p e r i o d … 4
上等の スプリングが、深く沈んで微かに軋む。口を塞がれて、葉柱の舌が、ヒル魔の喉近くにまで届いていた。息が付けない。声も出せない。両腕も足も押さえ込まれてて、ほんの僅かに、身を捩ることしかできなかった。
「ぅ…ッ…」
驚いたのと息が出来ないのとで、眩暈がする。見開いた目に見えるのは、多分、目を開けたままで彼の唇を奪っている葉柱の顔。生乾きの黒い髪が、ぱらばらと乱れてヒル魔の顔に触れていた。
されているのは確かにキスなのに、あんまり乱暴で突然で、その上凄い気迫で、このまま首絞められて殺されるような…そんな気がする。痛くて苦しくて辛くて、そして、どこか切なかった。
「…ん、はぁ…ッ、な…何、しやが…っ」
「カッ、キレたんだよ…っ、そうさせたのはオマエだろ…!? 最後? 嬉しいだろうって?! 嬉しかねぇよ。そのくらい、てめぇ判ってんだろうがっ?!」
そうだ、ヒル魔ほど頭がいいヤツはいねぇ。俺のキモチなんか知ってんだろ。さっきだって、そう言った癖に。
フリが下手だ。バレバレだって。
それなのに…。今日に限ってこんなに喜ばせといて、いきなりコレかよ。あんまり酷ぇ。酷すぎる。いっそ殺したいくらい腹立たしい。
葉柱は心に渦巻く感情を、ヒル魔に全部ぶちまけたかった。だけど言えないできた想いが、あんまり多すぎて激しくて、言葉になんかできなかった。
軋むベッドの上で、ヒル魔の体中の骨が軋むほど、乱暴に押さえて喉を吸う。首筋を吸う。赤い跡がついて、こうしようとするたびにいつも、酷い剣幕で怒鳴りつけてきたヒル魔の声が耳に浮かんだが、聞こえたのは喘ぎだった。
「ぁあ、や…、よせ…ッ。ハバシ…っ、ふ、ぅ」
「聞かねぇ。もうオマエの奴隷じゃねぇんだ」
首を横に振ってもがくから、細い顎掴んで横を向かせ、耳朶を舌でなぞってやる。ここが弱いのはよく知っている。しつこく責めれば、こいつの体が、すぐに震えてくることも判ってる。
俺だって、ダテに何回もヤってねぇよ。オマエの弱いとこ、実は沢山知ってるんだぜ。嫌がるからしてねぇ責め方だって、ちゃんと全部、覚えてる。脇腹とか、舐めると弱ぇんだ、ヒル魔って。
葉柱は予告するようにして、指先でヒル魔の脇腹をなぞった。上から下へと辿り、細い腰のあたりに爪を立ててやると、ヒル魔の白いカラダが仰け反る。そのあと、葉柱の舌で舐められれば、彼は喉の奥で悲鳴を上げていた。
「ふ、く…ぁ、んんッ」
そこにも、キスの跡をつけてやり、いい加減、邪魔になってきた布団を、葉柱は片腕で跳ね除けた。ついたまんまのスタンドの灯りは弱いが、ヒル魔の体は真っ白だから、そこに付いた赤い跡は目立っている。
ゆっくりと数えながら眺めれば、もうそんなにつけたっけと、自分でも驚くほどの数のしるし。ずっと消えなきゃいいのに。そう思いながら、葉柱はヒル魔の両方の膝裏に手を入れて、そのまま左右に広げてしまった。
「…て、めぇ…ッ、離せ。ひ、ぁ…ぁあ…っ」
ギリギリ、付け根に近い場所。そこに唇を付け、舐め回してから吸って、赤く濃い跡をつけた途端、熱い飛沫が弾けるのが判った。まだ直接いじってもいないのに、ヒル魔がイったのだ。
こうして無理に抱くことを、ヒル魔が喜んでるはずはないけど、少なくともカラダは悦んでる。
間近にあるそれを見れば、先端からは快楽の証がまだ滲み出てて、見ている前で一滴零れた。舌先で大事そうに舐めれば、ヒル魔は舐められた瞬間、身を仰け反らせてもがき出す。
「さ、さわん…なっ、糞…ッ!」
「…嫌だったら、逃げればいいだろ…? 逃がさねぇけど」
手がデカいと、こういう時も便利だ。ボール片手で楽に掴めるくらいしか、イイと思ったことなかったけどな。
こんな時だというのに、葉柱はそんなことを思っていた。思いながら、ヒル魔の両方の膝裏に手を掛け、仰向けだったその裸の体を、くるりと簡単にうつ伏せにさせる。
