ともしびの傍で




 口づけをして、布団の上にゆっくりと組み敷いて…。

 それはギンコがいつものように、暫くぶりにやってきてから、四日を過ぎた夜の事。最初の夜はいつも、理性も何も何処かへ飛んでしまったままで、夢中で抱いてしまうけれど、こうして四日目くらいにもなると、少しは落ち着いて抱くことも出来る。

 組み敷いてから手を伸ばし、ランプの灯りを少し強めると、ギンコはそれを非難がましい目で眺めてくるのだ。

「…灯り」
「ん? 嫌だってか。別にいいだろ、よく見たいんだ」
「よかねぇよ…」

 目の前で、白い顔がほんのりと羞恥に染まる。組み敷かれたままで体をよじって、ギンコはたった今、灯りを強めたランプを消してしまおうとしていた。俺はその手首を捕まえて、畳の上に押さえ込み、すぐ傍にある耳朶に唇を寄せる。

「こらこら、消すな」

 耳が弱いのはよく判ってる。熱い吐息を吹き入れるだけで、ギンコは首をすくめて切なげな目になって、俺の口元から自分の耳を遠ざけようとする。耳朶に噛み付いて逃げを封じると、畳の上に白い爪が立てられた。

「なんで見られるのが嫌なんだ。恥ずかしいからか」
「…う、うるさい。お前がいつも、やらしい目で見るからだ…っ」

 駄々をこねる子供のような言い方で、ギンコは酷いことを口走る。やらしい…って、そりゃしょうがないだろう、そういうことをしてるんだから。それに、ギンコがあんまり綺麗だからだ。

 白い髪も肌も、翡翠の色の瞳も、もう見飽きるほど見たというのに、今もふとした瞬間に視線を奪われる。

 こうして抱いてるときだけじゃなくて。ここを目指して、坂道を歩いてくる姿に。よく来たな、と俺に言われた瞬間の顔に。縁側で静かに海を見る横顔に。離れていくときの、最後に見せる眼差しに、俺はいつも見惚れているんだ。やらしい目ばかりじゃないぞ。

 そんなことを考えて、ちょっと動作を止めていたら、ギンコは微妙な顔をして、下から俺のことを見上げている。

「あ…。その、怒ったのか?」
「んん? 何が。やらしいって言ったことにか? そんなことで怒りゃしないぞ。やらしいのは、まぁ、事実だしなぁ」

 そう言いながら、そろりとギンコの腹を撫でる。胸を撫で回しながら、シャツを随分上までたくし上げ、淡い色した胸の飾りを、愛でるようにゆっくり眺めた。ランプの灯りはギンコの頭の傍だから、尖った胸の突起の影が、小さく短く、白い胸の上に見える。

「かわいい」
「…な…ッ、何言うんだ、馬鹿ッ」

 俺の見ている視線の先に、自分の乳首があると判っていて、ギンコは顔を真っ赤に染めた。顔を落として口を付けると、押さえつけた両腕がばたばたともがく。

 脚までバタつかせて暴れるから、片膝を割り込ませ、乗り上げるようにして両脚を開かせてやった。口では嫌がってるくせに、その実、大して本気で抗わないギンコの、こういう態度が堪らない。

 嫌だとか言いながら、口に含んだ乳首は固く尖っていて、緩く舐めあげれば、嫌がる声までしっとりと濡れてきた。

 ズボンを半端に引き下げてやり、下腹へと撫で下ろした指先で、柔らかい毛をすいてやる。陰毛、だなんて言葉が似合わないほど、優しい手触りのそこを掻き分け、その奥の茎を握ってやると、ギンコはその一瞬だけで、ひくりと震えて小さく達した。

「く…、ふぅう」
「相変わらず…だな。俺の指が、そんなにイイか?」

 羞恥と快感と。それだけで、もうロクに動けなくなってしまって、ぐったりと横たわったギンコの体。脱がすぞ、と一度言い置いて、シャツもズボンも下着も、全部を取り払って俺は彼の体の上に、ゆっくりとランプをかざしてみる。

 怒るかと思ったのに、ギンコはぼんやりと俺を見上げ、困ったような、何か言いたげな目をしたままで、あらわな素肌を染めていた。

「嫌がらないのか?」
「…そんなに俺の姿が見たいんならと、思ってな…」

 視線だけを逸らして言う言葉が、どこか不安げで哀しげで。

「そりゃ、あんまりそこらには居ない見目形だし、お前は、たまにはこの姿を、じっくり見たいのかと…」
「ギンコ」

 もうずっと前の事になるが、ギンコは自分が珍品として俺に気に入られたのかと思って、酷く傷ついていたんだ。そうじゃないんだと、必死で告げた自分の声を覚えている。それを判ってくれて、嬉しげにしてくれた顔を覚えている。

「ギンコ、俺は」
「判ってるよ。でもそれはそれ、だろう?」

 恥らったままの顔で、ギンコは笑っている。少しばかり悪戯っ子のような拗ねた顔で、笑っているのだ。

「うん、まぁな。お前、どこもかしこもみんな綺麗だし…。見惚れるのは、止められないしな」

 悪びれずに正直にそう言って、俺は視線をギンコに這わせる。一糸纏わぬその体を、髪の先から足の爪まで、時間を掛けてゆっりと。裸にしたのは俺だ。それを大して抵抗もせず、させてくれたのはギンコだ。そう思うだけで興奮して、むしゃぶりついてしまいたくなる。

 でも、今は綺麗な陶器を見るように、この白い肌を眺めよう。稀有な宝玉を見るように、この瞳を見つめよう。美しい白い獣に出会ったように、白い髪を、もっと下の小さな茂みに、うっとりと見惚れよう。

「ヒトとして、だけじゃなく…」

 ギンコは恥ずかしさに、しっかりと目を閉じてしまいながら、かすれた声で言ったのだ。

「もう一つ、別の意味で、お前に好かれてると思えば、それも…嫌な気はしないよ。変、だろうか…?」

 多分、その気持ちを告げるのは、酷く恥ずかしいことだったのだろう。その強い恥じらいが、彼の体をそうさせるのか、ギンコは感じてしまっているようだった。居心地が悪そうに、両脚を軽く閉じて、左右の膝を小さく触れ合わせて。

「あぁ、妙なとこで中断して、悪かったかな」
「…そ、そんな話はしてない…っ。ぁ、は…ぁぁ…ッ」

 片手で愛撫してやりながら、俺はランプの火を吹き消す。しっかりと見つめながら抱くのもいいが、闇の中で、白くうっすらと浮かび上がり、愛撫に揺れる肢体を見るのも好きだ。

 触れた手にぬるつく感触で、ギンコが感じまくっていると、唐突に知らされるのも、酷く楽しい。
 
「なるほど、俺は随分、やらしいのかもな」

 笑いながら言うと、闇の中でもものが見えるという、ギンコの片目が、俺を睨みつける気配が判った。体の芯まで熱くなれるように、じっくり熱を灯してやろう。そうして俺にも、その熱を分けてくれ。秋の夜は、本当に寒くて長いから…。



                                     終



07/10/14 (08/12/02再UP)