永遠のRUN
夢見てたんだ。
そう…ずっと。
捨てんな、って、お前がいつだか
遠まわしに言ってくれたっけ。
だから、てんじゃねぇさ。
やっぱ捨てられねぇ夢だったから、
捨て切れねぇで、追っかけた。
そうしてさっきまで、
俺はあそこに立ってた、
走ってた。
死に物狂いで飛びついて、
転んで、
倒されて、倒されて、倒されて、
息止まるほど苦しかったけど、
けど、満足だ、ここで死ねたらって、
思うくらいだぜ。
あぁ、お前、
お前はまだ、走ってるんだろ。
あのフィールドで…
「はっは…ぁ…ッ!」
どすん、て、重たいものが乗っかってきて、げぇ、て俺は思わず呻いた。全身打撲、肋骨二本いってて、右膝、左足首、左肩、いろいろぶっ壊れかけて、そんな俺に誰がいったい、こんな重てぇ…。重てぇ? 重たかねぇや。
軽いよ、防具つけたまんまだって、こんな軽い。
あぁ、ヒル魔、だ。
「カッ…。か…勝った…のかよ…っ」
「…聞くなバカ」
「あ、ごめ」
「謝んなバカ、それじゃ負けたみてぇじゃねー…」
全部を言わずに消えた言葉は、口移しのように舌にのせられた。のしかかって、それでもあまり重みかけないように、ベッドの脇に腕置いて、ヒル魔はハバシラの唇を塞ぐ。
ちゅ、と吸って、離して、余韻楽しむようにゆっくりとまた顔を寄せて、唇と唇を撫で合わせるように、首を小さく左右に揺らす。乾いた唇には、さっきまでハバシラも走ってたフィールドの土の匂いがした。
その匂いを吸い込んでるハバシラから、ヒル魔はやっと胸を離して、全身を覆っている防具を引き剥がしにかかっている。
「『進? ゴミだね!』っつてたっけなぁ、確かに」
あー、なんてこいつ意地悪なんだろ。そうハバシラは思った。ロクなこともできないで、怪我だらけで担架で運ばれた彼が、言い返せないことを選んで笑う。
「どんだけ凄ぇハタラキだったかなんて、あんまし見えなかったけどな」
そうだ、同じフィールド上だったって、ヒル魔とハバシラの居場所は殆どずっと離れてた。だけどハバシラは目を閉じて、無我夢中で走ってた間のことを思い出す。
あの時の。フィールドにいた間の…。すげぇ…って、思ったこの気持ち、どう言やぁわかる? きっと誰にも判らねぇ。あんなのは初めてだった。他のどんなことでもありえねぇ。あんな興奮、絶頂にも似たような、ヤバイ感覚。
ヒル魔の守りてぇゴール。奪いてぇゴール。投げたボール。それをおんなじ気持ちで守って攻めて追っかけて、体を張ってた気持ち。遠い場所から聞こえるお前の、声…。心…。一つだって、体全部で思って、バラバラになんねぇように、走り抜いた。死んでもかまわねぇ気持ちで、倒れるまで。
「なんか、…すっげぇ、すっげぇ……」
「……」
「すげぇ、んだ。ほんと。なんか、もうどう言っていいか、わかんねー…」
痣だらけの顔を天井に向けて、目を開いて呟いてるハバシラを、防具を全部外し終えたヒル魔が見ていた。髪から汗がぽたぽた、やっぱり泥だらけの顔で、肩すくめて、に、と綺麗に笑って、痣のあるハバシラの顔に触れた。鼻血の跡にも指先で触って、汗と泥で酷い髪にも触った。
「言わねぇでいいだろ、必要ねぇし」
ヒル魔はベッドの端に座り、華奢な体捻ってハバシラの顔に顔を寄せた。甘い息で彼の唇をくすぐって、笑って、言うのだ。
「あんな気持ちイイの知っちまったら、暫くセックス無しでいーかよ?」
「え…っ!? いや、そ、それは別だろ?!」
言いながら思った。あぁ、ヒル魔も感じたんだ。あの興奮を。他に比べられない感覚を。
ヒル魔は自分からまたキスしてくる。痛ぇの我慢して、なんとか背中に腕を回して、ハバシラも彼を求めた。全身痛ぇ中での気持ちよさ。快感。少し似てるけど、これを百倍にしても、フィールドで感じたアレには届かねぇよ。
あぁ、そうか、夢は叶ったんだ。
捨てねぇでよかった、って、
そう体が千切れそうなほど思う。
捨てんなって、お前がいつだか、
言ってくれた、あの。
「てめぇ…叶った、なんて思ってねぇだろな?」
「…えっ?」
「んなジジくせぇこと、思ってやがったんならコロスからな」
「いや、思ってねぇし!」
「たった一つきり叶ったって、次があんだ。次の次も、その次も」
ギラギラ光る目でヒル魔は言った。細いその腰に腕を回したまんま、ハバシラは思った。
そうか、
まだまだ走り止まねぇでいいんだ。
こいつを追いかけて、ずっと。
そうだ、それこそ永遠のRUN…。
ついて来いって、言わねぇでいいよ。
ちゃんと全部が伝わってる。
終
ついて来い、と(気持ちの上で)言われるハバシラさん。
それって攻としてどうよ? いいのいいの、幸せだから〜。
年内に出来ればアイシも! と思ってて、なんとか書けました。
判っていただけますでしょうか、あの戦いの後の二人。
いろいろ夢見て書いてますんで、原作とずれてましても
どうかご容赦をーーーーー!
今年一年ありがとうございました。ではでは、来年もどうぞ
よろしくお願いします。
09/12/31