タイトル無し


一度ブログに載せてますものの転載ですが、これまた死にネタです。んで、これまたまた、ご注意あれ〜。螺旋はそういう話だからして、ごめんなさい。そしてこの一篇は、百人一首の第三の句よりできています。



あしひきの やまどりのおの しだりおの ながながしよを ひとりかもねん



愛している、とお前は言う。
静かに隣に眠っているしか、出来なくなっても最後まで思うのだろう

ひとりになってしまったお前に、俺はその言葉を言えなくなるのだから、
きっとその時の分まで言っているのだろうさ、と、
呑気そうに笑って、まるで人ごとのように思うのだろう。


優しくて、優しくて、心が痛いほど泣けてしまうほど優しくて、
まるで母親のように父のように兄のように
どんなに欲しくても得られない、両目で見つめる世界のように
両腕ですっぽりと俺を抱き締めて、お前は幾度も教えてくれる。

ノクターン、って曲、そこの古いCD…かけてくれ。
お前も好きだと言っていたクラシック。
ノスタルジックな思いに浸って逝きたいから、葬送曲よりそれがいい。


死ぬなんて、あぁ、そんなふうに哀しく思わなくていいんだ。
だってまた、俺はお前に会えるのだから。

凛として、野山を歩いていた昔々の姿のように、
お前は顔を上げて、俺の行けぬ先へゆけばいい。
野にあるか、山にあるか、それともやっぱり都会の中か、
長い年月の過ぎた先で、俺はお前に見つけてもらえるのを待つよ。


がらんとした空虚な心の中に、お前という記憶を注がれるまで
何十年でも出会えるのを待っているから、
我武者羅に生きて、諦めず生きて生きて、どうか俺を探してくれ。


「死」ではなくてこれは、またお前に会うためのただのリセット。
夜が来て、またあざやかに美しい、眩しい朝を迎える為に、
お前に再び会うためだからこその、変えられぬ約束事だよ。


一人にしてすまない。
止まらずにずっと添っていられる俺じゃなくてすまない。
立派なことばかり言ってたって、結局はお前を一人ぼっちにする。
体があるうち、どうか、
もう一度だけ口づけしてくれないか。
眠る前のただのキスだよ、軽くでいいから、さぁ、ギンコ。

ん…、と唇を寄せて、俺はお前の唇を塞ぐ。別れの言葉を言わない為にも。




09/02/07blog
12/12/24転載