手足をバタつかせてもがいてるヒル魔の、足の付け根に、ヒル魔自身が零した精液を、手のひらでたっぷり塗り広げ、葉柱はそのまま、自分の先端を押し付けた。
「ぁ…あ、や…めッ、ハバシ…。く、うぅっ!」
挿入は、力で強引に。だけど白い液体に潤されたヒル魔のそこは、さほどの抵抗もなく葉柱を受け入れていた。奥に当たるほど深く突っ込んで、反応を確かめながらゆっくりと抜き取っていく。
突き刺した時よりも、じわじわと抜き取られるのが辛いらしく、ヒル魔は必死で腰を前に逃がし、なんとか自由になろうとする。
だが、葉柱はそれを許さずに、伸ばした片腕でヒル魔の前を握ったのだ。握られて、ゆっくり上下にしごかれれば、脳裏に火花の散るような快楽。先端部分を指先で撫で回されて、ヒル魔は一瞬でイってしまう。
声も上げられずに絶頂を超え、ヒル魔は霞んだ視野に、まだしつこく先端を弄っている、葉柱の指先を見た。四肢を付いて這った恰好で、自分は今、奴隷の葉柱に貫かれ、アレを散々弄られている。酷い屈辱が、ただただ胸を焼いていた。
ぶっ殺してやる。
ぜってぇ、ぜってぇ。
マシンガンで蜂の巣。
二度とこんなこと、できねぇように。
「…ひ…ッ、い…てぇっ…」
それの先端の、敏感で弱い皮膚に、葉柱の爪がかすめる。快感と同時に刺す様な痛みを感じて、ヒル魔は思わず「痛い」と、口走った。その途端、それを握り潰すようだった指の力が抜けて、やんわりと緩く指でなぞられる。
悪ぃ、とか、そんなことは葉柱も言わなかった。でも、貫き突き上げる腰の動きも、さっきまでより随分優しくなっていく。背中を辿る口づけは、まるで壊れモンでも扱うかのよう。
「ハバ…シラ…」
何なんだ? こんなのは強姦って言わねぇよ。そーゆー勢いだったクセして、拍子抜けだろ。結局、なに。最後って言われても、その程度。どーでもいーってのか? このままここで終わっても。結局、どーなんだ。どー思ってんの?
ツジツマの合わない疑問符が、次から次へとヒル魔の脳裏に踊る。怒って欲しかったわけじゃない。キレるのが見たかったわけじゃない。望みはウザい奴隷と縁を切る事で、その計画はズレてない。
そんなふうに、混乱しかかるヒル魔の耳に、言い憎そうに呟く葉柱の声が聞こえた。
「あのさ、判ってんだろーけど。いちお、言わしてもらっとく」
深く貫いて体を重ねたまま、葉柱は唐突にそう言ったのだ。続く言葉に想像がついて、黙れ、と喚くつもりだった。なのに前を握られ、一番感じるやり方で、それを細かく揺すられ、仰け反ったヒル魔の耳に、葉柱が唇をつけてきた。
そして、たった一言のその言葉は、とうとう葉柱の唇から、ヒル魔の耳の中へと転がって落ちた。
「俺、お前のこと…好きだから」
「ひ、ぁあ…ッ」
耳に、その言葉がかすめた瞬間、ヒル魔は何度目かに放っていた。どこをどう弄られるよりも、強烈な感覚が彼の体を襲い、射精を堪えることなんか出来なかった。
両腕でベッドの上の方へと僅かに這いずって、ヒル魔はデカい枕に顔を埋める。カバーの布地を歯で噛んで、零れそうな嗚咽を無理に飲み込んだ。だけど両目から零れるものは、どうしても止められなくて、ヒル魔は枕に顔を押し付け続けた。
快楽の中で喘ぎ、ゆらゆらとキリもなく揺さぶられて喘ぎながら、ヒル魔は痛みを感じている。
やっぱ、終りだ。計画は変わらねぇ。
こんな奴隷、いらねぇよ…。
続
2008年のUP第二弾ですね。また連載の方です。これも随分と間が開きましたからね! 待っててくれた優しい方、もしもいらっしゃいましたらまことにまことにまことにっ、ありがとうございます。
何度も言いますが、ヒル魔さんは意地っ張りの鑑?ですよね。何、あんた、終りだって言って、キレる葉柱さんが見たかったの? じゃあよかったね、キレてもらえて。えっ、でも告られるのは嫌? それ、わがまま!
そんなわけで第四話をお届けしますね。次のアイシノベルは、この続きではなくて、投票の「指」をキーワードに書きますよ〜。
2008/1/3
