恰好良いな 梅 仲間か




イチ
 
「恰好良いな、梅、仲間か」 

 俺は笑ってそう言った。悪事で集うた仲間でも、仲間は仲間。

 そんなふうに、当たり前みたいに、政も、梅も、皆。窺うような梅の視線を受けた時、心が、すう、と冷えるのが分かった。ほらな、俺だけ、皆とは違う。松が居なくて困るのは、調べさせてぇことがあるからってだけ。

 仲間ってのは何だ。いざという時、身を呈して助けにゆけるものだけが、その言葉を許されるんだろう。そんなら、おめぇは、おめぇたちは、俺の仲間か。俺を救いに来てくれるのか。
 
 そして俺は、逆の立場になった時…。

 あぁ、見えやしねぇさ。そんなもん。必死になって誰かを助ける俺なんか。ほんの欠片も、見えねぇな。






 情けねぇ。俺は…助けられてばかりだ、某の背で、松吉殿が言った。恩人が三人になっちまう、と、そうも言っていた。項垂れて苦しげに、悔やみばかりで声を震わせ。

 何故であろうか。そう思う。某以外の皆ならば、聞かずとも答えが分かるのだろうか。

 確かに助けられるのは己が弱いからだ。けれどその恩を返そうとする松吉殿の姿を、義理堅く立派だと思う。助けて貰ったことを、己の中で後悔にせぬようにすることが、きっと知らぬうちに人を、己を強くするのだ。

 助けて貰える自分であったことを、卑屈ではなく心に止めて、その人に甲斐もないと思われぬよう、ほんの半歩ずつでも、日々を前に、前に。そう、弥一殿のように、項垂れず、過去よりも今を大切にだ。

 不甲斐ない、何も出来ぬと思ってばかりでいたこれまでの己を、怠惰であったと今は思う事が出来る。それだけでも、某はきっと少し、前に進んだのだ。




イチ

 腹の底に、濃い膿色の何かが溜まって、澱んでいく。

 仲間、仲間って、きっとそんな言葉ばかり、口にして、心で思ってるんだろう。其処へは俺は近寄れねぇ。近寄りたくねぇ。水に油が馴染まぬように、くっきり分かれて浮いちまうのが、寄らなくたって分かるじゃねぇか。

 探って欲しい奴がいる。口を開いてそう言った時、どんな顔されるかと俺は見てた。開口一番それなのかと、そんな顔を見るつもりだった。そしたらどうだ。政みてぇにわかりやすい、またイチさんの為に働ける、恩を返せるってそんな顔。

 そして今度は、無事に済んだのかい、と、そう聞いた途端の顔に、俺は苛立った。

 心配したのだとでも思ったかい? そうじゃねぇよ、そうじゃねぇ。あぁ、心が冷える。固く冷たく、何にも染みなくなっていく。昔みてぇに、いや、ずっと俺は、そうだったじゃねぇか。

 面を被った。

 すっぽり顔を覆う面。息する隙間すら埋め尽くされるような面だ。どの隙間からでさえ、おめぇらは、おめぇは、俺を覗けねぇ。






 いつからなのか分からないが、何かが変わった、ような気がした。どこがどうなどとも某には分からぬ。けれど変わった。纏う空気が、人と言葉を交わすときの具体の距離とは違うものが。

 それを突き詰めて分かろうとすることは、某にはまだ難しかった。目まぐるしい日々の中、弥一殿は人に故を知られぬまま、ゆっくり、ゆっくりと、水に沈む葉のように…。

 お母さん、イチさんなんだけど。
 
 廊下で女たちが言っているのを聞いた。気のせいではなかったのだと思った。まだ、為せることが分からない。分からぬままに、まだ、迷い迷いで前へと、少しでも進んでおかねばと思った。

 五葉の、大切な仲間。
 否、それだけではない。
 それだけではない。

 助けられてばかりの某が、いつか、弥一殿を助けられるよう。
 












 とても久しぶりな五葉更新です。うん、こんな箇条書きみたいじゃなくってねぇ。ちゃんとしたお話が……書けませんでした。ちゃんと上の四つを繋げてひとつのお話にしてわかりやすく書けない自分の頭に、ガッゴッ!ってしたかったです。悔しいぃぃっ。

 本当に五葉は難しいですよ、難しいですよっ。本当に心より思う、まだ全然だめですねっ。アニメ欲しいがそれはそれで原作と違うし、マジで原作通りのアニメ作って欲しいんですっ。



14/06/01