告 白
不意に、告げられた言葉の意味が分からず、瞬いた。
否、言葉が分からなかった訳では、無い。
それは、この上なく簡単で、とても、単純で同時に複雑な意味をも孕む言葉であったのだけど。
ただ、それを告げた男が、過ぎる程に正直で、生真面目でもある事は、分かっていたので。
だから…。
分からなかったのは、それが、自身に向けられた…その理由の方。
否、それも、本当は知っている。
何となく、ではあったけれど、多分、本人が認識するよりも先に、その可能性には気付いていたので。
ただ、気のせいであれば、そうも思っていた。
自身ではなく、相手の為に。
どうか、勘違いであれ…と…。
それが、不快だったからでは、無く。
その言葉を、その意味を、受け止めてしまった後に、やはり勘違いだったと、間違いだったようだと、言われたくなくて。
けれど…。
真っ直ぐな眸と、真っ直ぐな言葉は、紛いようなく。
知らねぇぞ。
胸の内、吐き捨てる。
慌てた様子で、本気だから云々と…。
真っ赤な顔で、言い訳がましく、付け足すのを、見返しながら。
もう、聞いてしまった。
くっきりと、はっきりと。
一言一句、刻み付けられてしまった。
だから。
無かった事には、しないでくれ。
せめて、今くらい、ソレくらい、望んでも良いだろう?
なあ?
信じてもいない、天上の神様だか、運命だかに、問いかける。
せめて、今位。
ずっとなんて、良いやしないさ。
答えなど、返る筈もないから。
小さく、口端を引き上げて、腕を伸ばす。
近い距離にある、項を掴んで、引き寄せる。
慌てた様子で、裏返った声で名を呼んで来るから、小さく上がっていただけの口端は笑みに変わる。
心配しなくても、ぶん殴ったりはしねぇよ。
そうじゃなくて…。
「御託はいいよ、センセイ」
語尾を上げ、呼びかける。
そして、引き寄せた耳元に囁きかける。
息を、吹きかけて。
「で、アンタはどっちが良いんだ?」
俺を、抱きたいの?それとも、俺に抱かれたいの?
慣れた風に、問いかける。
事実、それは一面真実でもある。
一夜限りだったり、幾らかの間だったり、成り行きや、望まざるものも含め。
お綺麗な生き方をして来た訳ではないから、特別な事ではないと、嘯く。
刹那、息の触れる距離で、傷ついた様、顔を顰めるから、小さく笑みに苦いものが混じる。
あぁきっと、アンタには想像もつかないんだろう。
恋だとか愛だとか、だけが、その理由になる訳じゃない、事。
そんなモノを、伴いはしないモノがある事を、知識としては知っているかも知れないけれど。
アンタは、きっとそれを実感を伴って理解してやしない。
それが、悪い訳じゃない。
アンタは、それで良い。
でも。だから。
防衛本能だよ、センセイ?と、胸の内、呟いて…。
それでも、嫣然と、笑みを深めた。
「おまえのことが、好きなんだ」
そんな、真っ直ぐな言葉から、始めた事はないから…。
了
未来恵さんが、今年も「LEAVES」の誕生日にお祝いのお話を書いて下さいました。
毎年ありがとうございます(^///^)ノシ いつも頂くばかりでごめんねっ。
先生からギンコへ、真っ直ぐで歪みの無い「好き」の言葉。
彼とは全く違う人生を歩んできたギンコが、化野と自分とのその「違い」を意識する。
世慣れたギンコは、化野から捧げられた特別な言葉にも、赤くなったり上擦ったりすることはないけど、
それでも「はじめてだ」と意識をし、からかいに紛れさせながら、彼の告白を受け止めています。
自分にとってこれは、いつ終わるともしれない幸福。
だから失った時に、致死の傷を負わないように、
少しだけ心を斜に構え…。
淡々と静かで、切なくて、確かに少し幸せの香りもするような、
そんなこの物語が惑い星は好きです。
「LEAVES」の記念日に頂くことが出来て、本当に嬉しい。
そんな気持ちを込めながら、こちらに飾らせて頂きました。
ししょー、これからも頑張るから、未来さんも頑張ってね。
お祝いしてくれて、ありがとうございました。
惑い星
2018/03/03