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 ホテル行ったら、ヒル魔はいっつもバスルームに直行。そりゃさ、恋人同士じゃないんだから、ドアんとこで甘くキスしながら、なんて、そんなラブいこと期待してなんかねぇけどさ。それでも完っ璧にこっちの存在を無視したまんまで、さっさとシャワーを浴びに行っちまう姿には、毎回毎回傷つくんだ。

 俺はお前に惚れてっから、ヤらしてもらえるのは嬉しいに決まってんだけど、それでもなんか「コレはお前的には、自慰と変わんねぇ行為なのかな」なんて、そう思えて堪んなくなる。

 なぁ? 俺って、お前にとって一体どんな…

 ガチャ。ドア開けてヒル魔がバスルームから出てくる。さっきまでぐるぐるしてた思いの90%が一気に消し飛んだ。ヒル魔は素っ裸で、バスローブ一枚身につけてやしねぇ。

「シャワー、浴びんの? 浴びねぇの?」

 ごく、っと息を飲んで葉柱はバスルームに駆け込む。オトコがオトコの全裸に欲情するとか、そんなのは別世界の話だったはずなのに、今じゃ葉柱もすっかりその世界の住人だ。すらっ、と伸びた細い両脚、華奢なくせして、しっかり筋肉をつけた綺麗なカラダ。金の髪に白い肌に、薄っすらと色を濃くした、隠しもしてねぇ、ソレ…とか。
 
 欲しくて欲しくて、ケダモノみたいに息の上がった彼の、心の中の渇望を、見下すようなきつい目付きにまで欲情しちまう。

 なんでお前っ、いちいちそんなに色っぽいんだよ…っ。

 着てる服を破きかねない勢いで脱ぐ。シャワーの温度調節なんか、知ったことかで慌てて浴びて、雑でもちゃんと髪まで洗っちまうのは、ヒル魔が結構キレイ好きだってこと分かってるからだ。なんて躾のいい奴隷だろうって、自分で自分を嘲笑う。

 部屋へ行くと、ヒル魔はベッドの傍の鏡に自分の顔を映してた。洗って下ろした髪を、片耳のとこだけ掻き上げて、多分耳を見てる。なんもつけてねぇピアスの穴を。

「あ、その…今、探して…っからさ」
「……何が?」

 あぁ、糞っ。ついさっき、お前から「まだか」っつってキレてた癖に!

「だから、ピアスっ」
「あー。…いつも塞がってる穴が、こうして空いたまんまだとさ、なんかスースーするっつーか、とにかく早く塞いでくれよ、って思っちまう」

 何、こいつ、なんの話してんの? ピアスのことだよな?

「分かってんのかよ、こっちは入れて貰いたくて、あれからずっと『穴』曝してんのに、オマエはなんだかもたもたってやってて、もうオマエのじゃなくても別のでいーかとかって、焦れてそんな気……」

 どさっ。

「からかってんの…?」
「何が?」
「俺のことさ、いっつも、からかってんの? だいたい、どう思ってんだよ…っ」
「…からかってたら何、キレんの、おま…」

 ベッドに仰向けにされたまま、ヒル魔の声が途中で止まる。止めさせたんだ、唇を塞いで。深く斜めに重ねて吸ってから気付いた。今までキスなんか、したことなかったんだ。初めて、だ。一体、何やった、俺。

「ん…、ふ…っ」 
「ヒル…」
「……」

 あぁ、向けられた目が、凄い。射抜かれちまう。心臓抉るみてぇに、凄っげぇ凶悪で。怒った? キレた? んで、これでお終いなの? キスなんか、していいって言われたことないのにしちまった…。もう、俺、二度とお前と…?

「髪」
「…ヒル…魔、俺」
「冷てぇんだよ、水滴、さっきっから」

 ぽたぽた、ぽたぽた雫が落ちる。ヒル魔の頬に、喉に、胸にまで…。その一滴が狙ったみてぇに乳首に落ちて、そのせいかなんか知らないけど、ヒル魔の体がびくん、って跳ねた。誰か止めて、誰か。止めてもらわなきゃ…あぁ。濡れた乳首から、つう、と流れる一滴を、舌で掬い取るみたいにして、葉柱はそれを舐めていた。
 
「…は、っぁ…ッ」
「ヒル…。や、べっぇんだって…っ。止まんなくなっちまッ…。ヒル…魔…! ヒル魔…ぁ」

 乳首を舐めた舌で、ヒル魔のカラダをなぞるように愛撫する。痩せた腹も、細ぇ脚も、脚の付け根も、そこについてるアレも。ガクってヒル魔が仰け反る振動で、こっちはとうに砕け散ってた理性に、最後のトドメを刺されちまう。

 そうだよ、今まで何回だってエッチはしてきたけど、今日のは違うかもしんねぇ。どっかで遠慮してたのが、もうブチ切れちまって自分じゃきっと止まれねぇんだ。止まれなかったらどうなるのか、なんて、想像も及ばねぇ。

「やだったら、逃げろよ…っ。いつもみてぇにッ。たの…む…」

 だって…俺、嫌だ。欲望のまんまにしたいことしちまって、お前との今の関係が切れちまうなんて。奴隷と主人でいることまで、終わっちまったりしたら…。

「ばーか、かよ…。…逃げたことなんか、っ、ねぇだろ」

 聞こえた声はきっと幻想。幻聴でさえねぇんだよ。夢見てたまんまの、ことだから。ほんとはお前も俺のこと、なんて…今時、小学生のオンナノコだって、考えもしねぇような都合のいい、夢。叶わねぇ夢。

 貪る唇にあちこち吸い付かれながら、泣いてる葉柱の顔を、ヒル魔は見ていた。冷めた顔。そう見える。表情の無い顔に、一瞬だけ過ぎる、かすかな笑み。失笑。

 泣くなよ。ガキみてぇに、さ。
 今、言ったろ。聞こえてねぇのかよ。
 嫌だったら、最初から触らせてねぇし。
 あぁ、もう…
 さっさとピアス、買ってこいって。
 ずっとつけててやる気でいるのに…。

 がっついた犬みたいになった葉柱に、がつん、がつんって、奥まで突き刺されながら、うっかり怪我しないように、ヒル魔は懸命に体を開く。

 ヤりたくてしてる癖してなぁ。
 もうちょっと嬉しそうにしやがれ、ばぁか…。















 ちょっと短めですが&不調でイマイチだったりしつつ、今回はここまででー。なんというか、二人ともやっぱり不器用なんです。怖がり過ぎる葉柱さんも困ったもんですが、いつも凄んでるヒル魔さんだって悪いんですよ。

 うっかり間違えたら、マシンガンで蜂の巣って感じするじゃないですか? そんでそこまで派手に怒るんだったら、そこですべてがジエンド、とか思えちゃうじゃないですか。

 指輪じゃないですが、ピアスをねだられてそれをプレゼント、なんてぇ甘いイベントもあるというのに、そこまでいけても崖っぷちですかっっっ。ふっ、もうね、落ちるってんなら、二人一緒に身を絡めて堕ちるがいいよっ。わーいv
  
 

12/05/04