常世花檻 とこよ の はなおり 六
「さっきの答えを、ちゃんと教えてくれ、ギンコ」
「…さっき? さっきって?」
「はぐらかすな」
「いや、ほんとに。何の話か、覚えてないよ」
化野は口をへの字に曲げて、ギンコを顔を睨もうとするのだが、その途端に呆けてしまった。ギンコの顔には、酷く柔らかな笑みが浮かんで、それが酷く綺麗だったのだ。
彼は花の一輪を握っていた手を開く。ほろり、と零れた花は、地面へと落ちていき、土の上で、細く捻れた花びらを、血の飛沫のように、ぱっ…と四方に散らせる。
ちかり、と何か白いものが光った気がした。その光はすぐに消えて、それと同時に辺りに沢山咲いていた真っ赤な色の花々が、霧の中に溶けるように消えてしまう。
あとには、もう終わりかけの彼岸花が、ほんの数本ばかり、竹の林のその隅に咲いているのだった。
もっと … 生きていたい …
風が吹いて、どこからともなく聞こえた言葉は、蟲の声だったろうか。それとも、別の誰かの声だっただろうか。人も、獣も、草も、蟲も、誰もがそう思って、生きている。
懸命に、生きているのだ。日々を、他の命までも糧として。
それが例え罪だとしても、生を手放すこともまた、別の罪となる。
「命」とは、なんと難しい。なんと難儀なものなのだろう。けれど、
「…ああ、幸せだ。だから生きていたい」
砂利道に差し掛かったとき、ギンコは言った。化野は気付かずに、家への坂道を上っている。その背中を眺めて、頬笑んで、ギンコは少し足を速め、やっと化野の隣へと追いつくのだった。
終
人も動物も花も蟲も、生まれたからには生きたいと願う。逆を言えば、生きたいと思えずに、他者に命を与えて、自分を終わりにしたいなんて、とても悲しい不幸なことです。
でも生き物の中でも、きっと人間は特に弱い生き物だから、幸せな人生でなければ、辛いだけの命ならば、いっそ何も感じないようになりたいと、思うこともあるんだな。ただ生きるだけじゃなくて、幸せに生きていきたいと願うのもまた、生きた心の動きかと思うのでした。
堅苦しくてすみません。このストーリーの冒頭を書いてくださった、JINさまに感謝を、そして挿絵を書いてくださいました影様へ感謝を。お二人の力なくしては、このストーリーは出来ませんでしたですよ!
ありがとうございました! 惑い星カラーになっちゃってごめんー。
10/04/24