R ・ H 4
寝乱れた金髪を邪魔くさそうにして、ヒル魔がベッドの上で寝返りを打った。
いつもホテルで先に目を覚ますのは俺。なんでか毎回くたくたになって、寝坊しかかるのは葉柱だった。何に気ぃ遣ってんだか知らねぇけど、俺を乗っけてバイク転がしてる時だって、体重ねてベッドインしてる時だって、お前はいつもビクビクしてんだ。
お前さ、そんなおっかねぇ? 俺のこと…。
そりゃあ悪魔だとかなんとか、みんな色んな呼び方すっけど、ヒトゴロシなんてしたことないぜ? 銃ぶっ放したってなんだって、エアガンのこんなちっこいタマくらいしか、本気で当てたことねぇだろう?
なのに、そんなおっかねぇの? 傍に居るといつもガチガチで、怒鳴られねぇように、機嫌損ねねぇように、ビクビクどきどきしてるお前がさ、なんでそんな臆病なのかって、気付いたのなんかすぐだった?
あーぁあ、惚れちまった、ってか?
面倒くせぇ。ただビビらしてた方が使い易いってのに。
…なんて目ぇして、俺を見てんだよ。
こっちまで落ち着かねぇだろ、どうしてくれる。
そうこうしてる間に、賊学ヘッドのハバシラさんは、
冷静だった筈の俺のことを、容赦なく引っ張って、
気付いたらいっつも、てめぇのことばっか。
責任取れよな、てめぇの持ってる全部をかけて。
今日もまたお前はくーくー寝こけてるんだろう、って、そう思いながら身を起こす。ベッドから片足下ろした途端に、真っ直ぐな視線にぶつかって、柄でもなく凍り付いた。
「へぇ、めっずらし、てめぇが先に起きてんのなんか…」
「……ヒル魔…」
「…なんだよ」
葉柱はベッドの横に突っ立って、まだそこに腰を下ろしてる俺の事を、困ったようなツラして見下ろしてた。
「ゆ、昨夜、さ」
「あぁ?」
「幻聴、聞いちまって…さ。そんで…」
「…てめぇの幻聴だったら、俺には聞こえてねぇってことになるけどな。で、何」
「あ…そ、そーなんだけど、お前、昨夜…あの…」
は、すっげぇ目。目立つデカい目ん玉が血走って、ちょっとどころじゃなく怖いツラだ。昨日一睡もしてねぇの? だからそんな緊張すんなって、ビビらしてる俺が悪いみてぇだろ。
「早く言えよ。どんな幻聴だったって? てめぇと寝るの嫌だと思ったことねぇって? 俺、そう言ったんだっけ。嫌だったら逃げろっててめぇに言われて、馬鹿、逃げたことねぇだろ、って?」
幻聴じゃねぇから、その言葉は俺も知ってる。この唇で言ったことだから、分かってて当然なんだ。冗談や気まぐれで言ったことでもねぇよ。で、どうすんの? おまえ。
「それ、ほんとにお前が言っ…」
「だから…。馬鹿かよ。幻聴だったら、俺が知ってるわきゃねーし。なんならもっと色々聞きてぇ?」
奴隷は今まで星の数ほどいたけど、
葉柱ルイはそういうやつらとは最初から別もんで、
特別気に入っててそれでいっつも傍に置いてて、
それがいったいどういう意味か、とか。
それとも、もっとストレートに?
簡単に言えるんだったら、苦労はねぇな。
「葉柱、お前さ、今、ちゃんと頭回ってんのか?」
「わ、わかんね…」
何でもかんでも真っ直ぐぶちまけんのは、さすがに抵抗あるし。足りねぇ脳みそ総動員して解いてみろよ、俺の謎かけ。
「なぁ、髪が引っかかったくらいで壊れるようなピアス、プレイ中にメットの下にしてたら、あっと言う間に粉砕されてると思わねぇ? あん時、両耳分ともホテルのゴミ箱に捨てたはずなのに、あれからずっと俺が片耳ピアスなのは違和感もねぇのかよ。コレの残りの片方は失くしてもねぇし、ちゃんと持ってるんだぜ?」
葉柱の頭の中に、ヒル魔の声がぐるぐるしてた。
それじゃなんであのピアスは壊れたのか。どこが壊れてるか分からなかったのは、どこも壊れてないからなのか。捨てたヤツの代わりにつけてるピアスは、なんで最初から片っぽだけなの? もう一個もあるのに、なんで両耳つけてこねえの? なのに穴が塞がっちまうなんて、あんな怒ったのってなんで?
フリーズしたみたいに動かない葉柱を、ヒル魔は哀れむような顔で見た。金の髪を掻き上げて、さらさらと落ちる前髪に、俯いた顔を隠してしまう。
「やっぱ、お前、頭あんまし良くねぇな。もういいから、早くピアス買って来いって」
俺の代わりに、いつもこれを身につけていて。
なんてな、甘ったるい恋愛ドラマだったら、掃いて捨てるほど転がってるシチュエーション。どうせお前にゃ似合わねぇ。
俺、これをお前だと思うから。
なんてのも、どうせ俺には似合わねぇんだろ。だからもういーわ、お前の買ってきたピアスはただの弁償品ってことにして、見えねぇとこでは大事に大事してやるよ。
「あ、明日! 明日出来てくっからさ!」
「……あーそー、分かった」
出来てくるってか? も、笑えねぇよ。出来合いのもんじゃなくて、そっくりおんなじにでも作らせたのか? 議員の息子さんは金があるんだろうけど、見た目おんなじかどうかとか、高い金かかってるかどうかなんて、ほんとに無意味なのにな。
「この近くに用事あっから、お前、今日このまま帰っていーし」
「…え…っ?」
「帰っていいっつってんだ…」
ギロって睨んで、あーぁ、またビビらしちまった。俺も時々は馬鹿になっちまうんだよ。あんまし物分りの悪ぃのが相手で、正直疲れる。でもそんなお前が気に入ってっからしょうがねぇけど。
「…じゃ、明日な」
とぼとぼと部屋を出てく葉柱の、あんまりしょげた様子が気になってそう言ってやる。閉じる寸前の扉の隙間から、こっちを見てたあいつの顔は、まだ何かをぐるぐると考えているようだった。
続
ほんとに気付くの遅いよ! 葉柱さんっ。鈍過ぎですっっっ。これを読んでいる方はみんな気付いているのにっ、アホにも程がありますが、その自信のないところもアイシテルv
てゆか、ほんとーにもう、葉柱さん早く気付いてあげて! とか思って涙目の惑でしたー。ではまた次回っ。こんなアイシ辺境で、これを読んで下さっている方、ありがとうございますっ!
12/06/17