ふ た り 湯 … 後
「ギンコ…。ちゃんとほぐさせてくれ。痛い思いはさせたくない」
「ッや、ゃ…。はぁ…ぅう…っ」
言いながら既に、一度抜き取られていた指が、もう一度押し込まれてくる。一度目よりも激しい快楽を感じて、ギンコは泣き喘ぎ、さらに岩に爪を立てた。
その岩に、小さく血の赤。
「手、離せっ。怪我する…!」
焦ったような化野の声は、しかしもうギンコには届いていない。化野は己の体で、さらに岩風呂の岸の方へとギンコを寄らせて、がさついた岩からなんとか手を離させた。
今度は丸い滑らかな石の上に、ギンコは震える両腕をついて、さらなる愛撫を注がれる。とうとう後ろに熱いものを押しあてられ、無意識なままギンコは足掻いた。
腰を前に進めて逃げたがるギンコ。だが化野は心得たように、彼の前を指で包んで、先端をするすると撫で始める。
「ひ、ひぁ…ッ、ぁあ…」
後ろの奥にあるのが快楽の泉の一つなら、もう一つは確かにここに違いない。先端の窪みをいじられた途端、ギンコのそこからは、とろとろとぬるい液が零れ出し、そのぬる付きが一層快楽を過剰にさせた。
人差し指の腹で、茎の先端を撫で回される。そこにある小さな口を爪でくすぐられる。堪らず腰を後ろに引けば、念入りにほぐされて軟くなった蕾が、熱い杭でゆっくりと穿たれた。
化野は自分からは、ギンコに一つの無理も強いていない。体を押さえつけてもいないし、後ろから突き上げてもいないのだ。
それなのに、巧みな愛撫のやり方によって、ギンコの体は化野に徐々に貫かれ、その奥の敏感過ぎる箇所までが、火のように熱い杭で荒らされる。
ぽとり、ぽとりと零れていた雫が、途切れない流れになり、もう。ぱしゃぴしゃと音を立てる迸りになって、化野の手を汚していた。まだ貫いたまま、最奥までおさめて、化野は一度は愛撫の手を止める。
「…ギンコ、大丈夫…か?」
耳に口を付けて囁いてやれば、たっぷり間を開けたのちに、やっと聞こえたらしい反応が返ってきた。微かに化野を振り向いて、視線が届かないまでも、ギンコは涙に濡れた翡翠の目に、恨めしそうな色を揺らす。
睨まれてもどうしてやりようもなく、あまりに非道いと自覚もしながら、化野は愛しそうに言葉を続けた。
「なぁ…? 家の風呂じゃあないんだ。そんなに遠慮なく零すな」
「な…っ!? だ、誰の、せい…でッ」
耳まで真っ赤になった可愛い反応に、化野は、それこそが堪らないと言わんばかりの微笑を見せる。
「じゃあ、遠慮なく零せ。宿に迷惑がかからないように、お前が出来ない我慢をしなくていいように、こうしてやるから」
体を重ね合わせたまま、化野はちょっと無理に手を伸ばし、そこに置かれてあった木桶を取った。
それからギンコが零してしまった真珠色の液の、まだ温泉に溶けてしまっていないところだけ掬って、砂利の上に流す。それで仕舞いかと思いきや、とんでもないことに、その桶をギンコの前の湯に浮かせたのだ。
「な、何して…」
「だから…ここに零せと言ってるんだ。こうして…ほら…」
「ばっ、馬鹿か…、そんな…ッ。ふぅ…くッ、や、やめ…っ。離…せ。ぁあぁ!」
先端を引っ掻くように弾き、それから続けて、茎の根元から先端までをゆるゆるとしごき始めて、その勢いを徐々に速める。化野は特に動かなくとも、ギンコの抵抗と身悶えだけで、充分過ぎるほど奥が動いて、絞まって、快楽を受け取ることが出来た。
加えて、目の前で乱れる綺麗な白い髪。ほんの時々振り向いて、哀願するように彼を見る翡翠の瞳。目の前で汗の雫を浮かべる、真っ白な背中も。すべてが化野にとって愛しい宝だった。
ギンコにはもう理性など残っていないはずだったが、自身から零れ続ける白濁した液が、目の前の木桶にたまっていくのが、あまりに淫らな光景で、心が恥辱にまみれて堪らない。
一度出し尽くして止まったかと思っても、化野の指によって、それは何度でも幾らでも暴き出される。快楽自体と同様に、精液すらもまるで、尽きぬ泉から溢れるようだ。
「…も、もう…、もぅ……あだし…の…」
「うん…。もう終わる。もう少し、我慢してな」
後ろも前も、愛撫され尽くした場所がすべて、痺れているように感じるのは、それらが今も全部、ひくひくと痙攣し続けているからだ。そのひくつきの只中にいて、化野は実は二度目の射精をしようとしている。
快楽に溺れ切ったギンコは気付かないでいたが、すでに一度奥に放って、そのまま抜かずに昂ぶり、さらに今からもう一度。
化野はずっと掴んだままだったギンコのそれを、最後には酷く柔らかく
