こちらの作品は「SPLEEN」様のブログで連載していた
素敵な蟲師まんが「遠い記憶」の一部を
小説にて表現させて頂いたものとなっております。






と お い き お く








 やっぱりお前は何も言わない。俺を好きか、嫌いかも。案外俺は自惚れ屋だよ。黙って服を脱ぐお前に、いいのか?なんて、もう聞かない。聞かずともわかる、と思いたかっただけかもしれない。

 俺から差し伸べた手に、そっと触れた指はあたたかく、お前の体はやんわりと引き寄せられてくる。あの口付けは俺からだったのか。それともお前からだったか、どちらからともなくなのか、俺には判らなかった。
 さらりと乾いたお前の唇が、ぬるい湿り気を帯びるまで、ゆっくり吸っていたのは俺の方だ。お前は殆ど答えなかった。だけど肩に掛かったお前の指が、何度も震えるのを感じていた。
 
 怖いのか? 嫌なのか?

 そんなことも聞かないよ。俺はお前が欲しくて、お前はそれを許した。その小さな事実に縋るように、俺はお前の肌に触れる。唇と同じようにさらさらと乾いていた肌は、やがては熱を帯び、甘い震えを見せた。
 もう何も聞かないと決めたけれど、一度だけ俺は聞いた。耳朶に唇をつけて、髪を撫でながら、首を抱きながら、胸を重ねてそっと聞いたんだ。分かっていたけど、確かめたくて。

「気持ちいいか…? ギンコ」
「……ば…、かっ」

 膝と膝の間に開いていた隙間が、その一瞬で閉じ掛かり、俺は笑ってそこに触れた。まだ直に触れてもないのに感じてるのが、今の声でわかっちまった。

「…ん…っ…」
「よかった。不感症だったら、どうしようかと…」
「わ、悪かっ…」
「違うだろ? ちゃんと反応してる」

 布越しの愛撫は、する方もされる方も酷くもどかしい。手の中の熱が嬉しくて、指先で撫でて、手のひらで包んで、いつまでもそうやって愛しんでいたら、ギンコは焦れて身をよじった。熱っぽく潤んだ翠の瞳は、けして俺の方を見ずに、ギンコは多分、快楽をどこかに逃がしてしまいたがっている。

 させるか。俺は思う。
 逃げねぇと言ったのはお前だろう。
 その約束は果たしてもらう。 
 ギンコ、お前は俺のものだよ。
 少なくとも、この夜が明けるまでは。



 あぁ…溶けちまう。

 そう、ギンコは思っていた。激しくされてるわけじゃない。いっそ優し過ぎるほどなのに、与えられる愛撫も口付けも、すべてが体の芯まで届いて、ギンコはどっぷりと酔っていた。酔わされているのに、なんでかすべてが鮮明で、快楽の中に逃げることも出来ない。

 化野の指を感じる。胸に、脇腹に、そうして一番感じる場所にも。その指がしつこいくらい、そこに絡み付いて、開かされた膝が跳ねる。中途半端が辛すぎて、もうどうにかしてくれよ、と、一度くらい口走ったかもしれなかった。だって、化野は言ったのだ。

 そうか…。わかった。でも…
 すまんな、少し手荒になるかもしれん。
 なんだかお前が、愛しすぎてな。
 欲しくて欲しくて、常の俺ではいられんのだ。

 肘と膝をついた格好で、後ろから…が、何度目のことだったのか、実は記憶が飛んでで分からない。膝のみならず、脚の付け根辺りの関節がずきずきするのは、無理に体を広げられて、前からも繋がったからだろう。

 あちこち痛い。そのうえだるい。もう意識が飛んじまう、などと、そう自覚したのさえ、何度目かの迸りを、身のうちに受け止めながらだった気がする。

 溶ける、と思った。実際溶けそうだった。体だけではなく、心も。今まで固く強張っていた部分まで、いつしかとろけて、ほんの少し、お前に見せたかもしれん。続いている快楽の中で、必死で足掻いて、やっとギンコはこう言った。

「この、もう…、い…いいかげんに…。…あ…ぁ……」
「…あぁ、ギンコ、ギンコ?」

 一瞬、意識を手放したギンコを、化野が気遣う。それも身を重ねたままでだったから、彼はかすれた声で言ったのだ。

「も、いい…だろ…? 今回限りじゃ…ある、まいに…」
「…うん。そ、そうか…。そう、だよな…」

 最後に一度、首筋に口付けを落として、化野はゆっくりとギンコから身を離す。もうとうに一つになっていた体を、そして結び合った魂を、無理に二つに剥がすような、そんな感じがして、ギンコは強く目を閉じた。

「今回限りじゃ、ないんだな…?」
「………」
「さっき、そう言ったよな?」
「………」

 化野がそう聞いているのに、ギンコは寝たふりをした。随分と長いこと、その返事を待っているのに気付いたけれど、だからこそ目を閉じていた。それは、彼こそが化野に聞きたいことだった。

 今夜と同じその気持ちで、お前は俺を好いててくれるか?
 勿論だ。と、そう言ってくれるのか?

 この後に及んで、まだ怖くて聞けないその問いを、ギンコは胸に抱いて丸くなる。その思いごと、化野はギンコの体を抱いて包んで、やがては先に寝息を立て出した。

 あぁ、こんなことをしでかした後だというのに、きっとまた子供のような寝顔なのだろう。ギンコはうっすら微笑んで、首筋に届く化野の息遣いを感じながら、やっと眠りに落ちるのだった。














福頭巾さまサイト、「SPLEEN」にて連載されておりました「遠い記憶」から、エッチシーンのバトンを渡されました! わーっきゃーっ、光栄ですっ。福頭巾さまっ。でも福頭巾さまの描いたあの世界から、なんか変な方向に逸脱してしまった気がして、申し訳もございませんっ。

なのでっ、またいつか是非リベンジをっ! あぁ、←懲りてない。

福頭巾さま、本当にありがとうございましたっ。
また遊んでやってくださいねっ。


11/11/13