咲き初めて… 後
引き千切りかねない強さで、下帯を取り払われ、次には着物の前を左右に開かれて、白い、華のような体が薄闇に曝された。
視線を這わせて、指先で触れ、手のひらで撫でて…。それよりももっと、強くはっきりと彼を感じたくて、土方の太腿に両手を掛けて開かせて、島田はそこに顔を埋めていた。
「ふ、うぁ…っ、あぁ…!」
口を付けられた途端、反り返る体。暴れる下肢を無理に抑えて、なお一層大きく広げさせ、脈打ち始めた性器を、深く口に含み、舌を絡めてしゃぶり…。
弾け出す土方の精液を、島田は何度飲み下しただろう。島田は口が塞がっていて、何も言えない。土方は引っ切り無しに喘ぎ続け、大きく叫んでしまわないように堪えるので精一杯。
「し、島田…しまだ…」
どれだけ時間が経ったのか。聞こえてきた声は、消えてしまいそうに弱々しく細くて、思わず島田は腕を緩めた。
「あ、どこか、い、痛かったですか…?」
「……」
どこもかしこも痛いのだ、とは、土方は言わなかった。抱き締められた時も、下帯を剥ぎ取られた時も、舐めしゃぶられ続ける間も、愛撫が強すぎてずっと痛くて、でも怖いほどの快楽に飲まれていて、何か考えている余裕もなかった。
土方は何も言わず、間近から島田の顔を見て、ふい、と横に顔をそむけた。鎖骨にも、その下にも、花びらを散らすように口づけの跡があって、これでは暫くの間、土方は人前で襟を緩めることも出来ないだろう。
上気した頬も、潤んだ瞳も、あまりにも魅力的で、島田は上擦った声で、つい言った。
「灯りを、つけさせて下さい。貴方が見たい」
「…いやだ」
駄目だ、ではなく、いやだと、甘えるように呟くその唇が、いつも冷徹な言葉を吐くのと、同じ唇とは思えない。
「つけます」
嫌、と言われてもそれを聞かなかったふりで、島田は一度、土方から離れて行灯に火を入れる。怒りもせず、土方はそれを黙って見つめ、やがて自分の肌の上に、島田の執拗な視線が這うのすら好きにさせた。
剥がれた着物は傍らにあるのに、土方はそれを引き寄せて、自分の体を隠そうともしない。
足の指の形、足首の細さ、形のいい膝、太腿、そしてそこだけ淡く色のついた、土方の性の象徴…。何度も射精させられて、今はしおれているそれが、雨で萎みかけた花を思わせる。
「なんてぇ、目で見てんだ…何か珍しいか…」
「…いえ。綺麗です…とても…。想像していたより何倍も、何十倍も、貴方は綺麗だ」
「想像…してたのか…?」
「していました。毎晩、頭の中で貴方を抱いていた」
殆ど敬うような眼差しで見つめながら、島田はそれに手を伸ばす。怯えた手付きで、そっと先端を片手の指に包み、もう一方の手の指先で、静かに先端を撫でた。
「く、ぁあ…」
撫で回すと、先端はすぐに滲み出す液で濡れてくる。零れそうになる雫の一滴たりと、布団に零すのを惜しむように、島田はまたそこに口を付けた。今度は先だけを口に含んで、舌先で小さな窪みを抉り、滲む精液をさらに啜る。
そうしながら、開かせた脚の付け根を、ゆっくりと手のひらで愛撫し続けて、島田は偶然、そこに触れたのだ。唐突に、びくりと土方の腰が跳ね上がって、細い声が零れて…。
「…ひ…っ、ぁ…、し、島田…っ」
「あぁ、ここも、気持ちがいいんですか…?」
「あ、ちが…ッ、ひぅっ、んく…!」
閉じたままの蕾のような、その場所を、島田はしつこく愛撫した。指を二本揃えてあてがって、ほぐすようにそこを弄ってやると、土方は、今までとは違う顔を見せた。
性の意味も知らない幼い子供が、意地悪な年上の子供に、色々と体を弄られて戸惑っているような、そんな顔をする。
「怖がらなくていいです」
ついそんなことを言うと、ほんの一瞬、土方はいつもの彼に戻って、鋭く島田を睨み据えた。だが、裸にされて恥ずかしい場所を散々弄られ、舐められて喘いだ後では、その意地も長続きはしない。
「やめ…っ、…あ」
布団の上に座って、緩く立てた島田の両膝の上に、後ろ抱きに抱かかえられ、土方は両膝を大きく広げられた。下にある島田の左右の膝に、膝裏を引っ掛けるようされてしまうと、もう身動きもろくに出来くなる。
「は、離せッ」
土方は島田の腕や手首を掴んで、なんとか逃げようともがくのだが、島田の両腕はびくともしなかった。少しも抗われてなどいないように、島田は右手で土方の前を、左手では後ろを愛撫し出す。
「ぅ、くっ、やぁ…あふ、ぅ…っ、ひ…ッ!」
前を握られて、上下に、焦らすように緩々と扱かれながら、後ろの袋を揉みくちゃにされ、その挙句、そんなところが感じるとも思っていなかった、後ろの蕾を、とうとう浅く穿たれて…。
その指が、二本に増やされ、さらに奥深くまで突き上げられて、喘いで、泣いて…。最後には、もう許してくれ、とまで、土方は言った。
