r e d s e x
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「退けろ」

 地の底から響くような、不機嫌な声で唐突に命じられた。だが、幾ら従順な奴隷だって、いう事を聞ける時と、すぐには聞けない時がある。

 その命令が耳に届いた時、ヤってるのに夢中で、聞こえなけりゃよかったのに、と葉柱は思った。聞こえていたけど、気付かない振りをしたが、それで済まされる筈が無いと判ってる。

 ご主人様の命令は絶対で、今まで葉柱は一度だって、それに逆らったこともなけりゃ、無視したこともない。

「おい、聞こえてんだろう、退けっつってんだ、糞奴隷」

 幾ら自分は今さっき、イったからって、それはねぇだろ。細くてキレーな脚を広げて、仰向けで体を仰け反らせて、色っぽ過ぎるその体を、今だって俺に見せ付けてる癖に。

「ケータイ、鳴ってんだ。さっさと退けろ」
「…鳴ってねぇよ」

 どうせバイブなんだろ。デカいヒル魔のバックのどっかで、どれかのケータイがブルったんだろ。よく聞こえる耳に、その音を聞きつけて、それでこんな飛んでもねぇ時に、退けろとか酷ぇこと言うんだろう?

 逆らわねぇ方が身の為だ。そんなことは判ってるけど、体ん中で逆巻く性欲が、知ったことかと喚いてる。ヒル魔の顔の両脇に手を置いて、間近で彼の顔を見下ろし、葉柱はごくりと唾を飲んだ。

「退けねぇつもりかよ。いい根性じゃねーか」

 俺よかよっぽどドスのきいた声で、ヒル魔はそう言い放つ。笑ったその声が怖い。一体、何を考えてるか判らねぇから。

 ギラギラ光り出すその目も、軽く顎を引いて笑う口も、ビビるにゃ充分過ぎるほど迫力があるのに、それが今は、いっそ誘惑してるように見えて、尚更、理性がキレてく。

 このまんましてること続行したら、殺されんのかな…? いつもどっから出すのか判んねぇゴツイ銃で、頭に穴、開けられて。

 顔を下して、葉柱はヒル魔の唇を塞いだ。逸らされるかと思ったのに、そのまんまヒル魔は葉柱の唇を受け止める。ブスリ、と、唇に何かが刺さった。

 ほらな、罠だった。思いっきり噛み付かれた。血の味が口ん中に広がる。痛みと同時に、どくどく唇が脈打って、結構、大量な血が流れていくのが判った。

 じゃあ、舌は? 舌、入れたら、食い千切られんの? 

 自分の血の味でくらくらしながら、葉柱はヒル魔の首を片手で押さえた。別に絞めあげも、押さえつけもしないで舌を突っ込む。流れ続ける血で、ヒル魔の口ん中もぬるぬるしてて、その滑る感触が酷くエロチックだと思った。

 薄目を開けて見たヒル魔は、見間違いかもしれねぇけど、ちょっと目を見開いて、驚いてるみてぇに見えた。すげーな、こいつのこんな顔、そうそう見らんねぇぞ。

 痛みは、快楽と似た場所にある感情なのかもしれない。その証拠に、背中に酷く爪を立てられて、その爪が皮膚を裂いていっても、猛り狂ったオスは静まらない。

「ヒル魔」

 血で真っ赤になった口で、葉柱はヒル魔の名前を呟く。背中に回された両腕を掴んで、シーツの上に押さえつけたら、その両手の指が真っ赤に染まってた。

 ああ、結構、きれーな色してんだな、俺の血だろ、それ。

「今、止まんねぇから、俺」

 言い訳一つ言って、葉柱はヒル魔の体を、ベッドの上でひっくり返した。片腕を掴んで強引に引っ張り、その細い体を、自分の体の下に乱暴に組み敷く。

 彼の背中から零れた血、唇から零れる血が、白い背中に点々と赤く雫を落とす。顔を寄せて舌を這わせると、ヒル魔は喉の奥で短く喘いだ。

「は…ぁ、う…」

 奴隷だってな、てめぇの感じてる時の声くらい、ちゃんと聞き分けられんだよ。イイ顔隠すのはうまい癖に、声とか息とかだけエロくて、それに肌が震えるのとかは、全然隠せねぇんだよな、ヒル魔。

「ぶ…っ、殺…す…ッ」

 逃げたがるように両膝がもがく。その膝を、葉柱は自分の膝で割って広げて、そのままそこに、それを押し付けた。びくりと跳ねるヒル魔の腰の震えを感じて、そこはもっと熱くなる。

「いいぜ、殺せよ」

 その、殺すとか殺されるとかいう言葉が、葉柱の耳には酷く甘美に響いた。どうかしてるのかもしれないが、それも悪くねぇかも、なんて、ふと思う。

 そう思いながら、元々濡れてるその隙間に、それを滑り込ませて突き入れると、彼の体の下で、ヒル魔の華奢な背中が反り返った。

「ぅう、あぁあ…ッ!」
「…ヒル…魔」

 血で汚れたヒル魔の白い肌が、人間じゃない別のモノのように、綺麗で妖しかった。その両腕をシーツに押さえつけたままで、葉柱は彼の背中の上に、胸を沿わせ、肌を舌先で愛撫する。

 舌先が滑るたびに、葉柱の口に、新しい血の味。唇から滲むそれと、ヒル魔の背中を飾る血と。

「てめ…ぇ…! はな…っ。くっ…ぁう…ッ」」

 体を刺し貫かれたままで、背中を、首筋を舐め上げられて、ヒル魔はそのたびに、ガクリと仰け反り、震え上がってもがいた。嫌がるのを押さえ付けられて抱かれる屈辱が、彼のプライドを蝕んでいる。

 もがいても逃げられない、その力の差への激しい苛立ち。腕力の違いなど元から判っているが、それを自分が知っているのと、こうして組み敷かれながら、葉柱に気付かれるのとは違う。

「なぁ、ヒル魔、暴れんな…。あんま、乱暴したくねぇし」
「……」

 宥めるように言われて、ヒル魔の眼差しが、その一瞬に刃物のように鋭く尖った。それに気付いて、葉柱が怯む。怯んだその目を凝視しながら、ヒル魔は薄く笑うのだ。有り余る余裕を見せ付けるように。


                                          続








 前に拍手のお礼として置いてあったものでーす。タイトルは付いてなかったのを、改めて考えて付けたのですが、えーと、何にしよう、これにしよう! …即決。考えた時間、二秒ってとこでしたね。

 そんでこの凄いストレートな名前。笑。でも気に入ってんのさ♪

 続きもどうぞ。文字通り、真っ赤、ですよー。貧血気味の人はご注意、ですかね。笑。


06/12/9→07/04/09再UP