紅 は こ び ・ 4





 着物はまるで、淡い紗の上に、もみじを描いた美しさだった。

 そのもみじは命あるように、ひらひらと揺れ、ゆらゆらと落ちる。ギンコの着ている着物と、ギンコの肌の間を滑るように見えて、実際はギンコの肌に描かれたまま、その肌にいて震えているのだ。

「ぁ…ぁ…ふ…っ」

 淡い吐息と喘ぎを吐いて、背中を向け、もみじの大木に爪を立て、時に仰け反り、時に項垂れて身悶えして、泣き嘆くような辛そうな顔が、口では言えぬおこないを、されている時の姿に似ていた。

 化野はゴク、と息を飲んで、それでも食い入るように見つめている。

 やがてギンコは幹にしがみ付いていた手を離し、腰で緩く縛った紐を解き、ふらふらしながら自分の足で立った。襟を開き、着物の前を広げ、そのまま身の片方だけを、外気に曝してしまう。

 真っ白な色した肌のところどころに、まだ赤色の葉を纏い、その葉は震え、揺らぎ、彼の足元へと舞い落ちていく。未だ着物に隠れたままの半身も同じだ。うっすらと葉が舞い散るのが、着物の布地越しに透けている。

「き…」

 はぁ、はぁ…と、粗く速い息をつきながら、ギンコは言った。

「きれ、い…だろう…? 滅多に、見られやせん、から、な…」
「あ、あぁ、綺麗だ」

 化野が囁くように返事をすると、びく、と、ギンコの体が小さく震える。腰を捩りながらの痙攣が、どういう意味を成すのかなぞ、化野にはよく判った。

「ギンコ」
「ん、んん…っ?」
「お前、俺の前で、蟲にイかされ続ける気か?」
「な…」

 無造作に近寄って、化野はギンコの体を背中から抱いた。すっかり腕に包み込む前に、彼の纏っている着物は剥いでしまう。素っ裸にされ、それでもロクに抵抗できず、延々と続く快楽に乱れながら、それでもギンコは化野を咎めた。

「よせ…っ、せっかく俺から離れてくとこなのに、お前に移っちま…」
「移しゃぁいい! そしたら全部が剥がれて落ちるまで、お前とこの身を絡め続けるだけのことだ!」

 ギンコは絶句したが、その直後には細く喘いだ。前へと回した化野の手が、すっぽりとギンコの茎を包み込み、知り尽くしたものの緻密さで愛撫し始めている。すでにパタパタと、滴りを零していた箇所から、より大量で、より濃くとろみのある白い液体が溢れ出す。

 適当に縛った帯の下、着物の前だけをはだけ、下帯などしてこなかったのを幸いと、化野は猛るものを取り出し、すぐにもギンコのそこへと押し付けた。

「返してもらうぞ、もともと俺のだ」

 蟲へと、そう言い捨てて、強引に貫き、揺らす。花火が空で散るように、ざん、と音などしそうなくらい、もみじは一気に舞い落ちて、ギンコの肌に温もりが戻っていく。化野は奪われた恋人を取り返したのだ。

 ああ、それにしても、紅色の葉に悩まされてたギンコの姿の、なんて…なんて綺麗だったことだろうか。夢に見そうだ。白昼夢にも。

 散った葉は大地に吸われる様に、いつしかすべて、消え失せていた。




「ずるいだろう…」
「……」
「ギンコ、聞いてるのか?」

 こんな会話は、あの後戻った家の布団の中でだ。ぐったりと疲れ切ったギンコの体。その腕や背中を撫でながら、抱き寄せながら、化野はブツブツと文句を言っている。

「俺が変なものを買わされてると、お前にこっぴどく叱り飛ばされるのに、お前は間違って危ない蟲を持ってきても、誰にも叱られてないじゃないか」
「…そんなの……知るか」

 反省などしてないフリをしながら、化野の肌に紅はこびが移ってしまっていないか、必死に探した姿は嘘じゃない。ギンコが蟲に纏わり憑かれるのも彼自身のせいじゃない。ギンコの意思じゃない。それなのに化野を危険な目に合わせて、苦しむのはギンコなのだ。

「すまん…」

 化野は謝った。謝ってギンコの体を、これまで以上に優しく抱いた。母親が子供にするように、背中をそっと叩いて、撫でた。

「疲れただろう。眠ってくれ。今夜は母親代わりになるからな」
「母親…? …馬鹿、お前はお前の役でいいんだ。お前で…いいんだ…」
 
 そのままギンコはまどろんだ。疲れ切った体の、その疲労感こそが、彼を深く眠らせてくれそうだった。化野は、よく知りもしない子守歌のようなものを、うろ覚えのままで小さく口ずさんだ。

 そうして彼は、朝までもそうしてギンコの背中を撫でていたのだった。

 母親のように…

 優しく…。



 終














 念願のシーンは書けましたが、やっぱりそんなにうまく書けなかったー。残念です。季節はずれだからかな? 否! 文才がないからですっ。しょぼんー。外からは夏祭りの太鼓の音が聞こえてますよぉ。ではでは、また次の話を考えることとしますねー。ありがとうございました。

09/08/05






































素敵某様絵・無理言って許可頂いて、こっそり飾る。
みんな気付いてぇぇぇぇぇ。