【バラード】
小さいな、と思ったよ。
ぎりぎり取り乱すのを我慢して、
理性的で普段通りの自分を装っていたけど、
きっと彼には全部お見通しだったんだろう?
泣けば、って言いながら、
硬いファイルの角で俺の額をガツンって。
大切なものなんだよ、って俺は言った。
三日後のオンエアーの原稿だ。
苦みを感じながら少し笑って、彼に見せた。
「…そしてこれはちょっと職権乱用気味だけど、
でも、この曲を聞いて欲しい人がいるので。
俺個人から、遠くにいる俺の大事な人へ」
静か過ぎて眠くなるぐらいのバラード。
ボーカルは英語で、優しく低い声の女性。
リリカルな歌詞は切ない恋を歌っている。
つい思ってしまうんだ。
次に会える日は来るんだろうかって。
すまない。彼と俺とで支え合うつもりが、
永遠に思える時間に俺ばかり項垂れてるよ。
ノートで読んだ君の字じゃない走り書きを、
丸めた背中の内側に包んで時々彼が呟く。
「辛くても 生きろ 生きろ 生きろ」
やっぱり俺は君のことを何も知らなかった。
まだまだ知らない事ばかりなんだよ。
何も聞かないのは、知りたくないからじゃない。
身の上話をしたがらない君に気付いてたからだ。
こんなに遠くて聞こえないからあえて言おうか。
「さよなら」以外の君の声が聞きたい。
じわりと涙が滲んできた。
とにかく額が痛くって。
果てしなく遠い君へ言うよ 「生きろ」
(文頭文字をある短歌の言葉順にするという遊びで書いてます)
13/10/13転載
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