…貴方が、こんなに可愛いなんて、思っていませんでした…
意識を失う寸前の、島田のその囁きだけが、妙にはっきりと、土方の耳に残った。
*** *** ***
「…副長…副長? 起きられますか」
うっすらと目を開いて身を起こすと、恐ろしいほどに体のあちこちが痛かった。
その痛みにまず驚いて、それから自分の顔を覗き込んでいる島田に気付いた。勿論、意識を失う前の事も、すべて土方は詳細に思い出してしまう。
「まだ、夜が明けるまで半刻はありますが、このままでは…その…まずいので起こしました。夕べは、ほ、本当に申し訳ないことを…」
「悪ぃのは俺だ。気付いただろう。俺はお前を、あの人…の代わりにした。そんなに似てもいないのに、昨日は影だけで似てると思い込んで…」
島田は項垂れて微かに首を横に振り、小さな声でだが、それでも変にはっきりと言ったのだ。
「どんなことでも、貴方のお役に立ちたくて、俺は新選組にいるんです。少しでも役に立てたなら嬉しいです」
それを聞いた土方は、暫くじっと島田を見つめて、それから薄く静かに笑った。悲しげなその顔は、笑っているのに酷く苦しそうで、見ているとまた抱き寄せたくなるから、島田は慌てて体ごと横を向く。
その時、島田の懐から、くしゃくしゃに丸めた懐紙の塊が零れて、畳の上に転がり落ちる。
「なんだ、そりゃぁ…」
「あっ、いえ、副長のものを、か、勝手に使わせて頂きました。あとで、きっと同じ物を用意」
「別に返さねぇでもいいが」
必死で拾い集めて隠す島田の顔を見ていると、それを何に使ったのか何となく判って、土方は、さっきとは違う笑い方をする。気を失った土方を見ながら、放てなかった自分の欲望を、島田は一人で処理したに違いない。
「なんで最後までやらなかった…?」
言われると、島田は真っ赤になって、また首を何度も横に振り、正座をした膝の上で固く拳を作って言った。
「貴方を壊してしまうと思ったからです。俺はこんな大きな体だし、それに、ゆ、指だけでも、少し血が出て…。も…っ、もう俺、失礼しますっ」
夕べのことを言えば言うほど、また土方を引き倒して、その体を貪ってしまいそうで、島田はとうとう音を上げた。呼び止められる前にと、凄い速さで部屋を飛び出し、駆け去っていく大きな足音を、土方は半ば唖然として聞いている。
一人でなんとか起き出して、這うようにして寝巻きを取り出して身に付けたあと、土方は明るくなりはじめた外の光を感じながら、何も無かったような顔で、小姓を呼びつけた。
彼の小姓になりたての少年は、まだ緊張し過ぎていて、土方の顔も姿も見られずに、土下座するような恰好で指示を聞くから、こんな時には酷くありがたかった。
「夕べ、酔って薄着で寝て、どうやら風邪でも引いたらしい。大事をとって、一日寝ているから、そう皆に言って、ここへは誰も来させないようにしてくれ」
こんなふうに自分が今、穏やかな気持ちでいられるのは、全部、島田のお陰だと判って、土方は小姓に、もう一つ用事を言いつける。
「…監察の島田を。大事な用だ。すぐここに来るように」
今頃勇さんは、また女のところだろうか…。
思い出せば、ちりちりと、胸が焼け焦げるように辛い。女の話をして笑っている近藤を見れば、きっとまた、この身は震えるほどの悲しみを味わうだろう。
ずっと隠し続けた胸の傷はあまりに深くて、まだ癒えてはいないけれども、その血を流す傷を、島田のあの大きな熱い手が、そっと被って庇ってくれる。望めば、多分、これから先もずっと。
いつでも頼って、縋ってもいいのだと、そうはっきりと島田に言って欲しくて、土方は島田の足音が聞こえてくるのを待っている。小姓が閉め忘れていった障子の隙間から、また彼は庭の梅を眺めた。
淡く蕾をほころばせた梅は、殆ど蕾のままだというのに、はっきりと梅の香りを放っている。
ただ、近藤ばかりを見つめて、何年もずっと蕾のままでいた土方の心は、島田と言う、春の日差しのように温かな男の想いを知って、やっと綻びようとしているのかもしれなかった。
終
と、言うわけで、初めて書いたのに…というか、初めてで慣れてないから…というか、何だか長くなってしまいましたです。島田の優しさがうまく書けなかった気がして、その他にも色々と心残りがありますが、なんとか書けましたっ。
このノベルは実は「春の雨」の麻衣様からのキリ番リクエストだったんですよね!「近土ベースの島土(Hあり)」でございました。
麻衣様、リクエスト、ありがとうございます。ああ、それなのに、こんなんしかできなくてスミマセン。お許しを! いつかまた素敵な島田と土方さんを書けたらいいなと、夢見る惑い星でした。
07/03/25
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