カラダ と ココロ  … 3






「おま…え…っ、ひ、でぇ…!」

 ヒル魔の首筋に顔を埋めた恰好で、葉柱は痛みとショックにうめいた。男の一番感じるとこだけど、同時に一番弱い場所で、そんな力いっぱい握り込まれたら半端なく痛ぇに決ってる。

「はな、せよ…っ、あ…ぅ」

 仕返しのつもりはないけれど、葉柱は無意識にヒル魔の首に歯を立てた。柔らかい肌を噛んで、華奢な体を抱き締めると、どうした訳でかヒル魔はすぐに手を離してくれる。

「なんてことしやがるんだ、殺す気か?!」
「このくらいで死ぬようなてめぇかよ。欲しくてたまんねぇ癖に、イイ人ぶって妙なこと言いやがるからだ」

 くくく、と笑ってヒル魔は首を仰け反らせ、四肢を投げ出している。こんな細いカラダして、黙ってりゃ女みたいに綺麗な顔なのに、中身は悪魔。だけど葉柱は、この悪魔に本気で惚れてる。

「つ、使えなくなったらどうすんだよ」
「ヤりてぇならさっさとしろっつってんだ、ごちゃごちゃ言うな。うざってぇ」

 うざってぇ、って、そうかもしれないけど。前にも確か、そんなことで怒られたけどさ。でも、だって。俺はヤりたいだけじゃなくて、要するに、つまり、だから、お前を…お前を。

 事あるごとにそれを自覚して、葉柱は自分でも無意識に、饒舌な眼差しでヒル魔を見る。欲しくて欲しくてたまんねぇ、抱き寄せてぇ抱き締めてぇキスしてぇヤりてぇ。

 でも、それってのはただのヤりたい気持ちじゃなく、スキだからなんだって、もう葉柱は充分に判っていた。だからこそ、ヒル魔が今、そういう気分じゃないなら無理強いは嫌だ。嫌々俺に抱かれてるなんて、そんなのちっともヨくねぇよ。

「だって…俺、さぁ…」

 葉柱は干草の上に直に転がって、隣にいるヒル魔を見つめながら言おうとした。なんだか背中がゾクリとしたが、そんなのお構いなしだ。

「判ってっかもしんねぇけど、俺、随分前から、お前のこと…。ん…ぅん…!」

 いきなり、言葉の続きが言えなくなる。呼吸するのも封じられる。

 口を唐突に塞がれて、すべすべと触り心地のイイ体が、葉柱の体に跨ってくる。脚を広げ、仰向けに突き転がした葉柱の上に、それこそ馬乗りになって、ヒル魔は葉柱の唇を吸っていた。

「んん、な、何…ヒル、魔…ッ」
「るせぇ、黙れ。大サービスで、今日は俺が全部してやっから、てめぇは死んだ魚みてぇに転がってりゃいい」

 それだけの言葉を言うにも、ヒル魔は葉柱の口を吸ったり、舌を入れたり、ヤケに積極的で忙しい。淡い金色の綺麗な髪が、ちらちらと葉柱の目の前で揺れる。ヒル魔は目を閉じていて、キスをするのに一生懸命。

 上手、とは言えると思う。舌を吸われてクラクラしてくるし、キスしながら首筋や喉や胸に滑る指先が、なんか酷く手馴れている。

 ヒル魔から、こんなふうにしてくれるのは嬉しいけど、嬉しいよりもビックリで、ビックリよりもなんか哀しい。こんなに慣れてしまうほど、一体誰とどれだけ、どんなことをしたのかと…。

 そう言や、前に強姦されてるとこを見てショックだったけど、ああいうのも慣れてるようなこと言ってた。それじゃあ合意の上でのHなんて、尚更慣れてるんじゃねぇの?

