カラダ と ココロ  … 2






 畑と畑を分ける小道の所々に、今時びっくりな木の電信柱。その真ん中にオレンジ色の灯り。その灯りにうっすら照らされた畑と田んぼ。

 畑に前輪落ちてしまったゼファーを、必死で救い出した後、葉柱はもう一度、ヒル魔の言ってた場所を見た。二度目に見ても、やっぱり顎が落ちてしまう。

 だって、小屋だぜ、小屋。
 それも掘っ立て小屋って感じ。
 ボロボロの扉は取れて倒れちまってるし、
 窓にガラスも入ってねぇし。

 それでも主人の命令は絶対だ。葉柱のカラダはもう、ヒル魔が欲しくて欲しくて欲しくてたまらない。今度は落ちないように、一生懸命バイクを押して、それも急いで歩いていたら、車輪じゃなくて片足が畑にはまってしまう。

「ヒ、ヒル魔…?」

 泥だらけの靴を気にしながら、掘っ立て小屋の後ろにバイクを置いて、葉柱は恐る恐る、開きっぱなしの入り口をくぐった。

 ここ、なに? どう見ても家じゃねぇ。
 足元は土と砂利。
 積み上がってる乾いた…草?

「ここって、何だよ?」

 小屋の中で、ヒル魔は小さな窓から外を見ていた。びっくりすることに、この建物は屋根すら半分壊れてて、バラバラになりかかった天井の隙間から、細く光が零れてきている。

「なんだろーな? 干草があるし、家畜の餌置き場とかじゃねーの? 外に馬がいるしな」
「馬…っ?! ど、どこ?」

 今度は葉柱が窓に近付き、そこから外へと首を出して、キョロキョロと辺りを見回す。確かに馬はいた。なんか、農耕馬といったような、茶色い毛並みの鈍重そうな感じの。

 ヒル魔と、それから次には葉柱に眺められて、馬はなんだか困ったように、項垂れた首を左右に振ったりしていた。薄暗い灯りの下で、たてがみが薄く透けて光って、サラブレッドとかじゃないのに、ちょっと綺麗だ、と葉柱は思った。

 元々動物は嫌いじゃない。乗馬も子供の頃、ちょっとやってみたことのある、実は金持ち坊ちゃんの彼なのだ。

「俺さ、馬って結構好きなんだ。可愛いし、なんかキレ…」

 綺麗だよな、と言い掛けた言葉は、振り向いた途端に見事に断ち切られてしまった。馬が綺麗に見えたのは嘘じゃないが、もっとその言葉に相応しいモノが、目の前にあったからだ。

「ヒ…ル…」
「馬がどうしたって…?」

 光を浴びて、ヒル魔はそこに立っていた。敷き詰められた干草の上に、裸足の足で真っ直ぐ立って、壊れている天井の穴の真下に。

 彼の浴びている光は天井の穴から差し込む、薄金色の月の灯り。

「ヤんねぇの?」

 ニヤリと笑う口元は、嫌になるほどいつも通りなのに、彼の姿はいつも通りじゃあり得ない。裸足で干草の上に立ってる、とか、月明かりを浴びてる、とか、そんなことよりも、その…。

 ヒル魔はもう、すっかり裸、だったのだ。

「あ…ヒル魔…ッ」
「…くく…っ」

 抱きすくめられて、ヒル魔は喉の奥で微かに笑う。夜露のせいか、しっとりと濡れた草が、二人の足の下で無数に折れていく。キスをして、喉を吸って、鎖骨を噛んで、舐めて。もっと下まで…。

「こ、このままじゃ、ダメだ」

 愛撫したまま、草の上に倒れこみそうになって、その寸前に葉柱は、しっかりとヒル魔の裸体を抱えて支えた。

 優しい仕草でちゃんとヒル魔を立たせて、彼は自分の着ている長ランを脱ぎ、さらにTシャツも脱いで、それを草の上に丁寧に広げて敷く。

 手のひらで服の上を撫でてみるが、それでもチクチクと、尖った草が手のひらに刺さるような気がして、葉柱は不満げにブツブツと呟いた。

「ヒル魔、肌柔らけぇから、こんなんじゃ怪我とか…」
「るせぇな、女とかじゃねぇんだよッ」
「だ…って。ん…!」

 途端に噛み付くようなキス。ような、じゃなくてヒル魔は本気で噛み付いてきた。尖った歯が唇に刺さってきて、ちゃんとそのつもりで応じてやらないと、それこそ大怪我させられそう。
 
 気付けばいつの間にか、唇と唾液を絡めるような、濃厚過ぎるディープキス。勿論、舌も絡まってた。あんなに心配していたのに、二人の体は既に、干草の上の、葉柱の服の上。

「い、痛くねぇ? 背中、チクチクしねぇ?」
「ちょっとな。けど別にそんなのは、どーでもイイ。俺の気が変わらねぇうちに、してぇことしろよ、ハバシラ」

 してぇこと。
 マジで?
 こんなとこで?
 俺のしてぇの、ただのじゃれ合いとかじゃなく
 本気のセックスなんだけど、
 それでもイイの、ご主人サマ。

 だけどそんなことを本当に質問していたら、それこそヒル魔の気が変わる。葉柱は無言でヒル魔の肌に唇を這わせ、そのまんま胸の薄赤色を口で吸った。

 柔らかい肌。白くってすべすべのカラダ。
 華奢な腕に脚に腰。
 可愛い形の、お前のそこ。
 してぇこと、本気でやっちまっていいんなら、
 しちまうぜ?
 ヒル魔。お前、嫌じゃねぇの?

 疑問符つけて、心の奥で、何回も何回も聞きながら、葉柱はヒル魔の体を撫でる。指で撫で、手のひらでなぞり、唇を落として甘く噛む。

「ふ、う…っ、んんッ、くう…」

 変にくぐもった響きに顔を上げれば、ヒル魔は自分の左手の手首を噛んで、眉根を寄せて声を堪え、息遣いだけで喘いでいた。微妙に捩られて震える下肢。葉柱のカラダの下で、ヒル魔の両脚は小さくもがいている。

 嫌がってるようにも、見えなくはない。

「あ、あのさ」

 欲しくて欲しくて欲しいけど、葉柱はとっくにヒル魔に本気になってるから、だからかえって、こんなこと、嫌だってんならしたくない。

「俺、お前が嫌なら別に…。え…?」

 ヒル魔の手が、葉柱の股間に触れる。次の瞬間、その手がそのジッパーを勢いよく下げ、中に入り込んできて…。

「い…ッッ!」
「ここ、こんなにしてるくせに、何言ってやがんだ、てめぇ」

 ギリギリと絞め上げられ、葉柱の脳内は一瞬スパークした。悪魔とエッチするってのは、思っていたより大変らしい。葉柱は唇を噛んで痛みに堪えながら、ヒル魔の肩に顔を埋めるのだった。


                                    続









 この人達ったら、二度目のエッチは半屋外なんですね。寒くはないと思うけど、見られてても平気か? 見てるのは馬だけどさ。笑。

 戸惑いながらも、自分の中でぐらぐら沸いてる性欲と、ヒル魔さんの絶妙な態度に押し流されてエッチっち♪ 後悔することになるのか、嬉しい結果に終わるのか、よかったら想像してみて下さいませ。

 読んでくださった方、どうもありがとう! 続きも頑張りま〜す。


07/08/15