指折り数えて




 酷く驚いたよう、目を瞠って、それから。
 一度…二度、瞬いて。
 それでも、彼が其処にそのまま立っていると。
 男は、クシャリと、笑った。
 顔全体で、とても嬉しそうに。
 そして。
「良く、来たな。まだ、寒かっただろう」
 笑みの形に、顔を歪めたまま、彼を迎え入れた。

 まさか、来るとは思ってなかったから、大したものは無いが…等と言いながら。
 丁度、時分時でもあったから、夕餉の膳を整え。
 後で酒を呑もう。お前が来たら…と思って、美味い地酒を分けて貰ったのがあるんだ。
 甲斐甲斐しく立ち働きながら、弾むような声で、男が言う。
 いつ来ても、歓迎してくれ、また、常から、笑顔の印象の強い男ではあるのだが。
 そうであるにしても。
 愉しげな様子が、いっそ見ていて面映く思える程に。
 ニコニコと、臆面の無い笑顔を覗かせて。
 心尽くしの膳を、囲みかけた所でも、あぁそうだ、こないだ貰った佃煮が絶品で…などと言いながら。
 また、座を立とうとする…から。
「ちったぁ落ち着け」
 苦笑いで、彼は云った。
 歓迎されているのは、ありがたいが、正直落ち着かない。
「こんだけあれば充分だ。飯は、温かい内に食った方が美味いんだろ」
 以前…何かの折に男自身に云われた言葉を引き合いにだして付け足した。
 実際、膳に並んだ夕餉は、充分過ぎる程充実している。
 一汁一菜どころか、糒や木の実、干し肉等で済ませる事もある日常を思えば、贅沢に過ぎる程。
 品数も豊富な上、湯気の立つ、出来立てであるのだから。
 重ねて云えば、そうか。なら…よいんだがっと。
 納得したような、していないような、曖昧な顔で上げかけた腰を下ろす。
 そのまま、他愛ない話をしながら。
 彼が前回発った後に里で起った事だとか、男が最近手に入れたモノの話だとか。
 或いは、彼の請負った或いは出逢った出来事の中で、男の嗜好に合いそうな話なんかを。
 話しながら、夕餉を平らげて、それから。
 片付けをしてる間に、風呂に入って来いと云われて、湯を借りて。
 芯から温まって、戻って来てみれば…。
 酒の用意を整えた男が、その傍らでなにやら指折り数えてた。
 それも、なんだか、とても嬉しげに。
 暫し、その、いっそ能天気なようにも見える顔を眺める。
 顔だけでなく、全身から、愉しげなように見える男の、相変わらず気配に気付かない鈍さもある様子を眺めるのも、愉しくなくはなかったが。
 ただ、一向に気付かない…ままなのは、少し、釈然としなくも無く。
「なに、数えてんだ」
 唐突に、声をかければ、驚いたように、振り向いて。
 そうして。
 数時間前に、彼を出迎えた時のよう、顔全体で笑って。
「いや、何。お前が、此処に来てくれるようになって、何度目の春なんだろうなっと思ってな」
 へろりっと、臆面なく、男が言うから…。
 目を、瞠って、それから、瞬いて。
 そのまま。
 彼は、その余りの衒い無さに、その場にしゃがみこみたくなった。














「A Planet」の未来 恵さんから頂きました、LEAVES11周年祝いのお話です。

 嬉しいですっ。なんて心温まるお話なんだろと思いました。自分が想う相手に、もしもこんなふうに思われて、黙っていれば、ただでも進んでいくその年月を「嬉しい」「幸せだ」という様を見せられたら…。

 でも凄く気持ちが分かるんだなぁ、、そうやって数えることが幸せな気持ちも、あれやこれや、もっと喜ばせたいと頑張っちゃう気持ちも//// 好きって、そういうものですよね〜。

 そして、思ったんですよ、私。嬉しげに指を折る化野先生の、来年も、再来年も、ギンコと、って、心から信じているその姿に「LEAVES」も、来年も、再来年も、さらにもっと先も続いて行けるように、やっていこう、って、改めてね。

 未来さんありがとうございます、私も頑張るので、未来さんもこれからも、沢山蟲師のお話を書いていってねv 

 こんなところでなんですが、シショーね、イサザを書いてる時、よく未来さんのこと思い出すんだよな。これも喜んでくれっかなー、なんて。未来さんの「おにいちゃん」好きは、実はシショーにやる気をくれているよ! ありがとう!!(^///^)ノシ
 

17/03/07