年 の 瀬 に 

 



 年の暮れはどこででも、身の回りを清めて新しい年を迎える支度をする。それは新選組も同じなようで、屯所はいつもと違う様子でざわついていた。男ばかりのこの所帯、汚しがち、掃除や整頓は後回しになりがちなのは、言わずともしれたこと。

 斬り合いの方が気が楽だ、あぁ、まったくだな、などと、ある意味不謹慎なことを零しながら、隊士たちは大掃除に追われているのだが…。

 日頃から余分なものを持たず、もしくは散らかさず暮らすような性分のものは、皆がそうやってばたついている間、酷く手が空いてしまっていた。その上、どこかへ出掛けるあてもないとくれば、手持ちぶさたに静かな場所を探したりしてしまっている。

 と、いうのは新選組の副長と、三番隊隊長のことであった。

「終わったのか、片付けは」

 ふらり、と道場に足を踏み入れた途端、慕わしい声に耳をくすぐられ、斉藤は、はっ、と顔を上げる。見れば小窓に片手を添えて、外を眺める風情で、着流し姿の土方が立っていた。

「俺は…片付けるほどものが無い」
「…あぁ、そうか。俺もだ」

 副長の部屋にはものがない、というのはあまり正しくない。仕事がら色々な書付はあったし、これでも洒落ものの土方のこと、着るものだって平隊士よりも無論持っているだろう。

 それでも年の暮れだとて、大掃除だとて、取り立てて片付けの必要がないのは、散らかして置く性分でない、という一言に尽きる。

 さておき、土方は道場に入ってきた斉藤の視線を、それからずっと浴び続けていた。一言二言の会話のあと、斉藤は一言も発さず、なのにその場を去ろうともせずに、不躾なほどじっと、土方の姿に見入っていたのだ。

「おめぇ…」
「………」
「何か言ったらどうだ。そう、ただ見られてちゃ、居心地がよくねぇ」
「あ。いや、部屋の中以外で、あんたのそういう着流しは、珍しいとおも…」
「あんたときたか。ここはそれこそここは部屋ん中じゃねぇぞ」
「…副長の」

 くく、と唐突に土方は笑った。さっきから、新選組副長と三番隊隊長との会話らしからぬ語り方をしているのは、むしろ土方の方なのだ。

「嘘だ嘘だ。構いやしねぇよ、ここらにゃ今、人の気配もねぇ。この格好だって、今日はどこへも行く用事もねぇから、片付けを増やさないように部屋着のままでいるだけだ」

 面白そうにそう言って、涼しい笑い顔を斉藤へ向け、ふと思いついたように土方は言った。

「そういや、よかったじゃねぇか。新しい年になりゃあ、おめぇもひとつ年が増えるぞ、斉藤。早く年を取りてぇんだろう」
「……じゃ意味が無い」
「あぁ?」
「あんたも同じに年を取るんじゃ、意味が無い、と言った」

 斉藤が言い返す言葉に、驚きもせずに、土方はまた静かに笑む。自分より十も年下の、この恋人の想いは、そうやって言われずともよく判っているからだ。その笑みが、斉藤にとっては酷く眩しい。眩むほどに眩しくて、箍が外れてしまう。

「土方さん」

 不意にまた斉藤は、二人の時だけしか言わない呼び方で土方を呼んだ。ただ振り向いて、咎める様子のない彼へ、二歩、三歩と近付いて、いきなり斉藤は土方の襟を片手で掴み寄せる。窓の前に立っていた土方の体が、大きく前へと傾いで、引き寄せられるまま斉藤の体にぶつかる格好になった。

「い、いきなり何しやが」
「…土方さん…」
「ん…む…」

 口付け、盗むように短くて、でも深く貪るような…。

「この…っ」
「今年のしおさめだ」
「…お、おめぇは、除夜の鐘で、ちったぁ煩悩を減らしやがれ…っ」

 声をひそめて罵る土方に、振り向かないままで、斉藤は言い置いた。

「あんたを欲しがる気持ちがなくなった俺は、俺じゃない」

 去っていくその姿の、ちらりと見えた頬は、ほんのりと赤いようだった。
 





















 短文です。久々の、そして年内最後の組。やはりここは斉土ですねぇ。ここを見に来てくださってた皆様、ありがとうございます。そして来年もよろしくお願いしますっ。ぺこり。ご挨拶まで簡単ですみませんーーー。
 

09/12/26