愛撫した。擦られ続けて、可哀想に赤くなってしまった性器を、癒してやるような気持ちで。
いい加減にもう、ギンコの方は勃たなくなっていたが、それでも敏感さは増していく一方だったから、形をなぞるようなその愛撫にも、ガクリと身を揺らして奥を絞める。
「ぁ、あぁ…」
「ん、うッ、…ギンコ。は…ぁ…」
放って、化野はゆっくりと身を離していく。だが、抜けてしまう一瞬前に、ギンコが泣きそうな顔で化野を振り向いて、か細い声で訴えた。
「だめだ、抜いちまったら…。こ、零しちま…」
「あー。まあ…。だが、このまま動けないしなぁ」
「でも…」
化野は片手でギンコの腰を支え、逆の手で湯に浮いている手ぬぐいを拾って、それを片手だけで出来る限り絞った。それからそれを広げ、ギンコの脚の間の、二人が繋がっている場所に押し付ける。
「も、ちょっと、脚開けないか…?」
「…んぅ…ぁ…」
「こらこら、感じろとは言ってない」
それでも身を震わせながら、ギンコは少しだけ脚を開いた。化野は手ぬぐいをぴったりとそこに押し付け、広げられ貫かれた穴をうまく塞ぎながら自身を抜き取る。
それでも零れそうだから、ギンコは必死になって脚を閉じ合わせ、そのせいでよろめいて、また化野に抱き寄せられた。
「支えててやるから、これ、押さえてそのまま上がれ」
元より二人とも、酷い湯当たりで、湯から上がったはいいが、すぐ傍の平らな岩の上に、ごろりと横になってしまう。ギンコも素っ裸の姿をさらす羞恥を、気にしながら動けない。
本当は脚の間に、手ぬぐいを挟んだままなのも恥ずかしいし、零れそうなのを、力を入れて止めているのももう限界に近かった。
しばしそのままでいてから、先に化野が身を起こす。ぼんやりと岩風呂の方を見て、それから目を見開き、無言で頭をぽりぽり掻いた。まずいことになった、とでも言いたそうな顔。
「…その…」
と、言ったのはギンコだ。ギンコはまだ起き上がれない様子。化野はギンコを振り向いて、幸いにして、なんとか届く場所にあった浴衣を、一枚ひっぱり、半ば広げて彼の傍に置いてやる。
「ど、どうすりゃいいんだ。結局…」
「んん。俺も今、気付いて困ってたとこだ。枝かなんかで届くかな、無理だろうな」
「…何の話をしてる。俺は、結局零しちまったから…と」
疲れ切ったギンコの体からは力が抜けて、零さないようにと苦労していた化野の精液は、彼のそこからみんな零れてしまっていた。
「あぁ、それか。それはな、桶で何度も湯を汲んで、なんとか洗い流すしかないだろう。そっちはな。でもその桶が」
化野の視線の先をギンコも見る。化野の言うのが、なんのことか判って、ギンコはそのまま絶句した。
さっき、淫らな用途で散々役に立ってくれた桶は、どうした加減でか、岩風呂の一番奥に流れて、最初二人が並んで浸かっていたあたりに浮いている。
それを取りにいくには、熱い湯にもう一度入らねばならず、伸びている二人にはあまりにきつい。
「お前のせいだぞ」
ぶっすりとギンコは言う。
「ギンコが最初から、あんなに零さなけりゃなぁ」
「お前のせいだ」
「だから、それはそもそも」
「そもそも? お前のせいだろう。違うのか」
「まぁ、なぁ」
「お前の」
繰り返すギンコをちらりと見て、化野は何故かにっこりと笑った。
「何笑ってるんだっ、お前の…っ」
「嬉しいぞ」
最初と同じ言葉で、化野は言った。
「嬉しい」
もう一度、ぽつりと言って、化野はふらふらと立ち上がる。危ない足取りで湯に入って行く化野を、ギンコは心配そうに眺め、自分も起き上がろうとしてまた真っ赤になった。
ギンコの体は、生々しい結合の証で濡れている。早く洗い流したいと思うと同時に、その性交の跡がギンコにとっては、どうにもこうにも。
ずっと聞こえていなかった竹の葉の音が、さらさらとギンコの耳に届いた。岩を伝う水の声も、耳にさらさらと響く。熱過ぎたが、湯は気持ちがよかった。
気付けば天に、月も出ている。
「俺だって、そりゃ嬉しいさ、この馬鹿が」
終
どーですかね、このエロさに点数をつけるとしたら、とかって馬鹿なことを聞いてみたり。そしてこのふたりの、ラブラブなホンワカな様子は。
いつもあまりにも切ないので、時には幸せそうなふたりを書きたいと思って…書いたわけではなくて、知らない間にそうなりましたんです。引きずられっぱなしでした、書いている間中何時間も。ハァヒィ。
これで昨日のエロ禁止チャットの、もやもやを綺麗に晴らしたぜっ、またすぐたまるけどっ。汗。楽しんでいただけましたら嬉しいです。
07/07/29