『さよなら』
もう、さよなら、なんだな。
涙が溢れて、頬を伝う。
あぁ、俺は何を嘆くのだろう。お前に出会えた奇跡が。お前と通じた心が、あんなに、あんなに幸せだったのに、失うからと言って、こんなにも辛いなんて、我侭だろう、と俺は泣き笑う。
奪われるのはまるで、自分自身の体の何処かのようだよ。
痛い。
苦しい。
辛くて切ない。
同じ奪るなら、一緒に心を盗っていってくれよ。そうすれば、こんなにも泣いて苦しむこともないのにな。
あぁ、さよなら、俺の愛したお前。俺はきっときっと、失くしたお前の思い出だけで息をして、永遠を旅していくんだろう。それほど怖くはないさ、きっとそのうち気が触れて、お前のこと以外なにも判らなくなって、ただ永遠に、いい夢を見続けるだけのことだから。
お前の夢を見ながら、俺はきっと涙を流すよ…。
そんな俺でいいのなら、刻の蝶よ、俺の傍で舞えばいい。
その闇色の羽根を揺らし、永劫永久に舞えばいい。
2010/01/09
お題より『一巡』
屈み込んで、大地に積もった雪に手を触れた。そっと手を添えているだけで、そこは少し融けて、彼の手のひらの形のみぞになる。信じられるか? なぁ、お前。こんな冷たい冷たい、重たい雪のその下には、もう次の季節が、きっと息づいているんだなんて。
返事をくれるお前は、今はここに居ない。
夜になって、縁側でふと見上げれば、去年の冬に見たのと同じ星座が、確かにはるばる巡り来て、またきらきらと、きらきらとそこで光って、ここにいる俺のことを見下ろしているじゃないか。だけれど、あれはもう、山の向こうに、下りてって隠れようとしているよ。
一緒に見よう。待っているから。
冷たい雪の下の春の土。
春の土の中の夏に咲く花の元。
夏に咲く花は枯れて、秋には種をつける。
そうしてまた、冬の冷たい雪の下で、
きっと巡りゆく命の、約束事を抱いて眠るのだ。
約束事のままに、必ず巡り来るものは、この世にこんなに沢山あるから、お前もその、ある一連なりの中に綴られて、何があっても、どこにいても、ちゃあんと俺のとこへ巡ってくると、信じさせて欲しいもんだ。
いいや、本当はその同じ連なりの中に、お前とぴたりと隣り合い、ずっとずっと一緒に、ぐるぐると目を回すほど回って、命の尽きるまでの一巡を、懸命に懸命に回り逝きてゆきたいよ。
あぁ、お前は今は何処に居る。
見えない一綴りの中、懸命に歩いて生きて、俺へ向かって巡っているか?
2010/02/10
2013/03/10 転載