【二つのスペアキー】




涙の跡が、綺麗さっぱり消えた後に、
月にその顔を曝して、夜空を見上げてる。

能天気に、気付きもしなかったあんたが、
よく知らなかったんだよ、なんて言って、
はらはらと、今更の雫を零してるんだ。

  まだまだ、あいつは遠いところにいるよ。
  大事にしてたラジオとか、俺のことは、
  酔うたびに、きっと思い出すだろうけど、
  いい加減に放り出してった、あんたのことは、
  何にも、思い出さないかもしれないよね。

  がっかりしちゃったかい? それとも?

  ラジオに引っ張り出されて、困ってたあいつ。
  あんなに焦ってるあいつ、俺も初めてだった。
  けれどこんなに、あっさりあいつは出てった。

  ぬるい関係の方が、だからいいんだってさ。
  留守を守るとか、そういう堅苦しいの嫌だって。
  重たいってさ、止せよって言うよ多分。

苦しくて大変なんだろって、想像はできるから。
もっとずっと、想像よりもきついんだと。

ノートのメモにあったの、見たんだ。
いついつ仲間が死んだって、古い走り書き。
随分きたない字で、ノートも汚れてたよ。
こんなのも確か、あったんだよ。
二度と、こんな戦場へは来たくないって。

つい盗み見た自分を、俺は悔やんでる。
きっと、知らなけりゃ平気で待ってられた。
やがてあいつは遠いところで死ぬのか、それとも。

  どうにか帰ってきて、あんたがまだ待っていたら…。

  ルームキーのあいつの分は、とっておこうよね。
  ラジオであいつの好きだった声、聞かせ続けてよ。
  無理にだって、戻るって信じてようよ、俺たち。




ooolmoon様による
この作品の視覚化!はこちらっ
 




 



で、シリーズ化されそうなので、解説なんか書いちゃう(^^)b


 ギンコはカメラマンです。

 無機質な都会を撮るカメラマンでしたが、そのずっと前は、戦争中の危険な国とか、テロで死ぬ人の多い国とかに行く、志願して行くようなカメラマンをしてました。

 そんな彼はイサザの幼馴染で親友で、そうして田舎の街のラジオ放送をしてる医者の化野先生の恋人だったんです。

 だけど何か心の動くきっかけがあって、またギンコは戦争中の国に、カメラ機材だけ持っていっちゃったんだ。イサザだけは旅に発たれる寸前に、ノートを盗み見てそれを知ったんだ。止めたけど行っちゃったんですよ。

 そうして化野先生は、最後に会いに来ても貰えなかったから、ずっと何も知らないで、急に会いに来なくなったギンコを、ちょっと酷いと思ってた。心変わりされたんだと思った。

 でもある日、報道で画面の隅っこに映った、遠い国にいるギンコの姿を、見ちゃったんです…。埃まみれで頭に包帯撒いたりしてて、見たことも無い激しい顔してる彼を。

 上記本文はイサザの言葉と思い。

 先生に酷いこと言ってるのは、ギンコの気持ちを汲んでるからだと思います。忘れちゃいなよ、あいつって酷いんだよ。あんたのことなんか思い出しもしないだろうから、忘れてやってよ。

 あいつは今、大変なんだ。あいつが、まだあんたのこと思ってるからこそ、もう忘れてやってよ。その方がきっと重くない。

 けれども、もしもそれでも待つっていうんなら、どうしたって忘れられないっていうんなら、俺もあんたも、あいつから返されたスペアキー、お守りだと思って大事にもって、あいつの帰りを待っていようよ。

 ちまちまと「彼ら」がこうして生きてますv



(この作品は文頭文字を、ある短歌の言葉の並びにしてます)

13/03/20
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