p e r i o d … 3
「…ぁ、ぁあ…っ、ん…ぅ」
ヒル魔は自分の口から零れた喘ぎに、自分で驚いて顔をシーツに埋めていた。その、ほんの数分前、彼は葉柱に言ったのだ。
… 今日は したいように していいぜ …
こいつは役に立つ奴隷だったし、どうせ今日でこんな関係も終りにするんだから、最後くらい、イイようにさせてやる。そう思って言った言葉だった。でもヒル魔は後悔していた。もう、そうなってしまったことに、ぐだぐた後悔したりするのは嫌いなのに。
だってそんな
まさかこんな…。こんなにも…。
「ん、ん…っ、は…ぁぅ…」
「…ヒ、ヒル魔」
背中に葉柱の唇が触れている。両肩を柔らかく抑えられ、シーツに体を埋めた恰好で、ヒル魔はそんな葉柱の淡い愛撫に、どうしようもなく震えてしまっていた。
なんで…? こいつこんな、巧かったのか…?
体の震えが止まらない。投げ出されてた両脚が、怯えてでもいるように、勝手に閉じ合わされて、その付け根がもう…熱く痺れてきてる。感じて、感じ過ぎて、声を抑えることも難しかった。
背中には葉柱の唇と舌が触れている。そして、胸の方へ回された彼の片手は、宥めるように肌をゆっくり撫でてくれてて、その指が、きっとわざとだろうが、ほんの時々乳首に触れるのだ。そのたびに細い声が弾け出てしまう。
「んく…っ、ぁ、ぁあぁッ」
びくりと腰を跳ね上げて、ほんの少しだけど、ヒル魔はその瞬間、精液の雫を零してしまってた。普通にイくのとは少し違う、あまりにじれったい小さな絶頂に、泣きたいような気分になる。
あぁ はやく
もっと もっと イかせてくれ
ハンパじゃ イヤだ
じらすな ハバシラ …
勿論、そんなことを口に出して言ってやるヒル魔じゃない。シーツに指を食い込ませて震えを隠し、甘い息を止めようとしてふわふわの枕に顔を埋めていた。
そして、それほど動揺しているヒル魔の気持ちなんか、欠片も気付けずに葉柱は言う。彼もまた、いつもとは随分違うヒル魔の姿に、イッパイイッパイでそれどころじゃないのだ。
「え…と…。あ、あのさ…ヒル魔、もしかして今日、凄ぇイイこととかあったんじゃね? それでサービスしてくれてんの? なんかお前、すげぇ、今日…」
「…る、せぇんだ、よ…ッ、糞奴隷っ! 余計な…っ。…う、ぁ…ぁう…っ」
葉柱の右腕が、ヒル魔の腰を後ろから抱いて、そのまま逆側の腰骨をなぞる。ぞくり、と震えて、ヒル魔は逃げるように体を横にし、白い背中を丸めた。彼の細い体の中で、今まで感じたことのない種類の快楽が、抑え切れない大きさになっていく。
「ヒル魔…、もしかして、そんな気持ちイイの…?」
こんなにあからさまでは当然だが、葉柱もいつもと違うヒル魔の様子に気付いている。好きにしていいと言われて、こんなに素直に反応されて、嬉しくて、かえって葉柱は戸惑っていた。
それでも、触れたくて、愛撫したくて、気持ちよくなって欲しくて、彼は長い腕でヒル魔を包む。細い片腕を掴んで、丸めてるヒル魔の体を少しは伸ばさせ、もう一方の手で太ももの内側をするりと…。
「ここ、とか…イイ?」
「ぁあ、てめぇ…っ触んな…ッ!!」
「…あ、うん」
好きにしていいんじゃなかったの…?
なんて、そんなこと、言葉に出しては言わない。いつも身勝手で、約束なんてあってないようなもんで。コロコロ気の変わる主人だってことを、葉柱はよく判ってる。だから嫌がられて手を引っ込めて、そのままベッドから下りようとした。
そこへヒル魔の、微かな声が聞こえてくる。妙に抑えたような、淡々とした声だった。
「…やめろ…っつってねぇだろ」
「え、でも触んな…って」
聞き返した言葉に、ヒル魔はすぐに返事をしなかった。彼はうつ伏せの恰好で、顔を向こうに向け、浅い息をゆっくりと整える。それからベッドに仰向けになって、白い片手を葉柱の方へと差し伸べた。
半端に乱れた金の髪が、額に少し掛かって揺れている。
「触っていい。やめんな。ほら…来いよ。お前とは、今日で『最後』にするんだからな」
「…え」
空耳。
空耳だろう。なんか、すげぇ嫌な言葉が聞こえた気がした。ヒル魔は色っぽくて綺麗なカラダさらして、うっすらと静かに笑って。だってそんなの、そんな顔していう言葉じゃない。
だから。聞き違いだよな。『最後』だなんて。
「何。なんて言ったんだ今」
「最後っつたんだ。耳、いかれてんのか? 糞奴隷」
「…なん…で…?」
「いらねーから」
聞き返されて、凍りついたような顔をされても、ヒル魔は平気そうにしている。浮かべていた笑いは、さっきよりも深いくらいだ。
「んだよ。どーした? もうてめぇは俺の奴隷じゃねぇっつったんだぜ。喜ぶとかしねぇの? 今日から自由の身だ、うれしーだろ?」
「嬉しかねーよ。なんで…?」
「……てめぇが、ウザいからだろ」
まるでカードを裏返したように、ヒル魔の顔の笑いが消えてた。嫌悪むき出しの目をして、それでも笑ったままで、残酷な事をあっさりと言う。
「バイクで送り迎えはベンリだったけどな。こう寒くなっちまったら、あんま使えねぇし。だいたい、オマエ、邪魔くせぇんだよ」
いつも俺の頭の中にいやがって。いつまでもしつこく出ていきゃしねぇ。俺の頭を離れねぇのは、アメフトに関係あることだけでいいんだ。てめぇはいらねー。邪魔くせぇ。
その爬虫類みてぇなユーモラスな顔も、人間じゃねぇような腕の長さも、意外と耳に心地いい声も、もういい加減、飽きちまった。
「じゃあ、俺、もうオマエの奴隷じゃねぇってことな…?」
「…あぁ、やっと実感わいてきたってか? 手下共にも知らせてやれよ。泣いて喜ぶんじゃねぇの?」
ここんとこずっと、葉柱一人しか呼び出してなかったけどな。
「そうか…奴隷じゃねぇなら、遠慮しねぇ…」
そう言った葉柱の声は低くて小さくて、ヒル魔はそれを聞き取るのが遅れた。半分ベッドに起こしかけてた体が、物凄い勢いで押さえつけられていた。
続
えっ! 遠慮しねぇって。どーすんの? なんちゃって、この続きもちょこっと書いているから、次の展開はわかってる。ってーか、読んで下さってる方にも、きっと何となく判るでしょう。
あーあ、ハバシラさんキレちゃうよ。そりゃそーだよね。よく今まで頑張ったよ。好きな相手と恋人のフリも辛いよね。本当に労いの言葉をかけてあげたいくらいだよ。だけどハバシラさんがキレるのより、ヒル魔さんがキレる方が怖い気がするんだけど、どー思う?
えーと。ここまで読んできてくださってる皆様、ありがとうございます。今後も頑張りますんでヨロシクですー。
07/12/04
