなってボディソープコーナーに屈んでるなんて、そんな笑える光景そうはねぇよ。

 それに、パッションフルーツだの、南国の花の香りだのはある癖に、フルーティフローラルっつったら中々なくて、これ見つけた時は、嬉しくてほっとして、危うく涙ぐむところ。

 なんて思い出してる場合じゃなかった。葉柱はボトルを掴むと、慌ててバスルームのドアを開ける。するとその向こうで、丁度、風呂を済ませ、バスローブを着たヒル魔が立ってる。

 ぁぁああ、間に合わなかった。
 セッケンだけに、俺の努力は水の泡。

「…遅ぇし」
「だよな。わり。次ん時使って…」

 葉柱がガッカリしながらそう言うと、ヒル魔は濡れた髪のまんまで手を伸ばし、彼の手から可愛いオレンジのボトルを受け取る。ちょぴり手のひらに出し、鼻を寄せて匂いを嗅ぎ、洗面台の蛇口から、ほんの少しの水を手に取って泡立てた。

 いい香りが小さなバスルームいっぱいに広がる。

「悪くねぇ」

 ヒル魔はそう言うと、蛇口から零れ続けてる水で、それを流してしまう。…のだが、流し方がなんだかテキトー。

「指んとこ、まだ泡ついて」

 と、つい葉柱が指摘する目の前で、ヒル魔はその手のひらを、ゆっくり自分の首筋へと。白くて華奢な首筋を、その手でなぞるようにして、それから鎖骨の窪みを指で辿って、それをさらに、バスローブの開き加減の襟の中へ進ませる。

 こいつ…ってさ。マジやべぇ。目の前の純情なオトコの子を、あんまし挑発しねぇで欲しい。バスローブ一枚で、ただでも露出度高ぇのに。鼻血出るだろーが。止まらなくなったらどーすんだ。

 フリーズしてる葉柱の目は、ふとヒル魔の指先に止まる。

 …爪。ちゃんといつも短く切ってあるけど、それがプロにさせてんじゃねーのってくらい、いつも綺麗な形。淡いピンク色の爪が五つ、完璧な姿で指先にあって、その指で、ヒル魔は濡れた髪を掻きあげる。

 髪は下してて洗い立てで、まだ拭いてねぇその毛先から、きらきら光る雫が落ち、ヒル魔の指に零れ落ちた。

「何止まってんの? オマエ。なぁ、いつもおんなじ匂いじゃ飽きるだろ。フルーティフローラルの香りの肌とか、愛撫してみたくねぇ…?」

 ヒル魔の綺麗な指は、今度は葉柱を標的にする。まだいい香りのする手が、すうっと伸びてきて、爪の表面と手の甲と手首の背とで、葉柱の首筋を、やらしい手付きでなぞって…。

「も、知んねーぞ…ッ」

 一緒に年越し番組とか見て、ゆっくり美味いもん食べて、俺の部屋で二人で新年迎えて、それからおもむろにエッチ…のつもりだったけど、知るかそんなの。相手の出方見てやり方決めんのがカメレオン流だし、いーんだよ、もう…っ。

 葉柱はヒル魔の手を捕まえて、まずはその指にキスして、それから抱き締めて抱き上げてベットへ運んだ。めちゃ軽い体が、安いベッドの上で一回バウンド。それを押さえつけて、バスローブの前を開く。

 ヒル魔の顔見てる余裕もなく、胸にむしゃぶりつけば早くもダメ出し。あんまりだと思う。ついさっき、俺の理性グチャグチャにしといて。

「そこ駄目だ。てめぇ、吸い付いて跡つけっから」
「…じゃあ、どこならいーの」
「ん、もーちょい、右な。いや、右行きすぎ、ちょい左」

 なんか、エッチのときの会話と違う気ぃするんデスけど。え、でも、あれ? ちょい右、右行きすぎって、左に戻ったら、そこって…。

「こ、ここ…?」

 恐る恐る聞いたわりに、俺、派手に吸い付いて舐めちまった。ちゅ…、って音までさせて、濃厚に。

「くふ、ぅ…っ。そ…う…」

 ビクビク、ってヒル魔の体が震えた。

 こんな弱い場所、舐めて吸ってOKだなんて、許して貰ったの初めての気ぃする。そりゃ、ヒル魔の意思無視して、無理やりいじくっちまったことは何回もあるけど、そのあとの報復ったら怖過ぎだし。

 ほんとにいーの。マジでいーの。そんなふうに思いながら、そのまんま舐めてしゃぶって吸い付いて。片方ばっかそうやって可愛がってたら、気付けばそこは可愛い淡いピンクじゃなくて、ちょっと痛そうに見える強めのピンクになっちまってる。

「なぁ…っ」
「え…ッ、やっぱダメっ? あ、赤くなっちまったし…っ」
「ダメっつってねぇだろ。なぁ、いー匂い?」
「う、うん、すげぇ、いー匂いする。なんか、果物食ってるみてぇ」

 それから逆の乳首も、丁寧に丁寧に愛撫してやって。左右同じくらいの色になるまで。もう感じすぎてるヒル魔の声にも、甘いフルーツの匂いがしてきそうなくらい。

 それで夢中になってたはずなのに、葉柱はベッドのシーツの上を、ずーっと掻き毟ってるヒル魔の手に気付いた。

 細っせぇ華奢な白い指が、最初から今までずっと、安いありきたりのシーツに食い込んでるんだ。乳首を舐め上げれば、爪がシーツに強く刺さった。小さく吸えば指は震えて、縋るみたいにシーツをなぞる。

 すんげぇ綺麗な綺麗な指が、ぜってぇ、ここ、離さないって、言ってるみたいな。それが葉柱は、気になってしょうがなかった。それをやめて欲しくて、胸を愛撫しながら手首を掴めば、激しく嫌がって葉柱の手を跳ね除ける。

「ヒル魔…ヒル魔、俺の体に腕、回して…?」
 
 言ってみたけど、ヒル魔はそれでもシーツに掴まってる。そんなこと気にするの変だって、葉柱も理性で判るはずを、今はその理性がどっかにみんな飛んじまってた。

「…怒られっかもな、後で」

 思わず独り言を言ってから、葉柱はヒル魔の両脚を広げさせる。膝裏に手を掛けて、無理に左右に開かせて、そのままそこに顔を埋めた。


                                        続










 うわーチクショウ、書きあがらなかったっ。二話同時アップだけど、まだ続いてますスミマセンっ。こんな長くなろうとは〜っ。ルイヒルで暮れ+新年話。正月なんか過ぎちゃうけど、頑張って続き書きますので、待ってて下さいねっ。

とりあえず、同時アップの「2」をどうぞっ。


08/01/06