 だからオマエ、今まで誰とどんなことしたんだ? 何回したんだ? そいつとは今はどうなんだ。そんなことを頭の隅で考えただけで、嫉妬で目の前が赤く染まりそうに思う。

「何、別のこと考えてんだ、てめぇ」

 ドスの聞いた声で言われて、お前の事だよと反射的に返しそうになった。そんな言葉を出さずに済んだのは、ただ、言われたと同時にされたことが、ちょっとショックだったから。

「え! ちょ…っ、ひ、ヒル魔…っっ」
「動くんじゃねぇ! 噛み付かれてぇか?」

 ベルト外して、ジッパー下げて、ボタンを指で弾くように外し、下着とズボンを押し下げて、そこから取り出したモノを、口に含む。それらの動作はあまりに手早くて、もがいて逃げる暇なんてない。。

 熱くて柔らかい口に含まれて、そのまま舐め回されて、吸われて、ほんの数秒でイきそうになる。さっきの痛いのとは別の意味で、目の前がチカチカしていた。

「あ、ぁ…。口、離せっ、も、イっちま…」

 男の体なんてもんは、快楽には逆らえねぇように作られてる。舌先で刺激されて、小刻みに吸われて、情け無いくらい一気に上りつめ、今にも放ってしまいそうだった。

 でも、ヒル魔の口を汚すのは、どうしても嫌で、いくらか乱暴してでもやめさせる。伸ばした手でヒル魔の髪を掴み、強引に引き剥がすと、尖った歯が当たって、凄い痛み。

「い、てぇ…」

 とかなんとか言いながら、葉柱はヒル魔の胸に精液を派手に飛ばしてしまっていた。だけど殆ど萎えてなくて、それを見下ろすヒル魔が、赤い舌でぺろりと唇を舐める。

「動くんじゃねぇぞ、入れるぜ」
「…え…!?」

 広げた脚のまんま、葉柱の体の真ん中を跨いで、ちゃんと位置を決めて、ヒル魔は腰を落としていく。躊躇いなく、戸惑いなく、本気で慣れた様子で葉柱のそれを自分の中におさめていくのだ。

「ぅう、く…、ぁあ」
「…動くな、っつってんだろうが…、うぁ…あッ」
「ヒル、魔…」

 すげぇ、変になりそうなくらいそこが気持ちいいけど、それよりも脚を広げた恰好で、自分に跨って揺れているヒル魔の姿が、あんま凄くてエロくて、動くななんて絶対無理だ。

 葉柱は、無意識にヒル魔の腰を下から捕まえ、逃げられないように捕まえて、自分の体を揺らしていた。ゆっくり丁寧に突き上げると、両手を添えてるヒル魔の腰が、快楽にガクガクするのが判る。

 自分から乗ってきた癖に、ヒル魔も実は感じすぎて変になりそうで、後ろも前もひくひくしっぱなし。元気良く立ち上がったそれの先端から、糸を引くように綺麗な白い液が零れて、その量が段々多くなる。

「ヒル魔、ヒル魔…。俺…ッ」
「るせぇ…っ、喋んな…。ひ、ぅ…っ、く、食いちぎるぞ、てめぇ…ッ!」

 物騒なことを叫びながら、本気で食いちぎられそうなくらい、ぎゅうぎゅう締め付けてくる、ヒル魔の体。締め付けられながらも、中で暴れてる、葉柱の本能。

「好き」より「ヤりてぇ」が勝るなんて、ケダモノみたいで嫌なのに、でも快楽に流されて、あっという間に理性が消えてく。

 干草に手足が擦れて痛い。うつ伏せに組み敷いて、二回目に貫いた後なんか、ヒル魔の肌はあちこち擦り傷作って、滲んだ血の色も見えたのに、それでも止まらなくて、何回放ったかも覚えてなかった。

 ケダモノ。

 マジでそんな感じ。満足してるのはカラダばっかりで、ココロはなんだか寒くて淋しい。こんなことがしたいわけじゃなかったって、葉柱は目を覚ました後に思ったのだ。

 壊れた天井の隙間から、瞬いている星を見上げながら…。



                                    続










 ケダモノ、だけどねぇ。そりゃ若いから仕方ないって。そんな綺麗なカラダして、ヒル魔さんの方から乗っかってきちゃったりしたら、理性くらい飛ぶよ。しょうがないよ。

 そうやってメチャメチャ抱いちゃったからって「好き」の気持ちが濁ったわけでも、最初からなかったわけでもないんだから、元気を出してほしいです〜っっっ。

 あれ、執筆後コメントなのに、何故か葉柱さんあてのメッセージ。笑。暫くぶりなんで、なんか調子出ませんでしたが、やっと続きを書けました。読んでくださっている皆様、ありがとうございます〜。ペコリ。


07/09/16